ぼくらの民主主義なんだぜ
(高橋源一郎著、朝日新聞出版、2015年5月30日発行、255ページ、第1刷、780円+税)
デニマルさん: 9月号
今回紹介の本は、今年8月が戦後70年の節目にあたることに少し関係付けて読んでみた。戦後の首相は「戦争に対する国家責任」の意志表示を、50年に村山談話、60年に小泉談話、そして今年安倍談話として継承された。特に、今年は「戦後レジームからの脱却」との関係が注目された。そのタイミングに新聞各社が戦後70年をフォーカスして特別企画記事を連載した。朝日新聞が「時代のしるし」、毎日新聞が「数字は証言する」、読売新聞が「戦争責任を検証する」であった。共に戦後70年間を色々な切り口で振り返っている。現在、国民の75%が戦後生れで、戦争を知らない人が大多数を占める。この節目の年に、戦後の生活・文化等があたり前の中、改めて多くの人が歴史を振り返るいい機会であった。そして我々にとってごく普通の民主主義を身近な問題から紐解いて書いているのが、今回の本である。著者は、異色の経歴を持つ作家であり大学教授である。第 1 回目の三島由紀夫賞、2002年「日本文学盛哀史」で伊藤整文学賞を受賞し、競馬評論家としても活躍している。
高橋流の民主主義 (その 1 ) ――スローな民主主義――
この本は、著者がA社で連載した論壇時評を纏めたものである。あとがきにもあるが、作家が論壇時評 (その時々の話題を論評) することに抵抗を感じていた。しかし異色の経歴が生かされて、独自の視点の民主主義を論じている。3・11後の原発事故から、民主主義の欠陥を炙り出したと指摘している。これから長い期間を要する「廃炉」の技術的な論議を情報公開と透明性を持って「結論を急がない新たな民主主義」の可能性を指摘している。
高橋流の民主主義 (その 2 ) ――単なるシステムじゃない――
重度身障者を持つ親が新たな施設造りにチャレンジした映画「普通に生きる」を論じている。教育とは何か。親や先生が子供や生徒を教えるのではなく、弱者や小さき者が強くて大きな者を動かし、共に学び成長する教育の本質 (教育=共育とも認識出来る) がある。選挙民によって選ばれた政治家が、いつか強き大きな者となって弱き小さな市民を支配する。政治家も国民も相互に「学び成長する」双方向の制度こそが民主主義であると書いている。
高橋流の民主主義 (その 3 ) ――ぼくらの民主主義とは何か――
民主主義は多数派が全てを決定し、少数派はそれに従う制度である。多くの異なる考え方や習慣を持った人が、同じ場で一緒に結論を出す制度だ。全員一致や全会一致が成立しなければ、結論をどう出すか。その結論を出す過程で、夫々が納得する方法を見出すのが、民主主義ではないか。政治でも組織でも友人間でも家族内でも決定を下す場面で、夫々の民主主義が存在する。だから自分たち流の民主主義の認識こそが必要と著者は結んでいる。
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