PM研究・研修部会
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ICBC概要解説
-プロジェクトマネジャーにも役立つ、PMコンサルタントのCompetence Baseline-

PMAJ PM研究・研修部会員 (株)JSOL シニアコンサルタント 大泉 洋一 [プロフィール] : 9月号

1. はじめに
 PMAJでは2014年1月にIPMA® (International Project Management Association、国際プロジェクトマネジメント協会) と協定を結び、PM研究・研修部会 (以降「当部会」) においてIPMA® が定めるPM標準であるICB (IPMA Competence Baseline) の翻訳を行った。その成果は、昨年9月に実施されたPMシンポジウム2014の中で紹介し、翻訳版も聴講者に配布した。その成果の概要は昨年10月号の本欄でも照会させて頂いた。現在はICB概要解説講座を定期的に行い、本年9月3、4日に行われるPMシンポジウム2015においても、以降当部会で継続的に検討を進めてきた内容も含めてICBの研究成果を発表し、全面的に見直しを行った翻訳版の配布も予定している。
 去る7月18日に当部会の主催するセミナーにおいて、IPMA®が定めるPMコンサルタントに関する標準であるICBC (Addition to the IPMA Competence Baseline for PM Consultants) を取り上げ、事例も含めてその概要を紹介した(講師は日立製作所の秋山孝之氏と筆者)。来る9月17日には、IPMA® が定める組織の Competence Baseline である OCB を取り上げることとしている。今回取り上げるテーマは、このようなIPMA®に関する我々の研究活動の一環として位置づけられるものである。本稿では、7月に行ったセミナーで発表した我々の成果をコンパクトにまとめて報告する。

2. ICBCの概要
 ICBC (Addition to the IPMA Competence Baseline for PM Consultants) は2011年6月、ICB3.0が公開された2006年6月の5年後に公開されたIPMA®が定めるPMコンサルタントのためのコンピテンスベースラインである。その名に”Addition to”とある通り、ICB (IPMA Competence Baseline) に加えて、PMコンサルタントに求められるコンピテンスである。即ち、PMコンサルタントは、プロジェクトマネジャー (以下、PMと略) に求められるICBの46のコンピテンス要素に加え、ICBCが定める14のコンピテンス要素 (「4.ICBCのコンピテンス要素」に後述) が求められることになる。
 ICBCでは、PMコンサルタントを「プロジェクト、プログラム、ポートフォリオをリードするコンサルタント」、「組織又は戦略レベルにおいて、PMコンサルティングを遂行する」と定義している。図 1 は、PMコンサルタントの職務領域を表したものである。ここに示されている通り、プロジェクトレベルのPMC (Project Management Consultant) と戦略/組織/プログラムレベルのPPMC (Programme and Portfolio Management Consultant) に分けられる。プロジェクト/プログラムをリードする立場での活動の他、PMO (Project Management Office) を支援する活動、戦略レベルで組織を支援する立場での活動が規定されている。

図 1 PMコンサルタントの職務領域
図 1 PMコンサルタントの職務領域

 図 2 はPMコンサルタント、PM、マネジメントコンサルタント (所謂、経営コンサルタント) の関係を示したものである。図示されている通り、これらは互いに重なっており、PMコンサルタントには、PMとマネジメントコンサルタントに求められる要素も必要であることが解る。

図 2 PMコンサルタント、PM、マネジメントコンサルタントの関係
図 2 PMコンサルタント、PM、マネジメントコンサルタントの関係

 IPMA®では、PMコンサルタントに関する認証の仕組みも整備している。図 3 に示す通り、IPMA®がベースラインと認証システムを制定し、M.A. (Member Association) が認証機関を設置し、認証を行う仕組みは、ICBの認証システムと基本的に同じである (ICBの認証の仕組みについては、「4. 資格認証システム (Certification system) 」を参照されたい)。

