理事長コーナー
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ラグビー日本代表チームで感じたコミュニティの重要さ

PMAJ理事長 光藤 昭男 [プロフィール] :10月号

 「ラグビーワールドカップ 2015」が英国で開催中だ。日本代表チームの初戦の対戦相手は、優勝候補の南アフリカ代表だった。大方の予想を裏切って、ゲームの最後の最後に、なんとロスタイムに逆転し「歴史的快挙」あるいは「劇的な勝利」を果たした。マスコミも熱狂気味だった。しかし、その 4 日後に対戦したスコットランド戦では、残念ながら大敗した。マスコミによれば、スコットランド代表は緒戦であったのに対し、中 3 日休みの日本代表には疲労が残っていたとか、チームの中心ナンバー・エイトのマフィが怪我で途中退場したことが主要な原因だとされている。

 最も関心を集めたのが、いわゆる「日本人」らしからぬ容貌と名前の選手達だ。その理由は、「出身国」であり、「選抜基準」だ。日本ラグビーフットボール協会HPによれば、「出身国 (place of birth) 」は、代表選手31名中11名が海外出身者であり、10名は英字名で 1 人が漢字名を持つ選手である。その選抜基準は、1 ) 出身地が日本、2 ) 両親か祖父母のうち一人が日本出身、3 ) 日本に 3 年以上継続して居住している、の 3 点のいずれかを満たすことである。日本で生まれた“日本”選手は、日本語環境で育ち20名だ。一方、ニュージーランドとオーストラリアの英語ネイティブ出身が 8 名とトンガ王国と南アフリカ共和国の英国連邦加盟国で、ほぼ英語ネイティブと云える選手が 3 名だ。

 指導陣も、エディー・ジョーンズ代表ヘッドコーチ (監督) はオーストラリア出身だし、キャプテン兼ナンバー・エイトのリーチマイケルもニュージーランド出身だ。ただ、二人とも奥さんは日本人だ。日本代表は「日本人じゃないの」あるいは「日本国籍保持者じゃないの」と疑問を呈する人もいれば、「日本関係者の明確な基準があれば問題ない」という人もいるが、大方は好意的のようだ。強い日本の代表選手の「グローバル化」が、日本に勝利をもたらしていると評判になった。

 現在日本ラグビー界に影響力の大きい、元 U23 日本代表で早稲田大学出身、現在トップリーグヤマハ発動機ジュビロの清宮克幸監督の正直なコメントがおもしろい。「向こう30年、この勝利は語り継がれる。・・・自分の考えも変わった。これまで『日本人のための』『日本人にとっての』と考えていたが、国籍や人種の論争はさまつな話だと感じた。本物の勝負の場所に理屈はいらない」と語ったとある。(「清宮克幸の目」 朝日新聞 9/20)

 このこともあってか、ネット上では「純国産でない日本代表チーム」とか「日本代表チームにみる先進性」とか良く評価する言葉が多い。多くの日本人は純粋に日本代表が強豪を倒して勝利したことが嬉しいと感じているのだろう。先進性とは、グローバル化に立ち遅れている日本企業との対比だ。グローバル化の観点から、日本企業で一番の問題とされているのが、円滑で充分なコミュニケーション力の欠如である。監督を含めた12名の海外出身者と、純日本選手との良好なコミュニケーション抜きには勝利は語れない。選抜の 3 基準から推測できることは、日本語と日本文化を体得していることは間違いないだろう。一方で、団体スポーツでは日本語や日本文化を充分解さなくてもチームワークは可能だと云う人もいる。しかし、長時間の試合中を通し、集中力を継続的に維持した中で、また試合の流れが急変した時には瞬時に、お互いの意思・意図を理解し続ける事ができる能力を獲得するためには、充分な訓練を通して言葉と文化の壁を乗り越える関係作りや、良いコミュニケーションの環境作りが必要であり、実際これが体現されて緒戦の勝利に結びついたと思う。2 戦は、高い目標の戦いに勝利した安堵感、中 3 日の疲れの上に緒戦接戦による継続的緊張感による疲労が加わり、慣れない遠征先でもあるため過去の鍛錬が活かし切れなかったのであろう。

 P2M改訂3版では、この関係作りと高いコミュニケーション能力の重要性に触れているが、更に「コミュニティの創造」の重要性を説いている (第6部 第4章)。通常「コミュニティ」は共同体組織を示し、相互の絆や一体感の強さを特徴としているが、「チーム」のような共通の目的・目標やリーダーを持たない。だが「コミュニティ」の特徴を活用できれば「自由な対話による知の交流や、異なる個性をもった専門性の結合」をもたらし、価値創造に繋がるとされる (2-2、2-3節)。その為に「プラットフォームの構築」を推奨している。この「プラットフォーム」では、「規範」を定め、「共通言語」を醸成し、「(オープンな環境でのコミュニケーションを容易にする) コミュニティの場」の利用を通じ、「他者の視点や価値観を受け入れ理解するための共感」を得ることが重要であり、その共感に基づき「相互の信頼を根底に、各自がビジョンを共有し、言語や情報、手順等の共通言語をもとに参加者同士が交流する」。その結果が「文化の異なる人材を結集し、異質な知識や経験を統合した新たな価値を創造する基盤」を作るとしている (2-4節)。

 プログラム・プロジェクトもラグビーもチーム戦であり、「コミュニティ」とは異なるが、チームがこの「プラットフォーム」創りを強く意識し、実際の場で実現する事が出来れば、勝利を意味する「価値創造」を図ることが出来ると思う。それは、チーム一体となって「規範」を創り、維持し、純言語だけでない「共通言語」を確立し「コミュニティの場」を創ることにより、勝利に近づくことだ。グローバル化を狙う企業は「多文化対応 (第6部 第5章)」も必須だが、それにもまして、P2Mでは、日本代表チーム同様の弛みない練習・訓練を通したプラットフォーム創り活用の必要性を示唆している。

以 上

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