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「日本再生“アベノミクス”を成功させるために何が必要か」 (20)
地政学的戦略を考えよう (8)

東京P2M研究会 渡辺 貢成: 11月号

A. 9月号、10月号はアベノミクスで実施すべき観光戦略の話をデービット・アトキンソン著「新・観光立国論」 2015.6、寺島実郎著「新・観光立国論」 2015.6.初版をベースにまとめてくれた。だが、驚いたことに日本人は目標が見えると、実に動きがはやい。すかさず観光立国系の本が出版された。牧野知弘著「インバウンドの衝撃」 2015.10.初版、日経MOOK「訪日外国人インバウンド攻略の鉄則」 2015.9、ジャパン・クラス「外国人から見たニッポンは素敵だ!」 2015.5.と出版されている。これを読むと日本の観光ビジネスはウハウハという感じがするがどうかね。
B. 日本人は世界の動きを戦略的に認識しているのか? :
私は日本組織 (含む産官学) のグローバル市場へのアプローチに大きな欠陥があると考えています。わかり易い言葉で言いますと、国内から望遠鏡でグローバル市場をながめ、これまで勉強した範囲内の戦略を駆使して、経済戦争に臨んでいます。家電業界は新興国各国に対するマーケティングなしに、世界同時、同一商品の販売に踏み切り、勝利を確信していたが、結果はサムスンにしてやられました。サムスンは新興国消費者の潜在ニーズをつかんで、日本製新商品のリ・エンジニアリング商品を提供し、日本企業に勝利しました。以上は「B to C」産業の問題ですが、「B to B」世界の競争で考えてみます。日本ゼネコンは立派な技術力を有しながらグローバル市場での競争力を持っていません。理由は『日本ムラ社会』の優等生だからです。談合体質と日本的二重構造契約 (甲・乙契約) 社会のボス的存在です。世界の契約はA,B双方対等ですが、甲・乙関係契約は上下関係契約です。契約の基本は「トラブルが発生した時は双方誠意をもって解決する」という条文が決め手です。乙は「長年の付き合いではないか、この次に面倒見るよ」という甲の主張に反論できません。しかし海外の現場工事では対等契約です。甲・乙式契約では仕様書があいまいにしてあります。しかし、この曖昧さが命取りとなり、追加工事の支払いで本工事を黒字にすることが困難となっています。また、顧客との本契約 (顧客との契約) でも、綿密な契約仕様を固めることをしないで契約するために、当然得られる追加経費の獲得ができないことが多く、工事に成功して、事業に失敗するケースを多く経験しています。
 では、日本企業の「経営のIT化ビジネス」はどのような進展となっているでしょうか。日本企業は自らの力で経営改革をすることが求められています。この点に関しては谷島 宣之著 『ソフトを他人につくらせる日本、自分でつくる米国~「経営と技術」からみた近代化の諸問題~』 に日本企業のIT化の遅れが記されている。ITは現在の企業経営の戦略性を高める武器です。経済産業省の指針では経営者が自社のビジョンを提示せよと示唆しています。しかし、実績的には日本企業の多くの経営者は自社のビジョンを出すことなく、コンサルタント企業に自社のITビジョン (経営のデジタル化) を委ねてきました。そこで実施されたのは米国流デジタル経営のパッケージ・ソリューションソフトです。導入はしましたが、現実の経営はアナログ経営です。現場がこれでは使えないと、折角のデジタル化ソフトは日本流にカストマイズしてしまいました。
 さて、これから起こる経営は第二次グローバリゼーションと呼ばれるもので、その戦略構想は 【電子・ビジネスモデル (バーチャル→リアル) 空間】 型戦略を駆使して、グローバル競争に勝つことを目指しています。ここでのビジネスモデル (BM) 構築はプロデューサー企業が、プラットフォームの共有価値観を提示し、複数の企業を参入させ、意見の交換を通じて従来になかったBMを開発することにあります。この場合デジタル経営に徹した企業でないとプロデューサー的役割を果たせないという問題が発生します。アベノミクスの基本はプロデューサー的存在になることだと思っています。
