図書紹介
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佐治敬三と開高健 最強のふたり
(北康利著、(株) 講談社、2015年7月2日発行、477ページ、第1刷、1,800円+税)

デニマルさん: 11月号

今回紹介の本で一人はサントリーの経営者であり、もう一人は芥川賞作家として知られていて、この二人の関係が何故最強なのかを色々と紐解いている。先ず、ウィスキー等の洋酒会社の成長発展を支えた経営者の英知と苦悩の足跡。次に、コピーライターが会社勤めの傍ら作家に進化していくプロセス。更に二人の関係から創造されたものが、一時代のコマーシャル文化として現在でも多くの人の記憶に残っている。その中に「人間らしくやりたいな」「トリスを飲んでハワイ行こう」等々がある。当時ウィスキーが未だ日本に普及していない頃、トリスバーや白ラベルと言った言葉を日本に定着させている。今やサントリーウィスキーは世界のトップブランドで、当時庶民憧れの洋酒ジョニーウォーカ (赤ラベル等々) を凌いでいる。この本は、そんな戦後の洋酒文化と人の強い繋がりを纏めた小説である。著者は、「白洲次郎、占領を背負った男」 (山本七平賞を受賞) や福沢諭吉、吉田茂、西郷隆盛等々の人物像を多くの資料から独自の切り口で描いた作品を多く書いている。

佐治敬三            ――ウィスキーから文化創造の経営者――
佐冶氏は、サントリーの二代目経営者である。初代が手掛けたウィスキーを世界ブランドに成長させた。それとビール事業の黒字化と売上高を日本一にする偉業を成し遂げている。ビールといえば、「一番搾り」と「スーパードライ」であり、その壁は相当高い。しかし、それと戦った秘訣は、氏の「やってみなはれ」という社員の自主性を重んじた経営理念ではなかったか。ビールを含む飲料売上高の日本一達成は、氏が亡くなって15年後であった

開高健             ――コピーライターから芥川賞作家――
開高氏が芥川賞を受賞したのは、サントリー勤務の28歳の時である。当時は、会社の宣伝誌「洋酒天国」の編集発行人であった。この冊子は、会社の宣伝を全くせず、面白いタメになると隠れた人気があった。芥川賞受賞後は、会社嘱託となり文筆活動に専念し、海外での現地取材の「ベトナム戦記」や「輝ける闇」や、世界中で釣りを楽しむ「フィッシュ・オン」等を残している。佐治氏とは会社関係を超えた強い絆で、氏が亡くなるまで続いた。

寿屋 (サントリー) 宣伝部    ――ふたりを結ぶ最強の絆 (向獅子)――
サントリーは創業時「寿屋」と称し、1963年 (昭和38年) に現在の社名となった。この社名は諸説あるが、「赤玉ポートワイン」の赤玉を太陽 (SUN) と創業者「鳥井」の名を併せたという。開高氏が所属した当時の宣伝部には、「アンクルトリス」生みの親の柳原良平氏や後の直木賞作家・山口瞳氏も居た。この宣伝部を陰で支えた経営者・佐治氏と平社員の開高氏は、サントリーの商標である「向獅子」の如く二つ物が一つとなって永続していた。

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