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「日本再生“アベノミクス”を成功させるために何が必要か」 (17)
地政学的戦略を考えよう (5)

東京P2M研究会 渡辺 貢成: 8月号

A. 先月の話をまとめてみる。
6月号にアドバンストP2Mの基本概念として 3 つの地政学的戦略を提案してきた。
 21世紀【電子・金融 ヴァーチャル・リアル空間】型地政学的戦略
 21世紀【電子・知財 ヴァーチャル・リアル空間】型地政学的戦略
 21世紀【電子・コミュニティ ヴァーチャル・リアル空間】型地政学

今月はアベノミクス成長路線のビジネスに最も重要な戦略として、
21世紀【電子・知財 ヴァーチャル・リアル空間】型地政学的戦略
 の話を具体的に進めることにした。
 今月はYさん話をまとめてほしい。

Y. 承知しました。21世紀の電子・知財ビジネスとして、今注目を集めている第 4 次産業革命としてのドイツのインダストリ4.0 と米国GE社が進めている IoT (Internet of Things) の説明をしますが、わかり易い解説書として、“日経ビジネス まるわかりインダストリ4.0 第4次産業革命”と NPO ものづくりAPS推進機構の総会講演会『新産業革命「つながる工場」と日本のものづくり』から内容を引用させていただきました。

  1. ドイツが意図した第 4 次産業革命を理解しよう
    1.1 ドイツが推進する Industry 4.0
      Ind. 1.0 : 蒸気機関の活用
Ind. 2.0 : 電気エネルギー+ベルトコンベアー量産方式
Ind. 3.0 : コンピュータによる自動化
Ind. 4.0 : IoT (Internet of Things) 産業革命 ;
        工場の生産装置ラインを流れる部品、湿度や気温を測定するセンサーなど、あらゆるものがネットに接続する。機械同志が「会話」し、人手を介さずにラインを組み替え、在庫に応じて生産量を自動で調整する。部品メーカーから組立工場、物流のトラックから販売会社まで、さまざまな現場が結びつき、一体化する。

これは単なる生産の効率化や省人化ではなく、やり取りされる情報のスピ-ドや量が人手の場合に比べ数千倍にもなり、3 つの新しい変革が行われる。
      カスタムメイド量産時代到来 :
単一製品の大量生産時代が徐々に終焉し、消費者ニーズをリアルタイムで工場に伝え、それに応じたラインの組み換えが、瞬時に、低コストでおこり、カスタムメイドを大量生産する時代が来る。
      車のモデルチェンジの概念の変更 :
モノづくりの付加価値が「金属などの加工」から、「自動運転制御などのソフトウエアやシステム」に移るに伴い、製品の改善手法が激変する。ネットなどで集めた消費者ニーズを基にソフトをアップデートし、まるでスマートフォンのようにモノを進化させる。車や工作機械も、ネット経由で即座に新機軸を追加できるようになる。
      膨大なデータを操るIT企業の活躍 :
これらIT企業が製品開発を指揮し、製造会社を下請けのように使う時代も現実味を帯びてくる。国家間の下剋上が始まる。

      ドイツの事例 : シーメンスが1989年第 3 次産業革命真っただ中、ドイツ南部アンベルクに機械や製造ラインに組み込む専用コンピュータをつくるための、工場をつくり、1,000人の従業員を雇った。彼らがつくった製品はドイツ中の工場に届けられ製造ラインを動かす頭脳となった。2015年この工場の生産台数は 8 倍の1200万個、品目数は1000種以上 5 倍に増えた。そして今は世界中に製品が出荷されている。アンベルク工場の責任者は「私たちは既にIndustry 4.0への道を歩き始めている」と語った。Ind. 4.0はモノづくりの革新にむけて、2011年からドイツの産官学が掲げるスローガンに政府が資金をだし、数百の企業や大学が企画つくりや技術開発にまい進している。
具体的には IoT を核に、ロボットや 3D プリンターのドイツが強みをもつ生産技術を社内外でつなぎ合わせる。大量生産とほとんど変わらないコストでオーダーメード商品をつくる「カスタマイゼーション (個別大量生産) 」の実現が一つのゴールである。

