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「日本再生“アベノミクス”を成功させるために何が必要か」 (16)
地政学的戦略を考えよう (4)

東京P2M研究会 渡辺 貢成: 7月号

A. 先月の話をまとめてみる。
  21世紀型ビジネスを3つに分類し、下記に示した。
    a. 【電子・金融ヴァーチャル・リアル空間】型経済地政学的戦略
    b. 【電子・知財ヴァーチャル・リアル空間】型経済地政学的戦略
    c. 【電子・小規模コミュニティ空間】型経済・非経済地政学的戦略
    そしてa.、b.の詳細な内容の説明を受けたが、
    c. 【電子・小規模コミュニティ空間】型経済・非経済地政学的戦略
は今月してもらうことになっている。

Z. 21世紀の戦略の変化の話を先月しました。今月はコミュニティの話をします。
  1. 21世紀のグローバル経済の行方
2014年度P2M研究会は「経営とITの融合」研究を通じて多くのことを学びました。
    日本企業の21世紀の経営ビジョンとは何
日本の多くの企業のIT化が、グローバル社会での競争力向上を考えていないことを突き止めました。理由は多くの企業の経営者が自社のIT化に対し、21世紀の戦略は何かという面で経営に対するビジョンを出すことができませんでした。
結果として、米国企業のデジタル化経営をお手本にしたIT戦略を採用したが、最終的には現状のアナログ経営をデジタル化することができず、現状に合わせたIT化に戻すことになり、これをカストマイズと表現しました。結果的に日本の多くの経営者は20年間のグローバルビジョンを出せませんでした。
    米国の21世紀国家経営ビジョン
国際金融資本と米国の金融政策ビジョン
をしらべそれをまとめたのが、米国のグローバル金融戦略で、それをまとめたのが21世紀【電子・金融ヴァーチャル・リアル空間】型地政学的戦略である。新興国の経済拡大を狙った需要をみたすために、ヴァーチャルなドルを印刷し、世界的なデフレ状況を改善し、米国の地位の維持持続策をとり、これが成功した。しかし、この政策の継続は少数の資産家に世界中の富が集中する結果となっている。他方多くの先進国経営を見ると金融的にはゼロ金利に苦しみ、景気回復になっていない。頼みの新興国の経済成長率が低下しており、金融政策だけで資本主義の継続は困難になっている。
    EUの行方
EUはその運営がユーロという通貨を一本に絞っているため、有効な金融政策ができない。そのためドイツはマルク高という懸念がなく、強者の地位を維持することができる。そしてEU他国の弱者が発行する金利の高い国債を購入することによって、ビジネスで稼いだ金で多くの利息を獲得できる仕組みエンジョイしている。ドイツが自国の儲けを利用し、金もうけでなく、金を消費すればEUの経済は循環するが、ドイツは先の2つの世界大戦で金欠という痛い目に遭っているトラウマがあるため、決して不要な金を使うことをしていない。結果的にEUの運営は困難をきわめることになっている。
    新興国の経済成長の行方
新興国の経済成長は米国の金融緩和策によって、素晴らしい勢いで成果を出した。しかし、人は金を持つとその欲望は過大化し、止めることができない。結果として新興国に大きな不動産バブルがおこり、これを救済することは難しい。

これらの世界経済のゆく手に暗雲が立ち込めている。これからのダイナミックな動きがどのようになるか、大きな問題が横たわっている。

  2. 日本に少子高齢化時代の到来
    1) 日本の政策は世界の注目の的
イギリスの雑誌“エコニミスト”は2010年に日本特集号を出し、大きな日の丸を背中に抱えてつぶれそうになっている子供の姿をその表紙で示し、「Japan’s burden (日本の負担) 」という見出しがつけられていた。「日本症候群 (Japan Syndrome) 」というキーワードとして、日本が抱える本質的問題を「高齢化と人口減少」に絞り、それを如何に克服するかが日本の課題であると指摘し、「高齢化・人口減少」は世界各国もこれから直面する大問題である。そして日本がこの課題をどのように対応するか注目しているとしていると論評した。

 ではアベノミクスはどのような視点で政策を策定しているか見ると、今後の経済を成長路線に乗せることを基本として企画しています。しかし、これまでの経済発展の歴史を見ると、最盛期を過ぎた国家が人口減少の中で、経済成長を遂げることは見られなかった事実であり、希望的観測ではなく冷静に将来を検討する必要があります。

