図書紹介
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新しい道徳 「いいことをすると気持ちよくなる」のはなぜか
(北野武著、(株) 幻冬舎、2015年9月25日発行、191ページ、第3刷、1,000円+税)

デニマルさん: 12月号

今回の本は、著者と題名とサブタイトルに注目して読んでみた。著者は、テレビで見ない日が無い位に露出度の高いプロデューサー的なタレントである。出版や映画監督としても活躍している著名人である。デビュー当時の漫才コンビでの鋭い突っ込みと風刺の効いた毒舌は、今でも健在である。還暦を過ぎた著者は、世間に迎合することなく「独自の視点と特異な分野」を持っている。その著者が、道徳を語っていることと、このタイミングに出版したことに興味がある。このタイミングとは、学校における「いじめ問題」が社会問題化していること。その対策として文科省は、今年 (2015年) 3 月から従来の道徳教育を教科外活動から「特別の教科道徳」に格上げしたことに関係があるか。現在、小中学校では約 35時間の道徳教育が行われている。その目標は、「自立心や自律性、自他の生命を尊重する心を育てる」とある。その教材「私たちの道徳」の内容について、著者は具体的な指摘をしながら、個人的な意見として謙虚に書いているが、納得する点が多く参考になる。

北野流の新しい道徳 (その 1 )    ――「道徳は、いいことをすること?」――
道徳とは、「人の踏み行うべき道で、道徳心は正邪善悪を判別して善行を行おうとする心」 (広辞苑) とある。ならば皆が善行をすれば、人々が気持ちよく快適に暮らせるようになるか。例えば、電車等の優先席で子供が年寄りに席を譲ることが、気持ちいい行為であろうか。席を譲った結果、年寄りから「ありがとう」と言われて、初めて「何だか、いい気分」と感じる。教育として教えられるのではなく、自分の経験から自然に学ぶものである。

北野流の新しい道徳 (その 2 )    ――「道徳は、誰のためにあるの?」――
道徳が「いじめ問題」と因果関係があるなら、いじめる側といじめられる側の人間がお互いに「自他を理解する」方法を学び合うのか。教える学校側は、「生命を尊重する心」を教えるのか。著者は、誰かに押しつけられた道徳に従うことに疑問を投げかけ、自らの経験から向上心のある芸人は自然にこの世界の掟を身に付け、放って置いても道徳的になるという。要は自分の人生を人任せにしないで、自分の行動を自分で律することと書いている。

北野流の新しい道徳 (その 3 )    ――「結局、新しい道徳って何?」――
時代が変わり技術が進歩しても、人と人との繋がりは変わらない。人間関係を円滑にするために我々はいいことをする。その結果「いい気持ち」になる。道徳も時代と共に常識が変わる様に変化する。古臭い大人が道徳を子供に押しつけても、世の中は良くならない。自分で考えて、自分で判断できる子供を育てることが肝要だと著者はいう。先ず、大人が自分の頭で考える必要があり、道徳を人任せにしない為に、この本を纏めたと結んでいる。

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