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「日本再生“アベノミクス”を成功させるために何が必要か」 (18)
地政学的戦略を考えよう (6)

東京P2M研究会 渡辺 貢成: 9月号

A. 先月の話をまとめてみる。
先月は21世紀【電子・知財 ヴァーチャル・リアル空間】型地政学的戦略として、今注目を集めている第 4 次産業革命としてのドイツのインダストリ4.0 と米国GE社が進めているIoT (Internet of Things) のわかり易い解説書である“日経ビジネス まるわかりインダストリ 4.0 第 4 次産業革命”と NPO ものづくりAPS推進機構の総会講演会『新産業革命「つながる工場」と日本のものづくり』から内容を引用させていただいた。
今月はアベノミクス成長路線の事例として、観光ビジネスの戦略を X さんにお願いする。

X. 今回はアベノミクスが求めている観光戦略を示します。
実は21世紀【電子・知財 ヴァーチャル→リアル空間】型地政学的戦略は、観光ビジネスにも通用します。その事例をお話しします。
アドバンストP2M的に戦略を練る場合観光ビジネスに関しては
21世紀【電子・観光 ヴァーチャル→リアル空間】型地政学的戦略となります。
アベノミクスが企画している観光戦略は以下に示されました。
2014年の外国人ツアー顧客数は1,300万人です。これを2020年には2,000万人、2030年には3,000万人にすると目標を決めました。
さて、皆さんこの数字を達成するためにあなた方はどのような手法を採用しますか。
B. 2020年に現在より700万人増えるとは、6年間で700万人すなわち年間120万人を増加させる手段を考える必要があります。アジアからの顧客の増加を期待すると何とかなる数字ではないでしょうか。2030年に3,000万人は1,000万人を10年で割ると年間100万人の増員です。可能な数値と思います。
X. 日本人がやってきた長期計画は一般に過去の実績曲線に従って外挿する方法をとってきました。外挿するとは高度成長時代の産物です。GDPは成長していません。今回の場合は顧客がアジア人であり、アジア諸国は経済成長を遂げているので、訪日外人が増えることは確かでしょう。しかしこの手法では的確なマーケッティングにはなりません。マーケッティングとは顧客の差別化と差別的対応で、全ての層の顧客を満足させることができるからです。正当性のあるマーケッティングは後述します。

2015.6.月デビッド・アトキンソン著「新・観光立国論」イギリス人アナリストが提言する21世紀の「所得倍増計画」の内容を説明します。
著者の説は
日本人は観光戦略マーケッティングを行っていない
日本人は観光ロジスティックスを理解していない
日本人が観光立国として誇り高くアピールしている「サービス」は外国人にとって来日の目的から外れている。
A. 日本は観光資源に恵まれ、観光立国として満点の要素を持っていると思っている。日本の精神のシンボルである「おもてなし」などは観光資源にならないと言うことかね。
X. では、お聞きします。日本人は「おもてなし」の精神に富んでいるとおもいますか。
胸に手を当てて考えてください。多くの先進国はハブ空港を持っており、ローカル空港と連絡がよく、顧客サービスができています。日本では成田空港は海外専用空港で、羽田が国内専用空港です。そのため冨山空港に行くには、成田空港から電車で東京経由で羽田に行き、羽田から富山便にのります。そのため 1 日のロスが生まれます。そこで冨山の海外旅行者は韓国経由で出発します。外人から見たら「日本のおもてなしとは何か」と考えるでしょう。成田では外人向け入国手続き窓口が少なく、長蛇の列ができます。日本到着早々腹立たしい思いがするそうです。多くの国際空港は24時間体制で、都市との連絡も24時間体制です。成田は24時間体制ではなく、しかも最終便に到着以前に首都圏行きの公共乗り物が終了します。これでは外国人は成田で戸惑ってしまいます。また、成田から首都圏までのアクセスはJR在来線と京成線です。スピードは80Kmの電車です。先進国の首都圏アクセス便は皆新幹線です。これらの不備はすべて官が管理している部門で起きています。官は国内では特殊な地位の人種と思われているため、悪意はないのですが顧客への配慮という発想がなく、おもてなしのなさも気が付いていないようです。
日本の鉄道は時間厳守で 1 秒の誤差もないと自慢していますが、外国人観光客が望むのは 1 秒の正確さではなく、成田・東京間の時間短縮が顧客への最高のサービスになります。今後は成田東京間の時間短縮を望みます。治安の良さは大切ですが、旅行目的にはなりません。結局日本人は外国人の要求を全く理解していないというのがアトキンソン氏からマーケッティング不在と言われるゆえんです。
A. 言われてみれば、その通りで、官の横暴さに国民は諦めている節がある。この際改めないといけないな。
X. マーケッティング不在の意味はそれだけではありません。では、なぜアベノミクスは成長路線としての、観光客の増員をアジア観光客だけに絞ったのか分かりますか。
A. アジア諸国の観光ブームがあるから日本は観光ブームとなっているから当然だろう。
X. そのとおりです。では今のアジア人観光客が落とす金はどの程度かわかりますか。
先生の発想は「日本の観光は顧客任せだというように聞こえます。有用なマーケッティングとは顧客を選別して、選別した顧客の要望を集め、顧客満足度を高める必要があります。世界の観光産業の収入は平均値でGDPの9%です。日本の観光収入はGDPの2%と観光小国です。観光立国としての潜在力を持ちながらGDPの2%で満足するのは国が努力を惜しんでいるからです。マーケッティングの手法でいくと、日本の観光収入の潜在規模の範囲を見定めることです。今日本のGDPを500兆円としますと、9%で45兆円になります。何のアクションもしないと2%の10兆円です。アトキンソン案では観光収入を9%というポテンシャル値 (ヴァーチャル値) を目標値と決めます。目標値を定めたら、次に9%確保している国はどのような対策で高収入を得ているか事例研究をし、対策を見つけます。アトキンソン氏はこの方式で日本は2020年に5,600万人、2030年に8.600万人の来客を見込めると試算しました。更に大切なのは金払いの良い上客をどのようにして確保するかというマーケット戦略です。
さて、私は観光戦略を21世紀【電子・観光 ヴァーチャル→リアル空間】型戦略
を用いると言いました。観光収入45兆円がヴァーチャル目標値です。グローバル競争は「生き馬の眼を抜く」戦場です。目標決定で即ゴーをかけ、出発するのが必要条件です。ゴーを掛けたら、あらゆる手段を駆使し、成功させるという壮大な発想を持つことです。モノつくりですと、ヴァ―チャルな段階でゴーをかけ、3Dプリンターを利用してヴァーチャル企画を容易にリアルに変換させることができます。しかし観光での勝負は知恵です。知恵はレベルの高い人々が集まることのできる優良なプラットフォームを構築することが重要です。賢者を集めて、知恵を出し合い、多くのアイデアを創出することが必要です。ところが日本では多くの場合、官が加わります。残念ながらその場合は概してプラットフォームは萎んでしまいます。マネジメントでなく、人の管理を優先するからです。“アベノミクス”は『ヴァーチャル+プラットフォーム+世界中の知恵』で日本再生できる価値提供をしなければなりません。言葉を替えると私たちは「従来からの仲良しクラブ日本部落から早く抜け出し、世界の中核へ進出すること」だと思います。日本人の知恵が活かされることを願っています。

以上

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