    1.2 NPO ものづくりAPS推進機構 総会講演会 2015.7.1.
『新産業革命「つながる工場」と日本のものづくり』
講演者 : ローランドベルガー 日本共同代表 シニアパートナー 長島 聡

講演概要 : ドイツを中心に産官学が一体となって製造業の復権を狙うインダストリ4.0 IoT を核に「繋がる、代替する、創造する」という 3 つのコンセプトで新たなものづくりの姿を描いている。先進事例を通じて米国のインダストリアル・インターネットや日本の現場主義の改善手法との差異を明らかにし、今後日本が取るべき進化の方向性、経営者/現場マネジャーの持つべき覚悟を考える。
スライド枚数41枚 わかり易い内容
    ドイツのインダストリー4.0へのコメント :
      ドイツInd4.0は全体最適の範囲の拡大、効率化が中心。但し、今後は付加価値の拡大に伴う急速な進化が予見される
      欧州のInd.4.0は単独ではなく、産業全体を俯瞰することで機動力を高め、顧客への付加価値や事業効率性をさらに向上することを狙いとしている。
      開発からアフターサービスまでバリューチェーン全体のシームレスな連携、個社でなくプレーヤーをまたいだ連携、10年、20年後を含めた将来の見える化によって、産業全体の認識力を高めている。
      産業全体を俯瞰することで、リソースの最適配置による効率的な事業拡大、頻繁なトライアルエラーによる顧客への付加価値向上が可能、事前の織り込みによる迅速な商品、サービス提供が可能。
      現状では、より効率化に重きが置かれており、目標の顧客への付加価値向上が十分に達成できていないが、既に10年後を見据えて、業界として非競争領域を定め、足並みを揃え、役割分担をしつつ着実に目標達成を進めている。日本企業にとって大いなる脅威となりうる。

    日本企業へのコメントは :
      日本企業は、顧客視点での価値を実現する枠組みとしてインダストリ4.0を再構築し、ドイツ企業を超える成果の実現を目指すべきだ。
      非競争領域をつくり足並みを揃えるドイツに対して、顧客を旗頭にした団結力の強いチームで対抗すべきである (全てを内製でなく、競合との協業も進めるべき)。
      そのためには、現場主義から、できるだけ顧客のニーズと意思決定サイクルに即した価値提供の仕組みを構築する必要がある。
      差別化のポイント
- 常に、顧客視点を基点に起点におく (顧客価値起点の KPI 体系をつくる)
- 社内外の各機能、上流~下流の機能の状況を常に把握 (デジタル部屋をつくる)
- 社内外の各機能が密に連携し、分担しながら、顧客ニーズ・意思決定サイクルにあった対応を行えるような構えをもつ (各種業務のリードタイム・要素技術を革新する)
      投資対効果を見極めながら、PDCAを愚直に回していく。

  2. GEが意図している変革を理解しよう
GEが意図する改革は製造業の生き残りを考えるだけではない。IoT はすべての既成概念を破壊する要素を持っている。アマゾンはウェブ上に設立したヴァーチャルな本屋であったが、アマゾンの信用度が高まると (注文してから配達までの時間が短縮されると)、人々は本屋からアマゾンへシフトし始めた。本で成功すれば本以外の取扱い商品も店舗からアマゾンにシフトし始めた。GEは製造業も単に製造業の継承だけでは生き残れないかもしれないという発想から出発し、製造業を激変させる 3 つの切り札を示した。
    2.1 GEの改革には従来の製造業を激変させる 3 つの切り札がある
      インダストリアル・インターネット : 『ソフとで引き出すハードの潜在力』
      航空会社はGE製のソフトを利用することで年間の燃料消費を低減してきた。すなわち航空機に搭載する数百個のセンサーから出される、エンジンの稼働状況、温度、燃料消費量などの多様なデータを収集し、解析することで、理想的な飛行機の操縦方法を指南し、燃料費削減やその他運用費用や保守費の削減を提案できる。しかし更に重要なことは従来捨てていた膨大なデータから、このソフトの活用でハードが持つ潜在的価値を引き出すことを実施しようとしている。
      GEのインダストリアル・インターネットの根幹をなす技術は同社が独自に開発したソフトで、このソフトは燃費向上だけでなく、航空会社の課題解決に役立つソフトを次々に製品化し、顧客を獲得している。この活動は航空会社だけでなく、発電用タービンにおいても、病院や様々な顧客企業から集まる膨大なデータを解析し、運用の効率化や改善や最適化につなげ、新たな価値を引き出すための道具になっている。
      センサーから集まるビッグデータの価値は機械の保守や効率改善にとどまらない。食品や日用品のメーカー、インフラ企業などあらゆる業種で、在庫、物流の最適化、需要予測に威力を発揮する。そこで解析を担うソフトを多くの企業に提供すれば、データ解析を通じて、GEには様々な業界のノウハウが集まってくる。
      これらの業務を通じて、GEは多様な産業機器を取りとめる共通プラットフォームとなる“Predix”を2014年オープン化して、社外企業にも提供していくことを決めている。このソフト開発に1,200億円を投入している。

