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「日本再生“アベノミクス”を成功させるために何が必要か」 (15)
地政学的戦略を考えよう (3)

東京P2M研究会 渡辺 貢成: 6月号

A. 先月の話をまとめてみる。
  空白の20年間で日本は優れた戦略を駆使できなかった。
  P2M研究会ではこれからおこるグローバルビジネスの戦略は複雑な経済地政学的戦略が求められるとの発想を取り入れた
  21世紀型ビジネスを3つに分類した
    a. 電子・金融空間型経済地政学的戦略
    b. 電子・知財空間型経済地政学的戦略
    c. 電子・小規模コミュニティ空間型経済・非経済地政学的戦略
 21世紀型としたのは20世紀の経済活動と異なり、全てが電子空間の中で運営されているため、社会の変化のスピードが速く、昨日の勝者が、今日は没落の憂き目を見ているからだ。
 a と b は共に21世紀のグローバル市場で運用される経済的地政学戦略である。しかし、現実の日本企業は空白の20年で21世紀的な戦略を行使できなかった。その最大の理由は経営のデジタル化の真の意味を理解できなかったことによる。理解できなかった最大の証拠は組織にCIO室をつくったが、21世紀ビジネスの経営を理解できないCIOの任命で機能が発揮されなかった。またプロジェクトマネジメント体制で業務を進めるためPMO (プロジェクトマネジメントオフィス) を設置したがPMを正しく機能させる人材の登用はできなかった。
 従ってアベノミクスが成功路線を企画しても、現体制では正しく実行できないことを肝に銘じ、経営組織能力の強化がアベノミクスの一つの重要課題として取り上げるべきである。その対策も含めてアベノミクス成功路線にのぞまねばならない。

 c は経済的地政学の適用事例とボランティアを含む非経済的地政学も視野に入れたコミュニティを構成することが求められている。経済性だけでは成り立たないが、ボランティア依存だけでも継続性で問題を起こすためである。
 そこで今月はアベノミクスで成長戦略路線がどの地政学に属し、どのような展開をすることが重要か話してもらえないか。

