グローバルフォーラム
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「グローバルPMへの窓」(第97回)
蘇州にて Ph.D. 最終審査終える

グローバルPMアナリスト  田中 弘 [プロフィール] :12月号

 先月号で書いた、10月24日・25日西安で開催された中国プロジェクトマネジメント年次大会で、思いがけないことであったが、私と同じく急遽招集を受けたロシアマネジメント協会 (SOVNET) チェアマン Alexander Tov 氏と再会し 3 日間一緒に過ごした。Alexは筆者の盟友であるSOVNET 前会長の Professor Vladimir Voropaev の一番弟子であり、IPMA 副会長まで務め、SOVNETではSberbank (ロシア郵貯公社) など大企業の支援取り付けなど中興の祖である。親日家でP2Mを深く理解しており、SOVNETや上部機構であるIPMAでP2Mを度々紹介してもらっている。
 Alexからは来年 9 月にニズニノブゴロドで開催予定の政府PMフォーラムでの基調講演の打診を受けた。ニズニノブゴロドは旧ソ連時代に秘密のハイテク研究基地であった美しい都市で、2003年2月、気温-25度、一面深い雪のなかでの幻想的な SOVNET 年次大会で基調講演に行ったことがある。来年の大会も実現すれば是非参加してロシアの関係者達に当方の健在ぶりをアピールしたい。その手付ではあるまいが、世界一透明度が高いバイカル湖の湖底水で作ったウォッカを貰った。

Alexander Tov氏 Baikal Ice Water Vodka
Alexander Tov 氏 Baikal Ice Water Vodka

 西安から10月26日夜帰国し、31日夜には再度中国に行った。蘇州市でのフランス SKEMA Business School 中国人博士課程生 6 名の最終論文論述試験 (Ph.D. defence) の審査員を務めるために同校蘇州キャンパスを訪れた。
 私がスーパーバイザー (指導教授) を務めた学生と博士論文の精査を担当した清華大学講師である学生を含め 5 名が合格し Ph.D. をほぼ手中にした。
 博士研究というとトップ技術の研究を想像しがちであるが、それは自然科学の一部の博士課程生にのみ当てはまることで、社会科学に分類されるマネジメント科学の博士研究者は社会科学の研究手法を忠実に守り、ほぼ愚直にマネジメントの一の断面 (cross-section) の真実を解明することに明け暮れる。お作法を逸脱した研究はいかにユニークであろうと決して博士認定されることはない。
 博士研究の始まりは literature review (先行研究の論評) であり、査読付きのサイエンスジャーナルに掲載された論文や学術書など最低で百数十件程度を読破し、そこから研究の理論モデルを導く。実務上いかに優れていようと自分独自のアイデアで理論モデルを作ることは許されない。腕に覚えがある社会人学生が躓くのはこの点である。先行研究で採取した既存の理論モデルを基に解明すべき仮説 (hypothesis) を設定し、仮説を定量研究で検証する学術研究の伝統的なルートと、先行研究を敷衍し、提議 (proposition) をまず行い、この提議を定性分析と定量分析の組み合わせで検証し、概念モデルを提案し、後に続く他の研究に申し送りをするルートの 2 つに分けられる。
 今回最終論述に臨んだ学生のうち、5 名は中国国立名門大学の工学修士で、仮説を検証する道を採用し、私の学生 (観光学の修士) のみが、論文のテーマのユニークさゆえに提議の定性・定量検定を行って概念モデルを提案する道を選んだ。ルートの違いはテーマと研究の性格により、あるいは指導教員の流儀 (研究パラダイム) に影響される。
 最終論文がそのままで受理ということはまずなく、2 名の examiner (精査担当教員) および最終審査員 (jury) から出たコメントを基に部分修正を行うことが必要である。
 筆者の戦績は、スーパーバイザーで 2 名 (ラトビア、中国) examinerで 8 名 (カメルーン、イラン、クウェート、カタール、カタール、アブダビ、カナダ、中国) 全勝で推移している。

初日終了後の記念撮影 学生主催の謝恩ディナー (academic dinner)
初日終了後の記念撮影 学生主催の謝恩ディナー (academic dinner)

 SKEMAの蘇州キャンパスは 4 キロ四方はある蘇州の巨大なサイエンスパークの一角にある。ここには地元の大学のほか、シンガポール国立大学など海外の著名校の分校があり、SKEMAキャンパスはフランスの本校につぐ大きさで、6 つくらいのサブ専攻を有する修士課程生約 400名が学ぶ。うち 300名がフランス人かフランス語アフリカ諸国から来ているとのこと。左の写真の後ろのほうに写っているのが、授業の予習をしていたところを連れてきたフランス人修士学生達である。修士学生はここで中国ビジネスと中国語を 学び、中国通人材となる。キャンパス内もフランスのリール本校のキャンパスと全く同じ作りであった。

SKEMA Business School 蘇州キャンパス SKEMA Business School 蘇州キャンパス
SKEMA Business School 蘇州キャンパス

 蘇州からは、当初上海、パリ経由でセネガルのダカールに行き、外交フォーラムで招待講演を行う予定であったが、シーズンである蘇州蟹を何杯も食べているうちに歯科治療中で暫定措置のセメントの充填物が壊れ、それが炎症を起こし、痛さに耐えかねて辞退の申し入れを行って帰国した。セネガルにはどのみち、12月中旬から 2 週間教えに行くことになっている。   ♥♥♥


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