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「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
~強みを見つけ活かす力~

井上 多恵子 [プロフィール] :7月号

 The world needs all kinds of minds 「世の中には いろんなタイプの脳が必要だ」 6月17日に放映されたNHKのスーパープレゼンテーションで紹介された動物学者、テンプル・グランディンのスピーチタイトルだ。幼い頃自閉症と診断された彼女の話では、自閉症の人々は、脳の働き方が一般の人々と異なり、できることと苦手とすることの差が極めて大きいという。彼女の場合は、言語能力が低い代わりに、ビジュアルで物事を捉えており、細部に至るまで描写して記憶することができるそうだ。その力を上手く活かせたことにより、彼女は動物学者として大きく成功することができた。
 私は一般の人の部類に入るが、強み弱みの差が大きい方だと思う。いろんなことを器用にこなせない。例えば、4 年前人事に異動したのだが、Accessが使えないし、Excelを使ったデータ処理にも、相当な苦手意識を持っている。本来なら、人事担当としては失格だ。だが幸運なことに、ある仕事がきっかけで、人事に所属し続けている。それは、10名強の研修生を連れてインドの経営大学院の寮に数週間滞在し、現地の関連会社の研修生と合同で、市場理解力を養う研修を実施するという仕事だった。おなかを壊す人や、ヤブ蚊に刺されて足が真っ赤にはれあがる人や、なまりがきついインド英語で一方的にまくしたてる教授の講義についていけない人が続出した中、私は元気に経営大学院側と折衝し、皆の世話をし、時には講義についていけない人のために、にわか講師の役まで担った。私が貢献できる領域を見出すことができ、その領域を中心に、人事での仕事を続けてきた。
 そして、昨年あたりから、会社を取り巻く環境の変化を受け、追い風が吹き始めた。学びや組織の活性化を支援するファシリテーターや講師の仕事が増え、今、私は自己効力感を高く保った状態で、ハッピーに仕事ができている。どんなに疲れていても、課題が難題であっても、必ず自分はその仕事をやり遂げることができる という自己効力感。そしてうまくやり遂げることができたことが次の仕事を呼び込み、「ありがとう。上手でした」という言葉が心のエネルギーとなっている。次も頑張ろう、もっといい仕事をしたいという気持ちが、私の情報収集のアンテナを高くし、ポジティヴなサイクルを回している。今の時代、関連情報を見つけることは難しくない。数週間前からネットで学んでいる「インタラクティブ・ティーチング」という東大が提供している講座は無料だし、「何か役立つ情報がないか?見つけたい」という気持ちで過ごしていると、さまざまなことがヒントになる。ヨガのレッスンを受けていても、テレビを視ていても、人とコミュニケーションをしている時も、である。その結果、加速度的に技術が進歩している。強みを強化するのは楽だし、楽しいし、早い。
 私の場合、強みが、苦手な方を克服する事にもつながった。以前、html言語を使ってホームページを作成しないといけない事があり、ギブアップ宣言をしたことがあった。私は感覚でボタンを押していくことができないタイプで、一つ一つのステップを決められた順番通りにやっていかないといけない。一夜漬けは得意だが、1 ヶ月に 1 回決められた順番を思い出すようなことができない。それがわかっているからメモするのだが、几帳面に書くということができず、メモの通りにやってもうまくいかない。結局、また一から教えてもらわないといけず、その人にやってもらった方がよっぽど早いということになった。そんな私が、数か月前、ホームページを自分で作成しないといけないはめに陥ってしまったのだ。使っていたプロバイダーから、ホームページのサービスを数か月以内に中止するというメールが届いたことを受け、父が作成していたレジュメプロのホームページを作成し直す必要が生じたのだ。業者に頼むという選択肢もあったが、更新がしづらくなるしコストもかかる。レジュメ作成は、私の強みを活かせる仕事なので、ホームページをなくすわけにはいかない。重い腰を上げて取り組むことにしたところ、html言語を使わなくていいwix. Comという初心者向けの無料サービスを発見。なんとかサイトが完成した!
 すると、苦手なことが克服できたことが嬉しくて、今度はそのサイトをいじることが楽しみになってきた。これからwebページを作成したいという知り合いの人にも、自慢げにやり方を教えている自分がいる。
 プロジェクトチームにはさまざまなメンバーがいる。一人ひとりの強みを見つけ活かすことができたら、よりハッピーなチームになるし、強みがどんどん磨かれ成果も高くなる。
 The world needs all kinds of minds 「世の中には いろんなタイプの脳が必要だ」テンプル・グランディンの言葉を記憶にとどめながら、自信を持って、私自身の強みをより活かしていきたいし、まわりにいる人々の強みを見つけ活かすお手伝いもしていきたい。

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