関西例会部会
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第121回関西例会 レポート

PMAJ関西 KP 樋口 高弘: 8月号

【データ】
開催日時: 2015年7月10日(金) 19:00~20:30
  (20:45~21:45 ワンコイン・ワンアワー交流会)
場所: パシフィックマークス江坂 19階セミナールーム
テーマ: 「管理」をなくせばうまくいく
  ~自律型組織をつくる新しいマネジメントのスタイル~
講師: 倉貫 義人 氏/株式会社ソニックガーデン代表取締役
参加者数: 39名 (スタッフ 4 名含む)、交流会 : 15名
講演概要:  私たちソニックガーデンでは、ソフトウェア業界の問題解決のため、月額定額 & 成果契約という顧問スタイルでの新しい受託開発「納品のない受託開発」に取り組んできました。始めてから 4 年が経過し、今では多くのお客様にご支持を頂くまでに至りました。
 そして、この新しいビジネスモデルを支えているのは、新しい組織のあり方です。リモートワークのような「いつどこで働いても良い」というワークスタイルを実践する私たちが目指すのは、管理なんて必要のない全員がセルフマネジメントできるチームです。
 本講演では、私たちがこれまで実践してきた自律型組織をつくるための取り組みについて、お話しします。
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<講演の様子> <交流会の様子>
<講演の様子> <交流会の様子>

はじめに
 今日がこの会場での最後の例会となる。PMフォーラム,P2Mセミナーや研究会など数年に渡り活用されてきたが、会場提供社のビル移転 (7/21~) に伴うものである。
 そんな中、カジュアルな姿でさっそうと会場に現れたのが倉貫さんであった。2009年に自ら立ち上げた社内ベンチャーを2011年にMBOで独立・創業に至った会場提供社の出身でもある。倉貫さん自身も冒頭でこのビルで働いていたことを感慨深げに語っておられ、ラストランの記念すべき日にふさわしいプレゼンテーターであった。
 IT企業の若手・中核をなす方々、経営幹部の方々も多く参加され、約40名となる関西例会の規模としては大変な盛況ぶりであった。
「納品」をなくせばうまくいく
 ソフトウェア開発業者にとって「どういうことだろう?」と気になる言葉である。プロジェクトを失敗しないためにPMBOKのような知識体系をベースにしたプロセス改善の取組みが行われている昨今、その真逆を思わせる発想とそのビジネスモデルが成り立つ論理を明確に解説されていた。
 特に筆者が印象に残ったのが、以下の点である。
要件定義はしない (見積もりは不要)、できる範囲で小さく作っていく
仕様変更は本来ポジティブなもの (もっといい方法が見つかった)、いつでも対応できる
見積もりしないので、顧客はいつでもエンジニアに相談できる
ドキュメントは作らず納期を死守する約束はしない (納品がないのでバッファは不要)
 このような発想の転換の根底にあるのが、テキストに記載の従来の「ビジネスモデルの構造的欠陥」に対してのものであり、ビジネスの成長をITで支えるための費用対効果を最大限に引き出し、事業の成長に合わせた柔軟性のあるプロフェッショナル集団 (経営を支えるパートナー) にあると理解させて頂いた。
 これらを実現するためには「顧問プログラマ」 (プログラマ兼コンサル) というスキルが要求される。また、その個人力 (属人性) を重視した中でRemotty (全員の顔が見える) を活用したリモートワークでのチームワーク (いつでも相談) を実現し、個人でなくチームの結果が重視されている。更に勤務時間の縛りがないので、ワークライフバランスの実践を可能にしている。
「管理」をなくせばうまくいく
 では、本テーマとなっているこの言葉の「真意は何か?」、いよいよ熱のこもった展開へと進む。顧問プログラマはクリエイティブな仕事が求められるが、それを可能にしているのが、勤怠・進捗・業務の管理をしない (中間管理職を置かない) ことである。すなわち全員が管理職、役割分担はあるが上位下達がない「自立型組織マネジメント」の実践である。また、人生の時間を大事に楽しく好きな仕事を続け、社員とお客様を幸せにする経営哲学、更にストックビジネスへの集中、太いより細い顧客の深耕、安定的収益の余力で部活への挑戦、キャッシュフロー重視などの経営モデルがベースにある。
 次に「管理」のない経営戦略として、1 つ目の業務分掌のない組織戦略では、中間管理職はもとより総務などの間接的職種を増やしてヒエラルキーで支配されないことである。2 つ目のマーケティング戦略では、営業マンを置かず広告宣ゼロに代わるインバウンドマーケティング、顧客満足第一の営業方針としてマーケティングは全員でやるものと位置づけられている。3 つ目の人事戦略では、案件ありきでの採用ではなく人ありきでの採用 (人の見極め) と修行期間を長くとって育成されていることが印象に残る。
 「管理」をなくす取り組みも紹介されており、「企業理念・ビジョンの共有」、「社内コミュニケーション・情報共有」、「社内オペレーション・決裁の考え」など、それらの方法と考え方についてはヒントが隠されており参考にされたい。
 次に「管理」をしなくても人は働くということに対して、求められる人物像が 4 点挙げられていたが、どれも納得いけるものであった。また、社員の成長についても触れられていたが、徒弟制度は確かに伝統的に日本人のDNAとしてあるが、今や大企業では難しくなっており、残念ながら全ての社員に対して実践できる環境にはないと感じる。キャリアパスのところでは、「経営者の仕事もしよう」、「新規事業を起業しよう」というような将来の展望を視野に日々積み重ねるといった企業人にとって大切な視点が描かれている。
 そのような中で「管理」しない経営者の仕事として特に印象的なのは、良い会社とは何かを考え、「変革の率先垂範」、「現場実態に則した制度化」、「迅速な判断」、「形に拘らない本質の追及」、「社員のやりたいことができる環境作り」など、筆者だけでなく身に染みる想いではないかと思う。
 最後に良いことばかりではなく、デメリットや起きた出来事 (失敗や実態) のお話もあったが、後半は駆け足になり深く聞けなかったのが残念であった。
おわりに
 来るべき社会の変化に伴い、企業と個人のあり方が変わっていくお話があり、自立型組織マネジメントの考察からは、これまでにない新しい仕事が誕生し、今までの指示・命令でのマネジメントは不適となって、その新しい仕事のためのマネジメントの変革が起きると言われている。
 筆者は特に自立型組織のためのホラクラシーは重要なポイントであると捉えており、フラットな組織による対等な立場での役割分担を可能とし、ヒエラルキー型で失われた主体性重視のマネジメントが重要になってくると考える。言い換えるとリスクマネジメントを中心とした守りから攻めのマネジメントへの変革と言えるかもしれない。
 多くの気づきを得たという受講者のアンケート結果からも成功裏に終わった認識である。これからも新しいマネジメントの先駆けとしてご活躍を期待し、近い将来再びご登壇頂いて、新しい「目から鱗」を待ち望む次第である。
  【講師を交えた交流会】
 スタッフ含めて15名の多くの方々が参加された。講演では講師の熱弁もあり時間不足の感があった分、1 時間の交流会では講師を囲んで闊達な意見交換が行われた。夜景が素晴らしい会場のオープンスペースでの交流会も今夜が最後であったが、時間が少し超過するほど盛り上がりを見せていたので、最後に相応しい場の提供であったことを嬉しく思う。
 スタッフの皆さん、遅くまでお付き合い頂いた受講者の皆さん、そして倉貫さん、ありがとうございました。

以上

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