PMプロの知恵コーナー
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「エンタテイメント論」(90)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :9月号

エンタテイメント論


第2部 エンタテイメント論の本質

6 創造
●本発想法とは (繰り返して述べたい)
 前号までで「発想促進法」①~⑩を説明した。以前に説明した通り、本発想法は、活用のために覚え、その習得に時間と労力が掛かる「発想ルール」、「発想マニュアル」、「発想手順」などを一切求めない。もし求めるなら筆者自身が使わない。

 しかし世の中にある多くの発想法は、その様な事を求める。その結果、ルールやマニュアルなどに気を奪われ、それを体得していると、無意識に束縛されて、肝心の自由奔放な発想が大きく妨げられる。これでは本末転倒である。

 繰り返して述べたい。本発想法の「発想促進法」や「発想阻害排除法」は、便宜的に「法」と云う言葉を使っているが、発想ルールではない。従ってその全てを活用せずに、一部だけ活用して発想しても構わない。また自分に合った方法に変えて活用しても構わない。要は優れた発想ができるか否かである。

 最も重要なことは、発想の基本的考え方として、夢工学式と云う名称の起源である「夢工学の本質」と、発想の源である「創造の本質」を共に体得し、自分に合った方法論で「自由発想 (理性的且つ感性的) 」を実行することである。言い換えると、方法論よりも、その源になる「基本的考え方」が優れた発想を生み出す根源であるという事だ。

人類の歴史は創造の歴史 人類の歴史は
  創造の歴史

 現在、日本を含め、世界中にあらゆる種類の発想法が存在する。また様々な研究が行われている。しかしその研究の歴史は浅く、たかだか50年ぐらいだ。長い人類の歴史から見て比較にもならない。

 言いたい事は、類猿人から人類が誕生し、現在に至る人類の歴史は、既述の通り、「創造の歴史」であるという事だ。我々の先人達は、その様な発想法など一切頼らず、様々な優れた発想によって様々な発明や発見を行い「文明」と「文化」を築いてきた。時に命がけで発想し、命がけで試し、命がけで成功させた。その結果生まれた「生きる知恵」の累積が現在に生きる我々の社会を形成しているのだ。本発想法は、この人類の「生きる知恵」に学んで、構築されたものである。

●発想阻害排除法
 さて今月号から「発想阻害排除法」を順次説明する。

 現存する多くの発想法は、「優れた発想を如何に獲得するか?」いう肯定的観点 (Positive Aspect) からの方法を数多く提供している。しかし「優れた発想を妨げる阻害原因を如何に排除するか?」という否定的観点 (Negative Aspect) からの方法の提供は意外に少ない。前者を獲得すれば、後者は「何とかなる」と考えたためであろうか?

 しかし筆者は、「何とかなる」とは絶対に考えない。何故なら筆者は、本発想法を活用し、様々な新しい事業プロジェクトを発想し、構築し、実現させようとした。しかしその多くは破壊されたからである。私利私欲、責任回避、責任転嫁、挑戦を阻む固定概念や先入観などが破壊原因であった。従って優れた発想をしても、その実現を阻む破壊原因を排除しなければ、その発想は、完全に無駄になる。

夢実現挑戦者 VS 夢破壊者 夢実現挑戦者 VS 
夢破壊者
夢実現挑戦者 VS 夢破壊者

 今月号から紹介する「4つの発想阻害排除法」を厳密に分析すると、4つではなく、もっと多くなる。その事が今後の説明で分かるだろう。しかし厳密な分析で数を増やすと、内容が複雑になり、実用面で使い難くなる。そのため4つとした。

●発想阻害排除法 ①
 優れた発想は、発想を阻害する「固定概念」や「先入観」を排除する事に依って生まれる。


●常識や通説の固定概念や先入観
 多くの発想法は、「常識や通説で縛られる固定概念や先入観を打破しろ」と言う。しかし具体的な打破方法の提示は極めて少ない。また打破することは実際極めて難しい。

 例えば、ラーメン屋を開店する場合の「常識や通説」は以下の通りである。
人通りの多い場所を選ぶこと。
競争店に隣接する場所に店を作らないこと。
従業員のサービス意識を醸成し、社員教育を徹底すること。
職場恋愛、職場交際を制限すること。
顧客満足を徹底すること。
店の客スペースを広くし、多くの客を受け入れ、厨房などのバック・スペースを小さくし、売上効率を伸ばすことなど。


