図書紹介
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牛と土 福島、3・11その後
(眞並恭介著、(株)集英社、2015年3月10日発行、269ページ、第1刷、1,500円+税)

デニマルさん: 10月号

この本は、今年7月に講談社ノンフィクション賞を受賞している。この賞は、ノンフィクションを対象とした文学賞で、第1回目が柳田邦男著「ガン回廊の光と影」と立花隆著「日本共産党研究」が共同受賞している。今年で37回目であるが、実は3年前にここで紹介した大鹿靖明著「メルトダウン、ドキュメント福島第一原発事故」が受賞していた。筆者がこの本を紹介したのが2012年4月で、受賞発表が同年7月であったのでその点を書く事が出来なかった。今回紹介の本は、副題にもある通り3・11の福島原発事故で福島県に残された牛と牛飼い (牧場で牛の世話をする人) のドキュンメンタリー物語である。東日本大震災で被災した動物で犬や猫等は人と共に避難出来た。しかし、牛や豚や鶏等の家畜類は、被災地にそのまま残された。その中でも牛だけは助けようと牧場主や牛飼いや獣医等が地道な活動を続けた。この地道な活動記録は、被災土壌や牛等の生物と放射能の関係を知る貴重なデ-タである。ここで紹介された事例が役立つ事を期待したい。

警戒区域の牛はどうなったか      ――安楽死という殺処分――
2011年3月11日東日本大震災、そして福島第一原発がメルトダウンした。その結果、原発から半径20キロ圏内は警戒区域に指定され、住民は避難を余儀なくされた。そこで約3500頭の牛が取り残された。その後、政府が出した指示は、安楽死という刹処分だった。この指示で多くの牛は処分されたが、これに同意しない牧場主等は、独自の方法で飼育を続けた。この本は、立入り禁止区域でどう牛を守り、500頭近い牛が生き残ったかを書いている。

帰還困難区域の牛飼いたち       ――牛と土を守る挑戦――
飼育を決意した牛飼いたちは、牛に餌を与える為に帰還困難区域に毎回許可を受けての立入である。これらの牛は被爆しているので商品価値がない。更に牧場が機能していないので収入もない。この厳しい状況下で牛を生かし、故郷を守る意義を苦しみ模索した。その結論は、雑草が繁る田畑に牛を放牧することで除草が出来る。そこに牛糞が土を豊かにして、農地として使用出来る可能性を見出した。牛と土地を守る牛飼いの苦しい挑戦である。

被爆の大地はどうなる         ――牛と人間の長い戦い――
原発事故で飛散した放射性物質が動物や人間や土壌にどう影響するか、阪大核物理研究センターがデ-タ収集している。全国2200ヶ所、11,000個の土壌試料は、福島の汚染土デ-タも含め集約されている。そして被爆した牛が食べる草から糞を調べ土壌汚染の確認もしている。研究者たちは、飼育されている牛の被爆状況や土壌の追跡調査もしている。原発の廃炉作業と同様に、放射能被爆の諸々の影響を調べる事も真の復興を目指す一環である。

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