プロジェクト契約書とマネジメントの基本所作
Aj ビジネス・プランニング 山崎 正敏: 8月号
これまで、建設プロジェクトや情報システム開発プロジェクトのマネジメントを経験してきた。そして12年前からは、そういったプロジェクトを支援することを生業としている。本ジャーナルで私見を述べたいと思う。
私が経験上気づいている限定的な視点であるが、日本での情報システム開発プロジェクトにおいては、プロジェクトマネージャをはじめ契約書を読み込んでいるメンバーがほとんどいないということである。確かにこれまで見てきた契約書は薄っぺらで、ほとんどが過去のプロジェクトの契約書の焼きなおしである。問題なくプロジェクトを完了することができれば、読む価値を感じることがないかも知れない。しかし、いざトラブルが生じた場合、まずは契約書の条項にあたることになる。
また、契約書にはプロジェクトの進め方の基本事項も記載されている。例えば、「責任者」という条項である。「甲及び乙は、各個別契約締結後速やかに、各個別契約における各自の責任者をそれぞれ選任し、互いに書面により、相手方に通知する。」という規定である。「プロジェクトマネージャ (PM) 」の通知である。要は契約締結者 (多くの場合は、代表取締役) による、当該プロジェクトの遂行する責任と権限は任命された「責任者」に委譲することの表明である。このことによって、プロジェクトは「責任者」の意思決定によって進めることができる。いちいち、契約締結者の意思決定を待つ必要はない。「責任者」の意思決定は署名あるいは捺印で確認できる。
ところが、実態としてこのような通知を正式に実行しているプロジェクトは、私が見た限りではほとんどない。メンバーは契約書を読んでいないので、そんなことも知らない。組織表の中に肩書きと共に氏名が記載されているだけである。そのまま、なし崩し的にプロジェクトは開始される。(ただ、モデル契約書のように「なお、当該個別契約において双方の体制図を定め、当該体制図に当該責任者を記載することをもって通知に代えることができるものとする。」という記述がある場合はそのかぎりではない。)
海外の建設プロジェクトであれば、たいてい契約書にはこのような条項があるので、当然にPMの氏名を通知し、さらにはそのプロジェクトで使用する署名 (サイン) も通知する。当然にPMが交代した場合、長期休暇のため代行者を立てる場合などにもきっちり通知する。
結局どのような場合でも契約書に規定がある限り書面を作成し通知することが責務である。例えば「契約書第 9 条 (責任者) に基づき、下記の者を責任者として任命し、通知いたします。」(使用するサインあるいは印鑑の印影も通知するのがより良い。)
その他、変更、検収や保証にかかわる手続きについても、簡単ではあるが契約書に規定されている。多くの場合、実務で使うには舌足らずな表現であるので、両者が誤解なく手続きを進めることができるように、契約書の条項を参照した上で手続き、使用する帳票などを詳細化して合意をとるのがいいだろう。
ここで言いたいことは、マネジメントの基本所作として契約書をよく読み込もうということ、そして契約記載事項を確実に実行しようということ、さらには、特にPM職にある者は、公表されている経済産業省のモデル契約者などを通じて、契約についてよく勉強しようということである。
以上
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