今月のひとこと
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つまづいた後

オンライン編集長 深谷 靖純 [プロフィール] :8月号

 先月号の図書紹介コーナーでデニマルさんが取り上げていた又吉直樹「火花」が芥川賞を受賞しました。「火花」が評判になり始めたころ、本屋の店先で数ページ読んで、読み通すのをあきらめました。記者の感性では付いていけないと感じたからです。過去にも付いていけないと感じた作品が多数あります。「ノルウェーの森」「赤頭巾ちゃん気をつけて」「赤目四十八瀧心中未遂」・・。貧弱な読書人生だと思います。

 国立競技場の建替え計画が全面見直しとなりました。プロジェクトのスタート段階で意思決定ができずに迷走するということは、誰もが経験するというほどではないけれども、どこにでも現れるようです。やむを得ない理由というものがあったと当事者は主張するのですが、いずれの場合もその理由が理由になっていないことが多いようです。手っ取り早い対応は、ぐたぐたと言い訳する手合いを切り捨てて、真っ新な体制で臨むことではないでしょうか。
 開発方法でもめたITのプロジェクトがありました。某社の中核システムを更新するにあたって、既存のシステムベンダーを引き続き採用するか、別のベンダーが提案するライバル企業で稼働中のパッケージを導入するか、選択肢は 2 つに絞られました。メリット・デメリットを比較し、戦略的な判断をするのに 1 か月もあれば結論が出ると思われたのですが、IT部門では 1 年以上も結論を出せませんでした。次期IT部長候補と目される実力幹部 2 名による専任の検討チームを組成したのですが、1 年もの間、結論が出ませんでした。実力幹部 2 名がそれぞれに既存ベンダー採用案とパッケージ導入案を主張し、お互いに譲ろうとしないのです。1 年もの間、お互いに何もさせないように見張りあっていただけで、形だけの打合せはやっていたようですが、何の報告書も上がりません。お粗末な話です。なぜそんな状況になっているのかを冷静に分析し、改善策を検討する素振りも見せるのですが、こう着したままです。不思議なことに、ベンダーから幹部 2 名に対する賄賂とか特別な接待とかがあったわけではないようです。2 人が勝手に両ベンダーに肩入れしていただけなのです。両ベンダーは、むしろ 2 人の対立に呆れていたのかもしれません。コンプライアンス問題がなかったことは不幸中の幸いといえるかもしれませんが、何もしなかったことによって会社に与えたダメージはかなりのものだったと考えられます。
 何もしないIT部門に見切りをつけた経営者は、パッケージ導入を決定しました。判断できないIT部門に次期中核システムの開発を任せられるはずがありません。当然の結論です。さらに、パッケージ導入を提案していた幹部を担当から外し、既存ベンダーを押していた幹部をパッケージ導入プロジェクトの責任者に任命しました。1 年以上の空白を放置した経営者でしたが、決着時の経営判断 (人事異動) は当たりだったようで、プロジェクトは順調に推移しました。空白によって生じたダメージを取り戻せたかどうかは不明ですが、想定以上のコストセーブにも成功しました。
 国立競技場の建替えプロジェクトもスタートで躓きがありましたが、締めの段階では大成功というように持っていっていただきたいものです。

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