Z. 承知しました。まず、私が地政学的戦略を持ち出した考えを最初にお話しします。
  ( 1 ) アベノミクス成長路線を成功に導く地政学的戦略とは何か
  1 ) 何故地政学的戦略を持ち出したか
  a. 21世紀型電子・金融空間型経済地政学的戦略の事例で説明します。
  グローバリゼーションとは国際金融資本及び米国が企画した世界制覇戦略です。20世紀末には先進国の需要が停滞し、デフレ化の傾向であったため、国際金融資本は『先進各国の規制をなくして、地球上の多くの国々、特にアジア諸国に、経済発展に恵まれる機会を提供し (目的)、同時に国際金融資本の活躍の場を広げる (目標)』ためのグローバリゼーションという活動を実行しました。
  21世紀型グローバリゼーションにおける地政学は領土や海や空を支配する地政学ではなく、国境のない電子空間の場をつくり、規制なしの経済競争の場を提供することでした。
  国際金融資本と米国は世界経済規模の拡大を図るために新興国への経済力強化策として、直接、間接的な方法で『資金の提供、技術 (含むノウハウ類)、人材』の提供を行いました。
  米国ではデリバティブという100倍のレバレッジ付きの投資金融証券を発売し、国債というヴァーチャルなドルをレバレッジ金として活用することで、新興国との合弁企業を設立し、技術、ノウハウ、人材を提供しました。
  この戦略的政策で新興国に巨大量産工場 (EMS) が建設され、米国は自国に生産設備を持たず、製品の設計・開発や宣伝・販売という得意分野に経営資源を投入するビジネスモデルを確立しました。
  EMSは21世紀に発達した電子空間の場を利用して、グローバル標準の部品類を安値で購入し、自社の低人件費活用という特徴を活かして、グローバル市場に低価格な電子器機を提供しました。
  しかし、①から⑥までのプロセスを成功させるには『ヴァーチャルなドルをリアルなドルに変える仕組み』が必要でした。米国は合弁会社に世界中で売れる新製品を量産させ、その量産品の多くを米国が購入することで、リアルなドルが合弁会社に入ります。合弁会社は収益から借りたレバレッジ分の国債の利子を支払い、グローバルビジネスを成立させるコトに成功させました。更に詳しくは米国と中国との貿易は米国が赤字で、中国製品を買うことで合弁会社は収益を上げられます。そこで赤字分は中国が米国債を購入することでバランスし、その国債の利子は合弁会社の収益から得られる税金を中国が購入した米国債の利子に手当てし、貿易バランスとヴァーチャル対リアルがバランスするシステムを構築することで、21世紀型電子金融空間型経済的地政学的戦略が成功したといえます。このバランスがないとバブルが発生するからです。
以上が21世紀型電子・金融空間型経済的地政学の一つの事例です。
  b. 21世紀型電子・知財空間型経済地政学戦略の事例
  b はモノやサービス等を含める知財のビジネス空間の事例です。楽天モールやアマゾンの事例を借用します。楽天が扱う知財はリアルですが、モールはヴァーチャルの世界です。従って楽天モールに掲載される商品は単なる見本でヴァーチャルです。このビジネスは資本が少なくても、ウェブ場でPRし、消費者が気に入れば、リアルの商品が購入者に届きます。このような誰もが容易にできるビジネスに勝つには、XXモールが消費者の信頼を得るための膨大な努力が必要です。しかし、その膨大な努力も1回の失敗で、消滅するビジネス環境にあります。
  このビジネス空間を電子・知財空間としたのは、現在リアルの店がウェブの店に敗れはじめているため、電子知財空間で勝つための地政学的戦略が求められているからです。しかし、この空間での勝負は商品探し、売れるためのデザイン、ニーズの先取り等単に「モノ」を売る時代と違い、経営理念、統率力、継続性という経営的センスと、同時に先見性、大局観、俯瞰力、柔軟性、異質理解性、それに感性を兼ね備えた能力が勝利を収めています。その事例が楽天のバーチャルモールであり、アマゾンの商品販売です。ただし、ウェブという場が人々に信頼されるための的確な評価基準を創り上げる (しかも時代に合わせて変化できる) 仕組みの努力と試行錯誤のための時間が勝負の決め手となります。
  20世紀では人々から信頼された家電量販店や本屋はリアルである商品を消費者に「目で見る、触れる、顧客の質問に答える」ことができると言う有利性を持っていましたが、電子空間ビジネスとリアル空間ビジネスには大きな差があります。しかし信用さえできれば電子空間ビジネスは、モールという建物が不要、商品の在庫が不要、店員が不要という低価格ビジネスができることです。それがヴァーチャルの有利さです。更に受注後発注ができますから返品不要です。
  最近はアマゾンのヴァーチャル店舗にリアル店舗が負け、リアル店舗は衰退の方向に進んでいます。山田電気は全国で40店舗 (1%) を閉店すると宣言しています。任天堂は面白いゲームソフトを提供することで、ハードを売っていましたが、今はスマフォがあれば任天堂のハードは不要となり、このままでは没落の道をたどるコトになります。
  21世紀は通常の戦略ではなく電子空間地政学が必要であることがおわかり頂けたと思います。