日本はアベノミクス推進で大改革を狙っています。何を改革するかということも含めて戦略を進めることが必要とおもっています。改革の第一は 『日本ムラ社会』 からの離脱です。日本社会には 『日本ムラ社会』 という亡霊が会社内、社会のいたるところに非公式に存在しています。この 『日本ムラ社会』 は全国組織とその支部という関係ではなく、漠然と存在している状況で、拘束力を持っていませんが、「和を好むという厳然たる雰囲気」があります。このムラ社会に籍をおくと、同質の人材の集まりのため、自分を甘やかす雰囲気が好きになります。そして簡単に自分たちは世界一の製品をつくっているから勝てるよねと思い込みます。この“日本ムラ社会”は心優しいところがあるので、皆の喜びを壊す反対意見を出せる雰囲気がありません。しかし、今後は 『グローバルムラの住人』 になる必要があります。
 私は 『産官学』 と言われる結束の固い集団に共通した現象につき、変身をお願いしたいと思っています。空白の20年間を見ていますと、日本の官からは日本国としての統一ビジョンの構築や、グローバル戦略の基本方針が出されていません。危機感なく省益にまい進しているにすぎません。日本国官の安泰は「過剰な国債の発行によって 『産官学ムラ社会』 が成立しているにすぎません。そしてこの 『日本ムラ社会』 の最大の欠点は現在のグローバル社会がどのようなスピードで進化しているかという体感を持っていないことで、冷戦時代の戦略から全く変化していません。 『産官学ムラ社会』 も民間が実施するようにプラットフォームを構築し、少子高齢化を迎える日本の将来ビジョンを構築することをお願いしたい。そのためにはまず省庁の共有価値観の育成を実施して頂きたい。次は予算を自己の権力構築と考えずに、プラットフォームマネジメントに委ねて頂きたい。
A. 『日本ムラ社会』 という発想は言われてみると、その通りかもしれない。この改革は必要だが、何をするべきかという大きなテーマが必要だよね。顧客から見た日本、顧客が何を欲しがっているか、そして、その時間の経過で要求がどのようにかわるかという最も重要な面を常に考慮することだと思う。
ここで、8月号で提案した Industry 4.0 や GE イメルト会長が指摘した IoT の持つ可能性に対応する戦略をどうするか K さんに説明してもらう。
K. 承知しました。
1. 21世紀のビジネスモデル (BM) は多機能融合型モデルと考えています。
1.1 ドイツの Industry 4.0 ドイツの事例
Ind 1.0 : 蒸気機関の活用
Ind 2.0 : 電気エネルギー + ベルトコンベアー : 量産方式
Ind 3.0 : コンピュータによる自動化
Ind 4.0 : IoT (Internet of Things) 産業革命
 詳細は8月号を参照してください
1.2 GEが意図している変革
インダストリアル・インターネット
アドバンスト・マニュファクチャリング
ファースト・ワーク
 詳細は8月号を参照してください
1.3 インテルのダグラス・デェイビス副社長は2020年までのネット接続機器の増加を下記予測しています。
  項    目 2014 年 2020 年  
一般消費者向け製品 22.5 億個 131.7 億個  
産業分野 13.2 億個 83.2 億個  
自動車分野 1.9 億個 35,1 億個  
  と膨大なビジネス成長があります。
1.4 総務省 谷脇康彦 企画課長著 (2002年初版 「ミッシングリンク~デジタル大国ニッポン再生~」 によれば、日本が遅れている情報通信産業分野では、単にハードとソフトが一体化しているだけでなく、ハードを製造する機器メーカー、ソフトを提供するソフトウエアベンダー、通信サービスを提供する通信事業者、更には利用者コミュニティなどが一体となって価値を高めるデジタルエコシステムを創ることが大切で、この分野で 5 つのミッシングリンクを挙げています。