 私たちの検討は「人口減少が日本の経済に大きなマイナス要因として取り扱われることが妥当かということも含めて、日本の対応を考えるべきとしています。この課題解決を本論文ではアドバンストP2Mとしてまとめようと考えています。論理的には広井良典千葉大教授著「『人口減少社会という希望』―コミュニティ経済の生成と地球倫理―」、「『創造的福祉社会』-「成長」後の社会構想と人間・地域・価値―」という本をベースに発想しました。目指す目的は成長ではなく、定常化期の経済は生活の安定と人々の幸せを願う社会の実現です。

    2) 人類史の中の定常型社会 -コミュニティ経済の生成と地球倫理―

人類史の中の定常型社会
まず、図 「人類史の中の定常型社会」を説明します。
図は人間の歴史を3つの大きなサイクルで示しています。このサイクルは前半に「拡大・成長」 (経済が成長している) があり、その後経済が「定常化」 (水平な部分) している時期があるという流れがあり、いずれの時代も前半は「物質的な生産の量的拡大があり。後半期は「内面的・文化的発展」とよべる展開が行われている。これを整理すると、
人類の誕生 : 約20万年前から狩猟・採取時代になり、約 5 万年前から「心のビッグバン」乃至は「文化のビッグバン」と呼ばれる現象が起こり、装飾品、絵画や彫刻などの芸術作品のようなものが一気にあらわれる。生産の量的拡大から文化的な発展へと移行している。
農耕時代 : 約 1 万年前から農耕時代となるが、約2、500年前 (紀元前5世紀前後) に哲学者ヤスパースがいう「枢軸時代」が、科学史家伊藤俊太郎氏がいう「精神革命」と呼んだ現象、つまり何らかの普遍的な原理を志向する思想が地球上の各地で“同時多発的”に生成するという現象が起きた。インドの仏教、中国では儒教や老荘思想、ギリシャ哲学、中東での旧約思想が起こり、これらは共通して、人間にとっては内面的あるいは、根源的価値や「幸福」への関心という点を含めて、私たちが生きている現在、つまり産業化社会における拡大から、定常化への移行期に移るための構造を示している。
 最近の環境史などの研究から、紀元前5世紀前後のギリシャや中国は森林破壊などの問題が深刻化している事実がわかっており、定常期に入ると「物質的生産の量的拡大から、内面的・文化的発展」へと進んでいます。

    3) アドバンストP2Mの提案
 アドバンストP2Mでは現在を産業化時代とし、図に示すように市場化、産業化、情報化・金融化の時代と考えています。そしてこれから定常化期にはいると考えた場合、日本は何をするべきかという21世紀ビジョンを考えていいのではないかと考えた。

その理由は現在のグローバリゼーションの持つ意味と金融を主産業とする米国は金持ちが益々金持ちとなり、貧乏人がますます増えるシステムが存在しており、この抜本的な問題の解決が困難なことを理解している。ヨーロッパでは今、陸の地政学的戦略でドイツの一人勝ちが確定し、EUのドイツ一人勝ちの構造を解消する政策が出せないという欠陥があります。最近隆盛を極めた新興国の勢いが落ちているのが気がかりです。
更に新興国における経済成長の鈍化とバブル発生の危険があります。
他方イラク、シリア、アフガニスタン、ウクライナなど戦争状態の国々が存在します。このままでは戦争の拡大という資本主義者の常套手段が起こされる危険性があります。

そこで日本人はそれらの動きに巻き込まれない日本を政策の中に組み込む必要性が高くなっていると考えます。
現在のグローバル経済を産業化期、情報化・金融化期ととらえ、これからのグローバル戦略をアドバンストP2Mでは
a. 21世紀【電子・金融ヴァーチャル・リアル空間】型地政学的戦略、
b. 21世紀【電子・知財ヴァーチャル・リアル空間】型地政学的戦略
で競争に勝つ方法を模索します。
これとは別に日本国内向けの政策を定常化期とみなし、平和で、幸福な国づくりという理念で新たに21世紀型コミュニティという概念を構築します。
この場合の日本の定常化期である過去 (江戸末期) の日本の事例も研究し、その特徴を活かすことも視野にいれます。ここでの戦略を
c. 21世紀【電子・コミュニティヴァーチャル・リアル空間】型地政学的戦略
とし、独自の視点からコミュニティを構築することを考えます。

