図書紹介
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一〇三歳になってわかったこと <人生は一人でも面白い>
(篠田桃紅著、幻冬舎、2015年4月26日発行、169ページ、第4刷、1,000円+税)

デニマルさん: 6月号

今回紹介する本は、ユニークな題名とオビに書かれた文章が刺激的である。オビには「『いつ死んでもいい』なんって嘘。生きているかぎり、人間は未完成」と103歳の著者の言葉を引用している。著者は題名にもある通り、1913年(大正2年)生まれで、今でも現役の美術家として活躍している。美術の専門分野は書と絵画であるが、墨象と称する「水墨の抽象画」という分野を手掛けている。和紙に墨・金箔・銀箔・金泥・銀泥・朱泥等の日本画の画材を使って、多彩な絵を制作している。特に朱色の使い方に特徴があり、日本だけでなく海外での評判が高い。名前の桃紅(とうこう)は、李白の詩文「桃紅流水杳然~」からとられたという。著者は、今回のようなエッセーも多数書かれ、「墨いろ」(1979年著)では、日本エッセイスト・クラブ賞を受賞している。他に「桃紅えほん」(世界文化社、2002年発行)では、水墨抽象画「抽象」と書「文字(CALLIGRAPHY)」を合わせた作品集を本に纏めている。著者の作品は、大英博物館、メトロポリタン美術館、ボストン美術館等々に展示されている。国内では、日本銀行、増上寺本堂や山梨県民会館等で観ることが出来る。

歳をとるということは?       ――創造して生きてゆく――
著者は90歳で記念展を開き、2013年に生誕100年の展覧会も開催し、歳の節目での制作とイベントを催している。それをこの本でも書いている。特に、百歳を過ぎると前例がないので、全てが自分との創造であるという。だからある年齢を超えると、体力の衰えと戦いながら、新たな創造を繰り返しながら生きている。この二重のハンデイを抱えながら制作しているので、毎日が同じことの繰り返しではなく、道なき道を進んでいると書いている。

1 + 1 が?             ――“10”になる生き方――
人は決められたことだけをやっていても真実は見えない。真実は、見えたり聞こえたりするのではなく感じるので、察することで真実に近づけるという。この察する過程には、雑談や衝動買い等々の無駄と思われるものが含まれている。この無駄な時間の中に、次の何かを生む兆しがある。それは無駄なことを無駄と感じない無為な時間が活かされると書いている。実は人に無駄な時間など無く、1 + 1 が10以上になる可能性があると指摘している。

生かしていただいている?      ――人は人に巡り合う――
著者は過去に何回が死にかけたことがある。第二次世界大戦の東京での空襲で家に焼夷弾が落ちた時と、その終戦後に肺結核を患ったこと等を記している。特に、病に伏している時に医師から「治りますよ」という言葉は、闘病する勇気を与えくれた。こうして今日まで長生き出来たのは、「時宣に適って語られる言葉は、銀の器に盛る金の林檎の如し」(旧約聖書)の様に、人と巡り合って救われながら生かして頂いているからと綴っている。

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