グローバルフォーラム
先号   次号

「グローバルPMへの窓」(第95回)
ノマド (漂流者) の話

グローバルPMアナリスト  田中 弘 [プロフィール] :10月号

 英語や他のヨーロッパ語のいくつかに Nomad (仏語とドイツ語では Nomade ) という単語がある。ノマドと読み「漂流者」の意味である。2 年ほど前に日本プロジェクトマネジメント協会のボランティア副理事長の方が、私はノマドですから、と言われ、筆者もノマドそのものです、と返したことがある。
 ヨーロッパでは教えていて、教師仲間や学生から田中さんはパルティザンみたいですね、とか、ノマドですか、とか言われることが多い。学生時代の 1 年間南米南部を陸路で漂流して歩いてノマドの魅力にはまり、長い組織人生活の間は封印していたが、2011年に自由の身になってから、(日本から見て) 東は米国から西はフランスまで、北はモスクワから南はセネガルのダカールまで十字に移動を繰り返している。
 先月号で、北フランスのリール市に居ると書いたが、EDENセミナーが終わって、リールから快速電車で 1 時間のドーバー海峡の港町ダンケルクに遊びに行った。閑静で優雅な港町風景を味わえ、採りたての素晴らしいシーフードが食べられるので私の大好きな町であり、リールの帰路何度か一泊で訪れている。この町は第二次世界大戦の激戦地であり、ドイツ軍に追われた英軍があらゆる船を動員して海峡を越えて必至の撤退を行った地であるので、ダンケルクに行くと告げたら、大学院の英国人の研究科長は、少し複雑そうな顔をしていた。

EDEN Seminar 2015 参加の世界からのプロフェッサーと学生達
EDEN Seminar 2015 参加の世界からのプロフェッサーと学生達

ダンケルクの漁船溜り パリ空港地区ノマドの宿
ダンケルクの漁船溜り パリ空港地区ノマドの宿

 ダンケルクのホテルは立地も良く、宿泊料も安くてお手頃であったが、泊まった部屋の鍵が壊れていて、外側から一回、内側から一回 SOS を出してマスターキーを使って開けてもらった。こういう部屋は当然利用停止とすべきであるが、宿泊客がほとんど居なかったことからすると、注意する客がおらず不具合に気づかなかったのであろうか。部屋係の女性は、お客さん、べつに鍵をかけなくても大丈夫ですよ、と言っていた。
 パリに移ってシャルル・ドゴール空港近くメニール・アムロ村の Hotel Nomad (3 星) に泊まった。よく泊まるホテルの近くに建設中であり名前からして気になっていたが、最近新築なった。ウェブで調べるとなかなかの設備で、ロビーも広く、60ユーロと手頃であるので、リールに居る時にすぐに予約した。実際、部屋の内装は木をふんだんに使い心地よく、省スペース・省エネ、IT化が徹底し、ノマドが泊まるにはぴったりである。空港利用の前泊・後泊客がほとんどであるので、昼12時のチェックアウトの後、広いロビーで、ソファーなり仕事用デスクでフライト・チェックインの時間までゆっくり過ごすことができるのも嬉しく、必要な時間に無料シャトルで空港に送ってくれる。
 パリ空港のトランジットホテルにどのような人が泊まっているかといつも観察していると、観光やビジネスの英国人、米国人、中国人と共に、インド、パキスタン、イラン、レバノン、シリア、ヨルダン、イスラエル、アルジェリア・モロッコ・チュニジア (マグレブ 3 国) 人らしき家族客が多い。後者は、親は母国語 (アラビア語など)、子供はフランス語を話していることが多く、またトランクや段ボール箱を 5 つから 7 つくらい持参していることから推定するに、フランスで職を持っていて一時帰国か雇用契約満了で帰国という状況であろうか。彼らは半分ノマドであるが、一応居住地をもっているが常に漂流している私も半分ノマドである。
 ノマドである私の旅道具はというと、スーツケースは一時小型化に努めたが、結局行きついたのはサムソナイトのEU製超軽量で耐久性の高い中型バッグであり、これに新橋のアウトレット店で買った TUMI の厚型ビジネスバッグを載せて歩いている。このサムソナイトバッグはバランスが良くて移動が楽になり、また収納力が増して、行った先でワインを安く買って持ち帰るなどすごく便利になった。衣類は、日本のノマドの雄フーテンの寅さんは銀座の高級テーラーで誂えた百万円もする黄色いカシミアのジャケットであったが、当方は皺にならないウールとポリエステル混紡の黒のスーツで、あとブレザー、ベージュと赤のチノパン、そして下着はホテルで洗濯して乾きが早いユニクロのものを愛用している。また、一回の旅で大きな気温変化に遭うことが多いので、薄手のウインドブレーカーとカシミアのセーターも必需品である。
 PCは大画面で重い機種からウルトラノートに変えたが、PC側にプロジェクター接続端子が無くて、Windows 8 でHDMIケーブル経由となったので、HDMIケーブルセットを 2 種類持ち歩いているが、いずれもプロジェクタ―側端子と合わないで冷や汗という場面がある (特に国内)。ちなみにWebのブラウザーは、最近中国など一部の国で Google に対する規制があるので、Windows Explorerと、Google Chrome でしか動作しないWebページもあるので Chrome もと、両方日本でセットしておく必要がある。万一PCがダメな時用に、面倒であるがタブレットも持ち歩いている。
 ヨーロッパやアフリカに行くときはプラスティックの弁当箱を 2 つ持っていく。ひとつはパン用、もうひとつは、コールドミートやパスタ用である。朝食ビュフェから、あるいはアパートホテルで自炊した食べ物を、訪問先の街で人の流れを観察しながらのランチや空港での早夕食用に持参するためである。
 当ノマドは 7 月第 1 週から 9 月第 1 週までの 2 か月で合計 6 つのキャンパスを移動して歩いたが、6つ目は石川県能美市の大学院であった。学生は 8 名でバングラデッシュ、ベトナム、マレーシア、インド、タンザニアと五ヶ国からに及んだ。一週間このような授業をやっていて、隣の教室でも、教えているのは米国人の訪問教授で学生もすべて外国人となると、自分はいったいどこに居るのか分からなくなる。彼らは学部では物理、数学、コンピュータ・サイエンス専攻で研究者の卵であるが、彼らと文系出身の私との丁々発止のやりとりは傍から見ていたら大そう面白いであろう。  ♥♥♥


ページトップに戻る