 しかしこれらの常識や通説を守って開店したラーメン屋は、開店数年後、殆ど閉店している。固定概念と先入観に支配され、それらの打破のための「考え方」や「方法」を知らなかったためだ。

●常識や通説を打破して成功した例
 皮肉な事だが、常識や通説の固定概念や先入観を持った業界のプロの意見に従わず、自らの「考え方」と「方法論」を信じて、「汗と涙と血」を流した人が大きい成功を遂げている。

 さてラーメン屋を成功させる「常識や通説を打破した考え方」とは何か? 以下に概説する。

人通りの多い場所を選ぶこと。
客は、支払う「金」とラーメンの「味」及び店の「サービス」を常に天秤に掛ける。もし客が「美味しい、楽しい」という感性的満足を得ると同時に、「支払う代金に納得する」という理性満足を得た場合は、客は必ず再来する。人通りが少ない場所など全く問題無い。人通りが少ないので地代や家賃が安い。傍に駐車場まである場合が多いので客には好都合である。
競争店に隣接する場所に店を作らないこと。
ラーメン店が近くにあったり、隣にあるなら、その様な場所にラーメン店を作ることである。そのことによってお互いに競争になり、店の質をお互いに高められる。そればかりか同種の店が集結している事で客に注目され、集客に役立つ。
従業員のサービス意識を醸成し、社員教育を徹底すること。
サービス意識の醸成と社員教育の徹底は誰しも認める常識である。しかし従業員の意識が「金」のために働く場合、「金」が下がれば店を去る。社員教育を徹底しても同じ結果となる。また社員教育を徹底すればする程、彼らはマニュアル従業員になる。
経営者が店を経営することに「誇りと幸せ」を持つと、従業員も店で働くことに「誇りと幸せ」を感じる様になる (感性的充足)。更に合理的で納得のいく人事評価 (公平、公正、公明) が行われた場合、他店より給料が低くても、納得する (理性的充足)。この様な背景が存在している場合に初めてサービス意識が醸成され、社員教育の効果が生まれるのだ。
職場恋愛、職場交際を制限すること。
職場恋愛、職場交際を制限することなどナンセンス。日本は自由の国である。こんな店では誰も働こうとしないだろう。しかし結構、この種の制限をする店が結構ある事があまり知られていない。
顧客満足を徹底すること。
顧客満足を徹底することは常識と誰しも思う。しかし基本は正しくない。顧客満足の前に「従業員満足」を実現させねば、従業員は、顧客を満足させる真の行動を起さない。そしてこの両者が相俟って初めて「顧客」を本当に満足させられる。基本は従業員満足にある。
店の客スペースを広くし、多くの客を受け入れ、厨房などのバック・スペースを小さくし、売上効率を伸ばすことなど。
店の客のスペースを広くし、売上を伸ばす一方、厨房などのバック・スペースを小さくし店舗効率を上げる。これも常識と思うだろう。しかし基本的に間違っている。正しくは、逆である。客スペースより、従業員スペースを広くするのである。固定観念と先入観を打破する好例である。

 客のスペースが広いと昼食時や夕食時に多くの客が一度に入ってくる。しかし一度に大量の注文が来ることになる。


 一方厨房などのスペースが狭いため従業員は働き難い。狭いため美味しい料理を作る余裕がなく、味は落ちる。料理皿の待機スペースがなく、順番通りに料理を出せない。客からの大量の注文が殺到し、料理を待たされ、順番が違ったことなど苦情まで殺到する。料理場は戦場と化し、怒号が飛び交う。遅れて出され、冷たくなり、美味しくない料理に更なる苦情が生まれる。客は二度とこの店に来なくなる。悪い評判は、「口コミ」だけでなく、「ネット」に流れる。店はあっと云う間に潰れる。

 常識に反して客スペースを狭く、従業員のスペースを広くしておくと、昼時と夕食時に注文が殺到しない。従業員は余裕を持って料理を作り、順番を維持し、暖かい、美味しい料理と丁寧な客対応で客は大満足する。「口コミ」と「ネット」で多くの客が来る。そしてたちまち固定客を形成する。多くの客が店に殺到しても、客席が少ないので店に入れない。入れない客は、店の外に並ぶ。この並びが他の客を呼ぶ効果をもたらす。

つづく

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