6 創造 ●夢工学の F 機能と R 機能を同時・同質に発揮することは、固定概念と先入観を打破する。
前号でラーメン屋の例では、常識や通説に反しても、客と従業員の「感性」を鋭敏に感じ取り、客と従業員の「理性」を徹底的に理解し、自分の感性と理性を信じることで固定観念や先入観を打破し、成功した事を述べた。
筆者は、彼の許可を得て、彼のファンタジーとリアリティーを F 機能と R 機能と再定義し、夢工学の考え方の基礎の一つに追加した。
さて日本の最近のTV番組は、見るに堪えないものが極めて多い。R 機能が決定的に欠落しているからだ。日本のTV界の人達は、番組の面白さや楽しさという F 機能ばかりを追求する。肝心の R 機能を殆ど追及しない。映画人も同じだ。そのため番組や映画の内容が薄っぺらになり、全く迫力が出てこない。
誰もが知っている、家のリフォームの番組の「ビフォー・アフター」は、人気があり、長寿番組になりつつある。その理由は、ファンタジーとリアリティーを充足させているからである。家の完成を夢見る家族達の夢がファンタジーとして感じられる。また完成した家を見て感動し、「匠」の設計家の手を取って感謝の涙を流す。まさしく F 機能を充足している。しかも番組の過程で匠の設計家の巧みなリフォーム・アイデアが提示され、その実現過程を丁寧に見せる。まさしく R 機能を充足させている。
(2) 故・黒澤監督は、F 機能と R 機能の同時・同質達成を主張せず、黙って昔から実践
故・黒澤監督は、世界の映画業界に多大な功績を残した。その事を讃えられアカデミー名誉賞を受賞した。当然である。もっと早く同監督に授与すべきだった。
いづれにしても同監督は、F 機能と R 機能の重要性を世に言葉に出して主張しなかった。しかし昔から黙ってその重要性を認識して実行してきた人物である。
● F 機能と R 機能とは
(1) 「F 機能と R 機能」の同時・同質の発揮こそ発想の秘訣
「F 機能」とはファンタジー機能 (空想機能 = Fantasy Function の F )、R 機能とはリアリティー機能 (現実機能 = Reality Function の R )をそれぞれ意味する。モノとは、事業計画でも、以下で説明する映画制作計画でも、商品、製品の生産計画でも何でも構わない。どちらかが欠けては成功しない。
(2) F 機能は、人間の感性 (パトス) に訴えるもの。 その機能とは、色や形を見る、匂いを嗅ぐ、振動を感じる、音楽を聞く、食べ物を味わうという五感に関係する働きを云う。更に転じて夢、楽しさ、愛情、好み、遊び心、満足感、芸術的感動など「感性的欲求」を充足させる働きも云う。その更に恐怖、驚きなども含む。
これは R 機能と対峙した概念である。また理屈で制御し難い世界、即ち 1+1 = ∞ の世界に存在する働きである。