図 3 PMコンサルタントの資格認証
図 3 PMコンサルタントの資格認証

3. ICBCのコンピテンス要素
 前述の通り、ICBCではPMコンサルタントに求められるコンピテンスとして、PMに求められるICBの46のコンピテンス要素に加え、14のコンピテンス要素を定めている (表 1 )。これらはICBと同じ「技術コンピテンス (Technical Competence Elements) 」「行動コンピテンス (Behavioural Competence Elements) 」「状況コンピテンス (Contextual Competence Elements) 」の 3 つの領域に分類されている。ここでは紙面の都合もあるので各コンピテンス要素の詳述は別の機会に譲り、3つの領域をICBの各領域で定義されているコンピテンス要素に照らして概観する。
 技術コンピテンス領域では、C1.1 コンサルティング戦略とコンセプト (Consulting strategies and concepts)、C1.3 顧客獲得戦略 (Acquisition strategies)、C1.4 組織分析と要求事項の明確化 (Organisational analysis and clarification of requests) 等、6つのコンピテンス要素を定めている。ICBの技術コンピテンス領域では、1.04 リスクと好機、1.05 品質、1.10 スコープと成果物、1.11 タイムとプロジェクトフェーズ等、プロジェクトマネジメントのスキル要素を中心に定めているのに対し、ICBCでは、組織の戦略的な意図の把握や組織の特性の分析等、マネジメントコンサルタントと共通するスキル要素を定めていることが解る。
 行動コンピテンス領域では、C2.1 プロのコンサルタントとしての態度と振る舞い (Professional consultant attitude and behaviour)、C2.3 リレーションシップマネジメント (Relationship management) 等の 4 つのコンピテンス要素を定めている。これらは、ICBの行動コンピテンス要素である 2.01 リーダーシップ、2.03 セルフコントロール、2.08 結果指向、等と類似している。またICBでは技術コンピテンスとして定義している 1.02 利害関係者などとも関連している。ICBCで定めているコンピテンス要素はこれらをより包括的に捉え、昇華させた概念として我々は捉えている。
 状況コンピテンス領域では、C3.1 組織の戦略・構成・文化 (Strategies, structures and cultures of organisations)、C3.4 組織における政治力及び権力 (Micro politics and power in organisations) 等の 4 つのコンピテンス要素を定めている。これらは、ICBの状況コンピテンス要素が 3.05 常設組織、3.08 要員マネジメント、3.10 財務、等のように主にライン組織との関係性を規定しているのに対し、より組織の中枢の根深い領域をターゲットとして捉えることを求めていることが解る。

表 1 PMコンサルタントに求められるコンピテンス要素
表 1  PMコンサルタントに求められるコンピテンス要素

4. 考察
 今回我々はIPMA®のICBCについて、以下 2 つの視点から観察した。①実際にプロジェクト現場で活動するPMコンサルタントの実態に即し役立つものであるか、②PMコンサルに求められるコンピテンス要素はPMにとっても役立つ道具たり得るか。結論を先に言えば、両者とも”YES”が我々の見解である。
 まず一つ目の論点については、講師が過去に携わった実際のプロジェクトに当てはめ、プロジェクトの成功要因をICBCが定めるコンピテンス要素との関係から観察した。ここではあくまでも 1 つの事例に照らして観察しただけであり、客観的な評価としての妥当性を示すものではないが、我々の実感としては、ICBCが定めるコンピテンス要素はプロジェクト現場の実態に即したものであり、成功要因に結び付くものであるとの感触を得ている。
 もう一つの論点、PMにとっても役立つ道具たり得るか。プロジェクトマネジメントを「限られた期間、予算で成果物を作成するためのマネジメント」と捉えた場合、PMコンサルタントのコンピテンス要素は必ずしもPMには必要なものではないと考えている。一方で、プロジェクトマネジメントを上記に加え、「戦略的意図、有機的な組織における価値の創出」等を実現することも含めたマネジメントと捉えた場合、PMコンサルタントに求められるコンピテンスはPMにとっても有用な武器になるものであると我々は考えている。なぜなら、前項で説明したPMコンサルタントのコンピテンス要素の多くは、プロジェクトオーナー (=経営層) の思考法をプロジェクトマネジメントの視点から捉えたものである。即ち、PMはこの武器を手にすることにより、プロジェクトオーナーの視点に近づくことが出来るであろう。プロジェクトオーナーの委託を受けたPMという立場で物事を捉える場合、委託された事項 (限られた期間、予算で成果物を作成) を完遂することにとらわれ、プロジェクトオーナーが真に重要視している戦略的意図を見過ごしてしまう危険性がある。PMは、PMコンサルタントのコンピテンスを持つことで、プロジェクトオーナーの視点からその戦略的意図を捉え、より本質的な観点から判断することが可能になると考える。
 なおICBでは、プロジェクトの成功を「さまざまな利害関係者によるプロジェクトの成果に対する評価」と定義している。更に、「この定義は、『スケジュールと予算内でプロジェクトの成果物を生み出すこと』より挑戦的である」としている。このようなIPMA®の考え方からも、真にプロジェクトを成功に導くためには、単に「スケジュールと予算内でプロジェクトの成果物を生み出すこと」だけでは不十分であり、PMコンサルタントのコンピテンスがPMにも役立つものであることを理解頂けると思う。本稿で紹介する内容がプロジェクトの第一線で活躍するPMに何らかの気づきを与え、我が国のプロジェクトマネジメントの発展に寄与することを期待している。

以上

[参考文献]
"ICBC - Addition to the IPMA Competence Baseline for PM Consultants, Version 1.0", IPMA, 2011
"ICB - IPMA Competence Baseline, Version 3.0", IPMA, 2006
※ 「IPMA」「IPMA ICB」は、International Project Management Association (IPMA)の登録商標です。

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