    4) コミュニティを必要とする理由
 人間は一人では生きられません。必ず何らかの集団に所属しています。これを共同体 (コミュニティ) とよびます。共同体には人間社会が近代化すると共に、地縁、血縁、友情で深く結びついた自然発生的なゲマインシャフト (共同体組織 : 人間関係重視) と、それとは別に利益や機能を第一に追求するゲゼルシャフト (機能体組織利益・機能面重視) があります。
 高度成長期の日本は企業内コミュニティが主でした。例えば社内労組は機能体利益共同体で出世人脈の親分子分は人間関係重視共同体といえます。
 米国は企業外の労組に所属しているため、失業しても再就職の世話をしてくれますが、日本は失業すると個人的なコネがないと再就職に困り、ホームレスが出る等の問題を起こしています。
 最近の日本は定年を過ぎますと地元の自治会に所属します。しかし、このコミュニティは地方自治体の人手不足、予算不足を解消するためのボランティア活動で、関係性の薄い地縁的存在です。
 高齢化が進みますと、独居者、買い物難民、医者通い難民、介護難民、孤独死、空き家問題、オレオレ詐欺被害者の増加等、種々の問題が自治体コミュニティに持ち込まれ、多くの課題が発生しています。
 また、高齢化問題と同時に若者の就職難等の問題が発生し、U ターン希望の人々が増えています。
 このように考えると、21世紀日本社会は日本独自のコミュニティの在り方が、国民の幸せに繋がるものとして浮上してきました。

    5) 新しいコミュニティの概念
 そこで私たち研究グループは、日本人を幸せにし、ひいては世界の人々を幸せにする21世紀コミュニティはどうあるべきかという概念のテーマを設定したいと考えています。だが、その方法はまだよくわかりません。しかし、日本人は何か目的を持つとユニークな方法で問題解決してきました。人間を幸せに導く、21世紀型コミュニティの在り方を研究するための戦略として
 c.21世紀【電子・コミュニティヴァーチャル・リアル空間】型地政学的戦略
 をベースとしたコミュニティの在り方の研究をします。この研究は私たちがするのではなく、日本人が今実生活で考え出した生活モデル (New Life Model、ビジネスにおけるビジネスモデルに匹敵するもの) を集め、更にブラシュ・アップすることで世界に役に立つことをしたいと考えました。
 私たちが勇気をもって研究を進めるために江戸時代という250年間の平和の中で江戸末期に来た外国人が日本人を下記のように評価していたことを知り、勇気をもらいました。その内容を説明します。

江戸時代の江戸の社会の運用システムは意外と合理的で、金持ちにはならなかったが、多くの人々は幸せな日々を過ごしていたという事例を、江戸末期、明治維新後の日本人の様子を外人が伝えています。江戸の人口は約100万人で土地の半分を武士が領有し、町人は残り半分の土地で暮らしていたので、町の住人は長屋住まいが多く、現実の長屋は“向こう三軒両隣的”な相互補助的な機能が効果的に存在し、江戸時代の日本の庶民は明治時代の歴史が示したような暗黒の時代ではなく、平和で豊かな生活をしていたようです。

それは江戸時代末期と、明治の初めに日本を訪れた外国人からの証言でうかがい知ることができます。
アメリカの初代総領事ハリスは「日本人は皆よく肥え、身なりも良く、幸福そうである。一見したところ富者も貧者もない。――これがおそらく人民の本当の幸福の姿であろう。私は時として、日本を開国して外国の影響を受けさせることが、果たして人々の普遍的な幸福を増進する所為であるかどうか、疑わしくなる」と。
 イギリス人の詩人・ジャーナリストエドウィン・アーノルドは日本の街の様子について「これ以上幸せそうな人々はどこを探しても見つからない。彼らはしゃべり、笑いながら  彼らは行く。人夫は担いだ荷のバランスを取りながら、鼻歌を歌い進む」。遠くでも、近くでも『おはよう、おはようございます』、『さよなら、さよなら』という綺麗な挨拶が空気をみたす。こうした事例は枚挙にいとまがないそうです。
A. わかり易い説明ありがとう。コミュニティの件はこれから研究を進めるそうなので、
研究が進んだ段階でまた説明してほしい。来月は
21世紀【電子・金融ヴァーチャル・リアル空間】型地政学的戦略
21世紀【電子・知財ヴァーチャル・リアル空間】型地政学的戦略
を具体的に取り扱う方法を説明してほしい。
Z. 了解しました。

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