今月のひとこと
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忍びなく

オンライン編集長 深谷 靖純 [プロフィール] :9月号

 ここ数年「今年の暑さはどうしたものだ?」とぼやく回数が増えたように思います。今年はそれに「こんな時期にオリンピックをやっていいのかしら?」が加わるようになりました。確か1964年の時は、「 1 年で一番晴れる確率が高い日を開会式の日に選んだ」という説明があったように記憶しています。今は、主催国が日程を決められないようですが、それって変ですね。

 終戦から70年という節目の年でもあり、8月は戦争関連の記事や番組が目立ちました。ある書店の店頭に、1996年初版の「大本営参謀の情報戦記」 (元大本営情報部参謀 : 堀栄三著) という文庫本が平積みされていました。何となく気になり読んでみたところ、驚くようなことが書かれていました。
 太平洋戦争当時を舞台にしたドラマには、「大本営発表、〇〇沖で我が航空隊は敵空母を〇〇隻撃沈」というラジオ放送に人々が歓喜するといったシーンがよく出てきます。この大本営発表は当時の日本の指導者が戦争を続けるために捏造したものだと言われてきました。しかし、その本によると、現場からの報告をそのまま伝えたものらしいのです。(大敗した戦闘など伏せられたものもありました) 当時の現場 (戦地) では、最期の状況も分からない僚友について不明とするのは忍びないと「戦艦を撃沈して戦死」といった根拠不明の報告をすることが横行していたそうです。上官も忍びなく思い、戦果報告は検証されることもなく大本営にまで上がっていきました。戦果報告を寄せ集めると、敵軍には一隻の艦船も残っていないことになります。それを信じた大本営が攻撃作戦を立て、太平洋各地で多くの命が失われることに繋がったというのです。
 愚かなことが行われていたと片づけるのは簡単ですが、現代でも同様なことが様々な組織で行われているのではないでしょうか。つい最近、日本を代表するような大企業が業績の捏造で問題になりました。捏造を意識していたかどうかは不明ですが、複数の幹部が低い成果のままでは忍びないと思ったのでしょうか。
 殆どの組織で行われていることだと想像するのですが、部下の人事評価を水増ししたことがある管理者は多いのではないでしょうか。例えば、多数の部下について「優秀・標準・劣等を 2:6:2 の割合」で評価するといったルールがあった場合、劣等をつけるのを忍びなく思い、3:6:1 とか 4:6:0 の割合で評価する管理者です。
 プロジェクトの進捗が捗々しくなく、メンバー全員が深夜・休日も使って頑張っていることを忍びなく思い、進捗率を高目に報告するプロマネは皆無でしょうか。順調に進んでいたはずのプロジェクトで、ある日突然、長期の遅延が発覚といったことを聞いたことはありませんか。
 「マネジメントに有用な情報は事実の報告を基に形成される」ことが基本だと、頭の中では理解しているのです。しかしながら、何回となくデスマーチを経験しても、目の前の状況を忍びなく思えば、躊躇なく事実を曲げて報告してしまいます。これは、代々引き継がれてきた文化なので変えられないのでしょうか。

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