PMプロの知恵コーナー
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「エンタテイメント論」(88)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :7月号

エンタテイメント論


第2部 エンタテイメント論の本質

6 創造
●発想促進法 ⑩
 優れた発想は、発想を促進する「環境」を整備し、発想に集中した末に生まれる。

●発想を促進する環境
発想を促進する環境とは何か? 明快である。発想に集中できる環境のことだ。それは、
(1)  大変静かな環境、
(2)  大変騒がしい環境、
(3)  静かでもなく、騒がしくもない普通の環境の 3 つである。


また、
(1)  誰からも一定時間、発想を全く中断されない環境、
(2)  誰かから一定時間、発想を時々中断される環境、
(3)  誰かから一定時間、発想を頻繁に中断される環境の 3 つである。


 従って発想する多くの人は、上記の 3×3 = 9 通りの環境の中のどれかで発想していることになる。

 日本の会社や役所では、多くの場合、一般社員や一般職員は、事務所の大部屋で騒がしく、発想が中断され易い環境で働いている。一方社長や知事などの上層部は、静かで、邪魔されない個室で働いている。どちらが発想のために集中できる環境なのか?

●発想のための理想的環境
 「フェルマーの最終定理」の証明に成功したA.D.ワイルズは、数年間、自宅の静かな屋根裏に隠って研究に没頭したと言われている。自宅で研究したことで、誰からも邪魔されず、静かな環境で日々研究ができた。その結果、長年、世界中の誰もが証明出来なかった事を成し遂げた。

出典:左:ピエール・ド・フェルマー、中:フェルマーの最終定理、右:アンドリュー・ワイルズ Yahoo USA
出典 : 左 : ピエール・ド・フェルマー、中 : フェルマーの最終定理
右 :アンドリュー・ワイルズ Yahoo USA

 優れた発想をするには、ワイルズの作った様な環境で発想することが望ましい。しかし多くの研究者、社員、職員は、その様な環境下で発想できないのが普通である。特に一般の社員や職員は、大部屋で騒がしい環境で、いつも誰かから話し掛けられ、発想が邪魔される。とても発想を集中させる事などできない。ならば彼らは、優れた発想をする事が全くできないダメ社員やダメ職員になるのか? 彼らに何か良い「発想集中法」はないのか?

●三上の知恵
 日本の昔からの諺の 1 つに「三上の知恵」がある。

 三上とは、「馬上、枕上、厠上 (バジョウ、チンジョウ、シジョウ) 」の意味である。「馬上」とは、馬に乗っている時の状態、「枕上」とは、枕に乗る意味で、眠る時や目覚める時の状態、厠上とは、便器に乗っている時の状態をそれぞれ意味する。その時の状態が良い知恵が生み出すとの経験則が、この諺を定着させたと言われる。昔の人々が確立させた「発想法」である。

 ちなみに枕の上のことが転じて男が女の上に、女が男の上に乗る時の状態からも知恵が生まれると言われている。この三上の中の「馬上」は、現在の状態に適用すると、「自転車」や「自動車 (一人運転など) 」に乗っている時の状態に置き換えられる。「なるほど!」と合点がいくだろう。


 三上は、昔も、今も似た環境のものだ。しかも身近な生活の場に存在する環境である。従って一般社員も、一般職員も、「三上の知恵」をフルに使えば、優れた発想をする事が可能となる。

●満員通勤電車こそ発想環境
 満員電車で立っていて新聞や雑誌などを広げて無理に読んでいるサラリーマンがいる。周りの乗客にも迷惑である。しかも長い通勤時間、立っているのは苦痛である。通勤が、痛勤となる。何とかならないか。けれども多くの人は「通勤は通勤。何ともならない」と思うだろう。しかし本当か?

 さて人間の「本性」を変える事は極めて困難である。しかし「考え方」を変える事は、本人の努力次第で可能である。通勤でも、痛勤でも同じ事が言える。もし考え方を変えることが出来れば、通勤は苦痛にならなくなる。

 先ず電車の揺れに抵抗して平衡感覚を維持し、時々、片足で立つ。この様な立ち方は道を歩くと同様に相当に足の筋肉を鍛える。毎朝、通勤電車の中でジョギングしていると考えることだ。

 次に立っているため脳の働きを強く刺激している。この状態の時間こそ最大限に活用すべきである。窮屈な通勤環境で無理に新聞や雑誌など読んで脳に情報をインプットしても、脳は反応しない。それよりも逆に、脳から情報を引き出すことである。これなら新聞など広げたりする必要はない。発想作業をしてアイデアを脳からアウトプットする。


 筆者は、友人達の勧めで、彼らとタッグを組み、筆者自身の「産・官・学」の経験を活かし、官僚引退後の現在、経営コンサルタントなどの仕事をしている。しかし最近、それらの仕事を続ける条件で某企業の専務取締役を引き受けた。そのためサラリーマンに逆戻りして、毎日、地下鉄で通勤している。

 この地下鉄乗車の前半は、立っており、後半は多くの乗客が降りるため座れる。前半ではアイデアなどの発想作業 (発信) を行い、後半はスマートフォン、本などで情報入手 (受信) を行っている。居眠りする暇も無い。そして出社時では、何をすべきか、何の情報を得るべきかなど分かっており、直ちに業務を開始する事ができる。

 なお通勤時や退社時に発想した場合の記録方法などについて次号で説明したい。

つづく

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