  2 ) アベノミクスに関連する地政学的戦略に関連する種々の形態を定義してみました。
    定義 1. 『強者の地政学、弱者の地政学』
陸続きの隣国を持つ国々は、隣国からの武力攻撃を常に気を配っており、強者、弱者ともども、各自の立場で戦略を考え、それを駆使している。弱者であれば強敵に対し、他国との連合をつくって対抗する戦略で連合は具体的な役割と戦術的な合意を確立すること。
しかし、強者が圧倒的に強い場合は小細工的な戦術は考えず正攻法で注意深く攻め込んで行く。
従って弱者の連合戦略は部分的な勝利で、強者は強者のまま存続するから、常に新しい戦略を駆使して生き延びねばならない。
    定義 2. 『ニーズ開発型コラボレーション戦略』
アベノミクスの地政学的戦略は経済的戦略です。20世紀的な「モノを売る」ための戦略ではなく、相手国に「価値を提供する」視点で発想を展開します。ここでは自らの持つモノを含めた価値に、それ以外の優位性も評価し、敵に勝つ戦略を確立することが肝要です。グローバル市場で勝つことはグローバルの中のローカルに勝利するという意味で、基本的には当該消費地のニーズをつくりあげる戦略が重要になります。
    定義 3. 『ブリッジ・プロデュサー育成戦略』
日本は少子高齢化で次第に人材不足となる。当該国(買い手)と売り手の「協創力」で発展性のある『新しい価値』を生むことが望まれている。当該国の若手人材で両国を繋ぐ(ブリッジ役を務める)プロデュサーの育成が望まれる。
    定義 4. 『利益還元型長期的関係性構築戦略』
両国間の関係が長く継続するには製品・サービス提供者は利益を当該国で再投資することで更なる関係性が強化する。
    定義 5. 『階層別ブランド化プロセス戦略』
当該地マーケットを上流層、中流層、下流層と適宜現地に合わせた分類をし、分類別ニーズをつくりあげる。しかし潜在ニーズは常に変化しているから定期的に検討を進める。10年スパンの実践的戦略を組み込む。
    定義 6. 『日本オリジナル商品の現地化実現戦略』
日本は日用品雑貨、料理、若者ファッション、日本人が好むものは世界中で好まれるという発想で行われる。ただし、それは見本としての価値で、現実は日本オリジナルをどのように現地化するかが地政学戦略の最大のポイントとなる。
    定義 7. 『縦型系列コラボレーション』
コラボレーションは現地と日本のコラボから、SCMの縦系列コラボ(ロジスティックス系の簡素化等のコラボが芽生えてくる)など様々検討する。
    定義 8. 『横展開コラボレーション』
業界間コラボの事例が増える
    定義 9. 『生活環境落差的コラボレーション』
先進国製品を現地の生活環境にマッチさせる、リバースエンジニアリング・コラボレーションを行う。
    定義 10. 『多様性融合コラボレーション』
国別の特徴を生かしたデザインから、異文化コラボ研究会が生まれる。

    これらはアベノミクスが求めている種々の成功路線がそれぞれどのような形態で処理されるべきかを検討する時の事例になります。例えば21世紀型電子・知財空間『多様性融合コラボレーション』地政学と言うような形で表現することになります。
  ( 2 ) アベノミクス成長路線を成功に導くために実行するべき日本の体制改善テーマ
  1 ) エズラ・ヴォーゲル名誉教授ハーバード大学)の『国家戦略の立案力向上』
日経経済教室 5月22日(金)におけるコメント
    「失われた20年」と言われている日本は依然として「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の時代と変わらない良さを継続している。この認識は大切である。しかしこの20年間努力の欠けた下記の項目を改善すべきである。
    女性とシニア労働者を増やし、福利厚生の不平等を減らすこと
この項の政策に成功すれば、大量の移民は不要と考える。
    対中、対韓関係を改善すること
    この問題の解決は日本製品を売るためだけでなく、国防予算の膨張とそれに繋がる軍事的緊張を回避することが重要である。
    大気汚染、気候変動、テロ、自然災害という共通問題に取り組むためには、日中関係の強化が必要である
    必要なのは改めて謝罪することではなく、これらの国の人々が経験した苦しみに対して、日本の国民が思いやりと理解を示し、日本の責任を明確に認識することだ。
    日本の大学の質を高め、国際化を図ること
    日本の大学の質を高め、国際化を図ることだ。日本は義務教育と科学分野の国際化では輝かしい実績を上げてきたが、大学の教育、研究の質はおおむね国際標準に達していない。このため官僚体質の抑制、教員採用基準の引き上げと教員の事務的負担の軽減が求められる
    世界の一流教授を招き、イノベーションに乗り遅れないためには、優秀な教授や留学生にしかるべき待遇を用意する。日本の学生が自国大学で英語によるコミュニケーションを取れるようになれば、海外との交流が自在になりイノベーションも進む
    国家戦略をになう指導者の能力を高めること
    日本の政治指導者の多くは国家戦略を立てるうえで必要な国際情勢や複雑な国内問題の理解度が低い。若い政治家や経営者には国際環境でのコミュニケーション能力を高めるための幅広い教育訓練、外国人の発想の理解力が求められる。
    一部官僚は国益より、省益を優先する誤りを犯してきた。しかし、広視野と、専門的な知識の点で、国家は賢明な官僚を必要とする。早い段階で外国を学ぶ機会を与えられ、政治家や国民は官僚を尊敬し、彼らにエリート意識を与える必要がある。
    以上がヴォ-ゲル名誉教授のコメントで、アベノミクスを成功させるには、欠かせない要素の一つです。
  2 ) 経営のデジタル化への緊急な実施 (次回)
  来月はアベノミクスの各テーマとその戦略を具体的に検討します。
A. Zさん、ありがとう。来月もよろしく頼む。

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