機器とサービスがつながっていない
供給者と利用者がつながっていない
国内市場と海外市場がつながっていない
情報産業と他産業がつながっていない
官と民がつながっていない
上記は従来にない巨大な産業分野が発展的に展開されることを理解して頂くために記しました。
2. これら産業は21世紀型 【電子・ビジネスモデル (バーチャル→リアル) 空間】 戦略で実施します。この戦略は第一がスピードを重んじるため電子空間で実施する。第二はここでのBMは多機能融合型なため、広範囲の領域からの専門家を集めて企画する必要があります。ここではプラットフォームマネジメントと命名しています。このプラットフォームは価値観を共有することから出発します。共有の価値観を形成する際内容が多岐にわたり、重なり合って構築されるため、広範囲の領域から人材を集め、最初はバーチャルな形で企画をまとめます。その戦術はプラットフォームを構築し、多くの関係者を集め、新しいビジネスのひな型を考えます。この段階はまだバーチャル (仮想) の段階です。そこでプロデューサーは仮想企画書を作成し、ゴーを掛けます。これらの事業は仮説でスタートし、企画書に沿った開発を進め、不確実性の高い所をクリアし、開発と運用を同時に行います。また、不確実性はエンジニアリングの進行の過程でリスクをクリアしながら進めます。実行段階ではプラットフォームマネジメントが求められます。
3. ザ・プラットフォーム (尾原和啓著 「ザ・プラットフォーム」 2015.6.初版)
プラットフォームマネジメントは種々のケースがありますので最初に整理しておく必要があります。
3.1 巨大IT企業のプラットフォームの特徴
1 ) グーグル
2 ) アップル
3 ) フェースブック
3.2 世界をかえる 3 つのプラットフォーム
1 ) 3D プリンター
2 ) 教育
3 ) シェアリングエコニミーの原理
3.3 日本型プラットフォームの可能性
1 ) リクルート
2 ) i モード
3 ) 楽天
3.4 人生を幸せにするプラットフォーム
1 ) 「リベラルアーツ」 としてのプラットフォーム
2 ) 人生を幸せにするプラットフォーム
3 ) 未来に楽観的であること
4 ) 自己実現のプラットフォームへ
4. 「協創力が稼ぐ時代」 の羅針盤
 笹谷秀光著 「~ビジネス思考の日本創生・地方創生~協創力が稼ぐ時代」 2015.10.初版
4.1 「顔の見える国」 日本へ : 「発信型三方よし (プラットフォーム) 」のすすめ
4.2 「ご当地キャラ」 と三方よしのプラットフォーム
4.3 「自転車シェアに見る複合課題への対応
4.4 「共有価値観」 戦略
4.5 「まち・ひと・しごと創生への関係者の結集
4.6 地方創生で共有価値を創造する
4.7 「気づき」 と 「発信力」 による地方創生
4.8 日本創生時代の 「発信型三方よし」
書き出しに 『 「9・11」 と 「3.11」 が価値観の変化の節目になって、世界的に社会貢献意識や人と人とのつながり、「協創」 の必要性への認識が一気に高まった』 と記しています。そして 「協創力」 のための連携の場、プラットフォームづくりが進んでいる旨の報告がありました。

21世紀 【電子・ビジネスモデル (バーチャル→リアル) 空間】 戦略型のビジネスはプラットフォームという関係者が集まる場をどのようにマネジメントし、将来をつかむことができるかという高度なプログラムマネジメントの実施を意味します。それは経験を超えた仕事であり、場の中での侃侃諤諤する討論で成果の大きさが異なります。従来の官の手法、民の手法では届かないところへ導くのがプラットフォームマネジメントです。12月グローバルはプラットフォームマネジメントの解説を実施したいと考えています。皆さん方のご意見を頂ければ12月号以降で取り上げます。

以上

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