PM研究・研修部会
先号   次号

IPMA OCB概要解説
~組織のCompetence Baselineと組織認証

PM研究・研修部会 坪井 隆 [プロフィール] : 11月号

1.  はじめに
 IPMA®が定めるPM標準のICB (IPMA Competence Baseline) について、PMAJでは2014年1月にIPMA® (International Project Management Association、国際プロジェクトマネジメント協会) と協定を結び、当部会において翻訳を行ってきた。現在は定期的にICBの解説講座も行っている。また、先日のセミナーでは、ICBのコンサルタント版である ICBC (Addition to the IPMA Competence Baseline for PM Consultants) を紹介したところである。本セミナーはこれらの活動の一環として、IPMA®が組織のCompetence Baselineとして定めているOCB (IPMA Organisational Competence Baseline) を紹介する。
 OCBでは、組織に求められる18のコンピテンス要素を定めている。また、組織コンピテンスの評価と開発には、IPMA-Delta®を取り入れている。ここでは、これらのコンピテンス要素や組織認証の仕組みについてその概要を解説する。

2.  OCB概要
 プロジェクトをとりまく環境はますます複雑化している。また、高品質、短納期、価格競争力に対するステークホルダーの要求も強くなってきている。このような状況に対応すべく、プロジェクトマネジメント (PM) は個人コンピテンスや最新技術等により著しく発達してきた。にもかかわらず失敗するプロジェクトが後を絶たないのは何故だろうか?そこでIPMAは組織に着目しOCBを提唱している。
 OCBはPMにおける組織コンピテンスの概念を示したものであり、概要は以下の通りである。
OCBの主目的は、プロジェクト、プログラム、ポートフォリオ (PP & P) のマネジメントにおいて組織が持つべき役割を明確に示すこと。
OCBは“いかにすべきか”ではなく“何をすべきか”を提示。
OCBは 5 つの組織コンピテンスグループと 18 のコンピテンス要素を定義。
OCBは、上級幹部、マネジャー、コンサルタント等の役割を示す。

3.  組織コンピテンス
 組織コンピテンスを説明する前に、先ずはPMにおける組織について考えてみる。図表 1 に示されるように、組織には経済、科学といった外部環境と機能部門やプロジェクト、プログラム、ポートフォリオ (PP & P) の組織といった内部組織がある。個人と比較した場合、組織には内部外部との様々な係わりがある。

図表 1 PMにおける組織的観点
図表 1 PMにおける組織的観点

 コンピテンスは個人だけでなく組織にもあてはまる。IPMAでは、組織コンピテンスを統合する能力としている。具体的には、ガバナンスとマネジメントシステムをベースとして、PP & P に関係する人、資源、プロセス・構造・文化を統合するための組織の能力である。
 図表 2 にPMにおける組織コンピテンスと取り巻く環境を示す。PMにおける組織コンピテンスでは、組織全体のミッション、ビジョン、戦略を共有し、ベクトルを合わせることが必要である。そして PP & P 組織におけるガバナンスとマネジメントシステムのもとで、人、資源、組織アライメントのコンピテンスを発揮して組織から成果をもたらすことが狙いである。さらに、一連の流れから学習したものを活かし、継続して組織を向上させることが重要である。

図表 2 PMにおける組織コンピテンスと取り巻く環境
図表 2 PMにおける組織コンピテンスと取り巻く環境

 図表 3 に 5 つの組織コンピテンスグループとその概要を示す。主な機能は次の通りである。
 PP & P ガバナンスでは、コーポレートガバナンスの一部として、組織のミッション、ビジョン、戦略に基づいて PP & P ミッション、ビジョン、戦略を構築し、リーダーシップやパフォーマンスを発揮して長期的な組織コンピテンスの開発をリードする。PP & P マネジメントでは、組織のマネジメントシステムの一部として、PP & P の各標準を作成し利用する。PP & P 組織アライメントでは、プロセス、構造、文化の視点から内部・外部関係者と整合性をとる。PP & P 資源では、PP & P に必要な資源 (ファイナンス、ノウハウ、資機材、エネルギー等) について、現状と要求事項の差を確認し、資源の獲得や開発を行う。PP & P 人的コンピテンスでは、ICBに示されている個人コンピテンス等について、現状と要求事項の差を確認し、人材の獲得やコーチングやトレーニングによる開発を行う。
 各コンピテンスグループには、図表 2 に示されているように 3 つまたは 4 つのコンピテンス要素があるが、ここでは詳細説明を省略する。

図表 3 コンピテンスグループと概要
図表 3 コンピテンスグループと概要

4.  組織コンピテンスの開発スキーム
 組織コンピテンスの開発にあたり、先ずはコンピテンスを評価することが必要である。その手段として、図表 4 にIPMAデルタモデルを示す。IPMAデルタは、360°の視点から組織全体のPMを評価するものである。IPMAデルタは、個人、プロジェクト、組織 (I/P/O) モジュールから構成され、それぞれのコンピテンスの評価に用いられる。モジュール I では、ICB 3.0 を用いてチームメンバー等の個人についてPMコンピテンスを評価する。モジュール P では、プロジェクトエクセレンスモデルを用いて、プロジェクトやプログラムのPMコンピテンスと結果を評価する。また、モジュール O では、OCBに基づいてPMにおける組織コンピテンスを評価する。これらの評価結果は、”デルタ”として現状の成熟度クラスと目標クラスとのギャップにより表わされる。

図表 4 IPMAデルタ モデル (I/P/Oモジュール)
図表 4 IPMAデルタ モデル (I/P/O モジュール)

 次に、組織コンピテンスの開発スキームについて述べる。PMにおける組織コンピテンスの開発は、持続的に行われる必要がある。毎年 PP & P の最新状況を評価し、次の予算年に向けた目標を立てる。図表 5 に示すように、評価は 5 つの各コンピテンスグループ、つまり PP & P ガバナンス、PP & P マネジメント、PP & P 組織アライメント、PP & P 人的コンピテンス、PP & P 資源の視点からされる。

図表 5 組織コンピテンスの開発スキーム
図表 5 組織コンピテンスの開発スキーム

5. おわりに
 コンピテンスという言葉から思い浮かぶものとして、個人のスキルを挙げる方が多いのではないだろうか。その一方でPMによる成果がどのようにもたらされるかを考えた場合、組織を無視することはできない。IPMAデルタにより提唱されているように、個人、プロジェクト、組織のそれぞれのコンピテンスに向き合い、開発することが必要である。その結果、組織全体のバランスがとれ、大きな力を発揮できるようになると考えられる。

参考文献
“OCB - Organizational Competence Baseline, Version 1.0”,  IPMA, 2013
“ICB - IPMA Competence Baseline, Version 3.0”,  IPMA, 2006
“IPMA Delta and IPMA Organisational Competence Baseline (OCB) : New approaches in the field of project management maturity”,  Sergey D. Bushuyev/Reinhard Wagner,  INTERNATIONAL JOURNAL OF MANAGING PROJECTS IN BUSINESS,  2014

以上

ページトップに戻る