理事長コーナー
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システムズアプローチとP2M

PMAJ理事長 光藤 昭男 [プロフィール] :7月号

 P2Mの中でも、システムズアプローチに大変興味をもって、のめり込む人が結構おられる。興味の対象をシステムと捉えて、その挙動や状態を解析するのだから、対象は無限だ。自分の興味のあらゆる対象を理解したい場合に、システムズアプローチはすぐれた方法論だからだ。システムには、境界がある。そのシステムへの入力 (インプット) とシステムからの出力 (アウトプット) がある。制約・制限と外乱がある。システム内部は、多くの要素から成立しており、その要素はお互いに有機的に関係している。

 例えば、人体をシステムと捉えると、皮膚の外側が境界であり、その外側が外部環境だ。外部環境から、システムにインプットされる物は、五感を司る器官を通してシステム内に入る。視覚、聴覚、触覚、臭覚、味覚だが、第六感があるかもとは現在でも否定されていないそうだ。エネルギー源は、健康であればほとんど口から入る。一方、システムから外部にアウトプットされる物は、排泄物だけではなく、声をだす、話をする、身体で表現する。さらに、足を使い移動する、手を使い物を作ったり他の動作の支援をする。頑なになって動かずに拒否することもアウトプットの表現の一種だ。システム内は、お互いに有機的に繋がっている要素の塊だ。制約・制限と外乱がある。食べられる対象の品質、量、それにかかる時間も有限だ。外乱もあげればきりがない。物理化学的な気温、湿度、水や時には酸素濃度なども変動する。経済人・産業人としての人体には、社会経済政治的な変化がインパクトを与える。

 さて、対象や物事を理解することは「分ける」ことだ。ギリシャのアリストテレスは「自然学、第一巻」で述べている。「およそどの学問研究のばあいでも、その研究対象を認識して学問的知識を得るこということは、その対象を成りたたしめている原理 (元のもの)・原因・構成要素となるものを知ることによってはじめて達成される。なぜなら、われわれがそれぞれのものを知りえたと思うのは、それを成りたたしめている第一の原因・第一の原理を知って、その構成要素にまで到達したときにほかならないからである」。(藤沢令夫訳)

 「わかる」ことは「分ける」ことだ。分けて、さらに分けて細分化し、それを統合的にもどすことで理解してきた。「分ける」は、「刀」でこまかくすることだ。「解る」は、刀で牛の角をわけることだ。言い換えれば、対象をもれなくダブりなく分類し、理解できる要素まで分け、要素を理解した上で、出来れば、その過程で原理・原則を発見し、再構成して、対象を統合的に理解する。それが、学問体系だ。ラテン語で「切る」ことを「seco」というらしいが、section (部分)、sect (分派)、scissors (鋏)、そしてなんとscience (科学) と関係がある。

 紀元前のギリシャ、インド、中国においてはじまり、人類は、この方法論によって膨大な自然現象を理解して、生活・産業に応用してきた。分類の学問があるのは当然だが、未分類・未開の分野は多い。大変興味深いことに、ギリシャ、インド、中国とも、万物の根元は「土、水、火、空気」の四つとしていた。それが、旧約聖書の「創世記」や仏教の「俱舎論 (ぐしゃろん) 」、すなわち宗教の教えと不可分だった。「創世記」でも、仏教伝来前の「日本書紀」でも、まず分かれたのは「天」と「地」である。西洋では、ソクラテス、アリストテレスから後は、ルネッサンスを通して、宗教との分離が進み、デカルト (仏、16世紀末) の方法序説、カント (独、18世紀末) の純粋理性批判などで飛躍し、近代科学体系の基礎に繋がり、産業革命に繋がった。

 一方、東洋では宗教が生活習慣と深く交わり人間関係、情、調和と関係したために、中国で火薬や製紙などの発明はあったが、それらが個別利用とされ体系化されず、近代科学の発展では西洋におくれることとなった。科学発展にはその方法論がいかに重要であるかと思う。しかし、近年の冷戦後グローバル化の進展とナショナリズムの高まりにおけるキーワードとされている「多様化」の克服には、この東洋の関係性重視が見直されつつあるのは興味深い。(以上、多くの引用は、坂本賢三氏の著作による)

 システムズアプローチが、人を引き付ける根元は、このような人類の発展と密接であることであろうと推測する。このシステムズアプローチは、ご承知の通りプロジェクトマネジメントの根幹概念である。対象の範囲を決め、インプットとアウトプットを定め、前提・制約を確認して、外乱をリスクマネジメントにて克服して目標を達成する。もれなくダブりなく対象のWBS (work-breakdown-structure) を作成して、適切な要素まで落とし込み、重要な要素に力点をおき対処し、さらに統合化により、目標・目的を確実に達成する。さらに、P2Mのプログラムマネジメントは、プロジェクトマネジメントの方法論の上位概念として、さらに複雑で、拡張性と多義性の対象とする。まだ、方法論としては、途上だと思うが、人類にとって大いに価値ある方法論への挑戦だと思う。

以 上

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