      アドバンスト・マニュファクチャリング : 『極小工場』へ 3D プリンターの活用
      機械やクルマ、インフラなどがインターネットに繋がる時代。IT企業がその覇権を握る試みをしているが、IT企業はハード面に弱い欠点がある。GEがIT企業を差別化するには、ソフト面だけでなく、ハード面のモノつくり技術を一段と進化させる必要があるとして、既に量産部品の生産に踏み込んでいる。
     
事例 1. 「航空機エンジンのタービン重量を 2 割削減」を目標に実施している
顧客に密着した討議で、3D プリンターを活用し、開発を容易にした。労働コストの削減にも貢献している
     
事例 2. 欧州エアバス社の次世代旅客機「A320neo」などに搭載されるエンジンLEAPで 3D プリンターでつくった約20個の燃料ノズルが搭載される。3D プリンターで溶接回数を1/5に、耐久力を従来の 5 倍に高めた
     
事例 3. 2014年に米コネティカット州にアドバンスト・マニュファクトリー・ラボを開設 : 電力関連新製品開発に取り組む。
      アドバンスト・マニュファクチャリングの究極の目的は顧客に密着した生産体制として『マイクロ・ファクトリー (極小工場) 』という構想で、ネットワーク化された小規模工場を世界に分散させ、3D プリンターやロボットなどの先端技術を活用して、顧客が求める製品を、顧客のそばで、迅速に開発、生産するというものである。
例えば航空機のジェットエンジンや、発電用のタービンは高温・高圧の過酷な環境で使用されるため部品が摩耗しやすい。顧客に近い小型工場で必要なときに必要な補修部品を供給すれば、顧客満足につながり、在庫リスクも減らせる。

      ファストワーク : 『スタートアップ流で開発を迅速化』 : 実用最小限の試作品「MVP」
新製品開発を素早く行う新しい手法である。
      インダストリアル・インターネットでは、機械類 (例えばジェットエンジン) の運用データからハードの持つ新たな価値を発見し、機械の持つ能力の向上 (燃焼効率の改善) や、自社が関与しない着陸時のフラップの操作方法で、燃費の削減を提案した。
      アドバンスト・マニュファクチャリングではデータ分析から得られた結果を具体化するために「極小工場」を顧客に接近した場所に設置し、実物を 3D プリンターで製作し、顧客と一緒に改善活動を行ってきた。
      ファストワークでは開発者の思い込みで顧客にとって価値のないものを製作する過ちが多く見られた。この過ちを防ぐために顧客が求める製品を迅速に創り上げること目指す。
具体的には顧客と相談して顧客が望む、実用最小限の試作品「MVP」の製作を90日程度で実施する (万能な製品を試作化しない)。
次に半年か 1 年でバーションアップしていく方式。
開発プロセスは以下のとおりである。
     
事例 4. ①「顧客の要望や悩みを理解する」→②「製品の成功に不可欠な要素をさがす」→③「実用最小限の製品を定義する」→④「顧客の要望などから課題を探す」→⑤「製品を改善する」

    2.2 GE CEO ジェフ・イメルトによる
変革を成功させるためのリーダー育成とその哲学
      30万人の社員を動員しイノベーションを達成するために、『社員の意識改革をもたらす具体的な研修方式』と『人事評価の変革』を実施する
      650名の経営幹部を集め年初 1 月のフロリダ州ボカラトン会議開催
2 日間ホットな30の先端事例を取り扱う、状況認識・戦略・課題検討会議等で頭脳刷新を図る
      新時代のGEリーダーが守る実行する価値観
価値観を変えて人を動かす、GE社員が重視すべき 5 つの価値
  従来   現在
GEグロースバリュー →GEビリーフス
a.外部志向 →顧客に選ばれる存在であり続ける
b.明確でわかり易い思考 →より早く、だからシンプルにЮ
c.想像力と勇気 →試すことで学び、勝利につなげる
d.包容力 →信頼して任せ、互いに高めあう
e.専門性 →どんな環境でも、勝ちにこだわる

      GEビリーフスは信念という意味で「バリュー=価値よりも、人々の内面に入り込んで、自分自身のものにできるパワフルな言葉だから選んだとイメルトCEOは言っている。
      人事評価も従来は『「成果=業績」評価と 5 つのGEバリューの実践の評価の合算』であったが,2015年から業績評価への偏重を避けるため総合評価をなくし、『「成果」と「GEビリーフ」だけをそれぞれ 3 段階で評価する』方式に切り替えた。理由は社会変化の加速性を考慮し、失敗しても挑戦する姿勢を評価する方式に変えた。

      GEの改革はドイツの4.0 産業革命より幅が広く多くの企業とのコラボレーションを意識した中でのリーダー育成を含む壮大なものと感じた。

A. Yさん。ありがとう。ここまで資料がそろったので、次回は提案するアドバンストP2Mの骨子を X さんに説明してもらいたい。
X. 本件承知しました。

以上

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