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「日本再生“アベノミクス”を成功させるために何が必要か」 (19)
地政学的戦略を考えよう (7)

東京P2M研究会 渡辺 貢成: 10月号

A. 先月までの話をまとめてみる。
先月はアベノミクス成長路線の事例として、観光ビジネスを取り上げデビット・アトキンソン著「新・観光立国論」の戦略的解説をしてもらった。今月は寺島実郎氏の「新・観光立国論」を説明してもらう。
X. 今回は寺島氏「新・観光立国論」の基本的な視点と概要を説明します。
1.新・観光立国論の目次から見た概要
序章 : 寺島氏は単なる観光でなく諸外国の人々に感銘を与える創造的な観光とそれに付随する観光産業の展開を求めています。
アジアダイナミズムのすごさを説明し、観光客の主流はアジアであること、今の日本の位置づけを正しく理解し、同時に観光客が日本に何を求めているかという発想で創造的に対応せよと示唆している。
日本は高齢化社会で従来の産業構造の行き詰まりから観光立国を求められている。
観光立国として日本のもつ優れた交通体系をどのように活かすか総合交通体系の整備を主張
「移動と交流」という観光をささえる哲学 : 人は移動することで新たな発見があり、交流することで相手から多くを学び、多くを提供できて評価される。この考えの行き着く先が創造的観光の提案である
日本型創造観光は統合型リゾート戦略を推奨 (末尾の図を参照する)
第 1 章 : 日本経済が直面する 4 つの課題:①貿易収支 4 年連続赤字、②日本はアジアのトップランナーではない (工業生産力で国を豊かにすることはできない)。③21世紀に入り日本国民の貧困化の進行、④異常な少子高齢化の進行
  将来の若者が創造力を発揮できる新しい創造のプラットフォームを造ろう
第 2 章 : 脱工業生産力モデルへの挑戦としての観光立国の試み
工業生産力ではもはや生きていけない
観光立国を目指せ、それには観光立国を成立させるための仕掛けすること :
ツーリズムの定義 : 1 年以内の移動で、非日常生活を体験追求すること。人間はこれらの想定外の体験で、新しい工夫を行い、進化してきた。良い企画のツーリズムは受け入れ側が訪問者に、創意工夫のためのプラットフォーム (場) を提供し、受入側ともども創意工夫のための意見の交換があり、創造的な観光を構築できる活動がなされた時感激的なツアーが成立し、その関係性は持続的可能なものとなる。
第 3 章 : 世界の事例に学ぶ統合型リゾートとツーリズムの多様な姿
  先行事例として : シンガポールに学ぶ統合型リゾート事例モデル、オランダ、デンマークに学ぶインダストリアルツーリズム、情報が人を引きつけるパリ/ジュネーブ・モデル。観点を変えた統合型リゾート成功例としてのディズニーの挑戦がある。
第 4 章 : 創造的観光立国戦略としての統合型リゾートを構想する (P123~156)
資料編 : データ・情報から読み解く観光立国 (P157~236)

2.ここでは私から見た寺島氏の新・観光立国論につき評価します。
何が問題なのか、という点につき的確な指摘がなされている。モノづくり日本を標榜してもGNPは増えない。国も企業も頭を切り替えろと。頭を切り替えないと、更に進んだ第二次グローバリゼーションにも乗り遅れるよと言っている。
アベノミクスが求めていたのは昨年度の観光客の急増をベースに観光客の増員目標を設定し、2020年 2,000万人、2030年 3,000万人であり、求めている内容は現在の延長であるため2020年で 2 兆円、2030年で 3 兆円と見込んでいる。
たが、この数値は現状の外挿入であって、創造的観光的努力をした結果ではない。寺島氏が求めているのは観光産業の進展である。
アトキンソン氏によると観光産業の平均値がGDPの9%である。日本のGDPを500兆円とすると45兆円となる。何もしなければGDPの2%で10兆円となる。観光だけの場合は 2 兆円にしかならない。その意味でアベノミクスにはマーケティングの発想がないといえる。
創造的観光立国の事例として著書の後半 P157~235 まで参考になる事例を提供している。またカジノについても見識の高い意見を述べたうえで、統合的にどのように組み合わせていくのが望ましいかを提案している。
我々はこれからビッグデータ解析により更に観光のバーチャルリアリティーを求める必要がある。下記に示した21世紀型の戦略の活用である。
21世紀 【電子・観光 ヴァーチャル→リアル空間】 型地政学的戦略
A. Xさんの話には期待が持てそうに感じた。
ところで日経9月20日、日曜に考える『観光立国 ここが足りない』でアトキンソン氏とJTB 田川博己会長の談話が乗っていた。アトキンソン氏の論調は説明済みで省略するが、田川会長のコメント『成長戦略に責任と期限を』は傾聴にあたいする。「アジアの海外旅行の成長は日本の 3 倍のスピードと予想される。閣議で決めた提案書は『何々をしたい』を盛り込んでいるが『誰が』、『いつまでに』、『どのように』といった明確な工程になっていない。「今の日本の受け入れ体制として、クルーズ船のための港湾整備が遅れ、世界の観光地の絵葉書になる港と異なり、雨ざらしの港に入港し、入国審査の場所も貧弱で1,000人単位の旅行者を円滑に取り扱うのが難しい。2,000万人が滞在するなら、『誰が』、『どこに行くか』見当をつけ、施設の整備を真剣に考えないと観光客に大きな失望感が与え、リピーター客を逃すことになる」というご意見であった。
X. 空白の20年間の官の動きをみると、決定的に欠けていることがある。官としてのビジョンがないことです。官は長期ビジョンを持つべきです。この20年間、国債を800兆円あまり使ってきたが、ビジョンを持たない国債の消化は目先の既得権益者に利することはあっても、グローバリゼーションでの日本の競争力向上に全く役に立ちませんでした。
その点寺島氏は下図に示すように、ツーリズム産業はこれらの組み合わせの中で発展すると言っている。アベノミクスの戦略は
21世紀型 【電子・観光(バーチャル→リアル)空間】 戦略
であって欲しいと願っています。この戦いの勝利はバーチャルリアリティの段階で勝利しなければなりません。それには最先端のビジョンが求められています。

ツーリズム産業の関係図

そして、バーチャルの計画案を如何にリアルなものにするかが勝負です。日本企業という狭い枠内で戦うのではなく、優れたプラットフォームをつくり、世界中の有力企業と一緒にリアル化することが求められます。
バーチャルリアリティで大切なことは如何に優れたプラットフォームを構築できるかである。

以上

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