火花
(又吉直樹著、(株)文藝春秋、2015年3月30日発行、148ページ、第4刷、1,200円+税)
デニマルさん: 7月号
今回の本は、今年 4 月に買って一気に読んだ位テンポのいい本だった。当初、ここで紹介する積りはなく、著者がどんな作品を書いたのか興味があり読んでみた。その内、マスコミも取り上げ、更に文学賞候補にも上がり人気が一気に盛り上がった。この 6 月に入り、トーハンが2015年上半期のベストセラー本の発表をした。その中に、この本は文芸書で堂々の 1 位となり、総合では 3 位と大健闘したベスセラー本である。現在、35万部も売れて、今年度の本屋大賞を受賞した「鹿の王」 (上橋菜穂子著) や直木賞の「サラバ!」 (西加奈子著) を抑えての人気である。この本がこんなに爆発的な売り上げを果たした背景には、お笑タレントが文学小説を書き、しかも三島由紀夫賞の候補になった点ではなかろうか。この略称「三島賞」は、対象を小説、評論、詩歌、戯曲で「文学の前途を拓く新鋭の作品に授与する本」が選ばれる。だから芥川賞に比べて純文学以外のジャンルの作家が受賞している。この本は、今回残念ながら受賞を逃したが、それが一層話題を盛り上げた感がある。
この本の話題 ( その 1 ) ――著者は文学青年 (太宰治に憧れる) ――
著者の略歴が、本の巻末に掲載されてある。ある資料によると貧しい家庭に育ったが、勉強は出来て国語テストの偏差値が75で全国トップになったこともあるという。小さい頃からサッカーを始め、高校時代は関西の強豪北陽高校から大坂代表でインターハイに出場している。趣味は読書で、通算2000冊以上も読んでいる大変な読者家である。好きな作家は、太宰治で、そのイベントも主宰している。文学的才能は、幼い頃から磨かれていたのか。
この本の話題 ( その 2 ) ――漫才と小説 (伝記から文学賞作品) ――
著者は、現在よしもとクリエイティブ所属のお笑い芸人で、コンビ「ピース」として活躍中だ。漫才をやる傍ら、雑誌のコラムに投稿し続けている。他の著書に「第 2 図書係補佐」「東京百景」がある。今回の本のスト―リィは、先輩漫才師から伝記を書く条件で弟子入りを果すが、その伝記が日記風となり小説化していく。お笑い芸人が芸を極めるネタを生みだす厳しい過程を描きながら、文学的表現をちりばめ芸人の悲哀も浮き彫りにしている。
この本の話題 ( その 3 ) ――三島由紀夫賞 (候補に上がるも落選) ――
この原文は「文学界」 (2015年2月号) に掲載された。著者の知名度で同雑誌が重版となり、1933年創業以来の記録的な 4 万部の発行となった。更に、第28回三島賞の候補となったが、選考では惜しくも受賞を逃した。選考委員会の記者会見で、ある委員は「落ちるはずのない作品が落ちた感じ。受賞した「私の恋人」 (上田岳弘著) と 2 作品受賞でも良かった」と述べ、結果として今回の本を後押ししている。その意味で色々と話題性の高い本である。
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