図書紹介
先号   次号

風に立つライオン
(さだまさし著、幻冬舎文庫、2014年12月25日発行、380ページ、初版、650円+税)

デニマルさん: 5月号

今回紹介する本というよりは、音楽の小説化とか映画化と言った方が分かり易いかも知れない。この題名の音楽は、1987年に発売された『さだまさし作詩・作曲』のアルバム「夢回帰線」に収録された曲の一つで、今から28年前のことだ。この名曲に触発されて、多くの方々、特に医師や医療関係の方がアフリカやインド等に赴いて活躍されている。その一部がこの本の解説にも紹介されてあるが、NPO法人として現地や日本でも活動している。更に、当時の活動現場をNHK BSプレミアムがドキュメンタリー番組として放映した。その番組には、現在でも医療現場で働いている人や、ナイロビで結婚された方、青年海外協力隊として現地で教鞭を執られている青年も紹介された。そのドキュメンタリーには、この曲のモデルとなった医師・柴田紘一郎氏と作曲家さだまさし氏、俳優の大沢たかお氏も一緒に現地訪問している。この大沢氏であるが、この曲の小説化を強く後押して実現化させている。その上、映画化では企画を担当し主演を志願して主人公の熱い想いを熱演している。

作詩・作曲さだまさし      ――ありがとう、ありがとう――
この曲をご存知の方も多いであろうが、恋人からの手紙に自分のアフリカでの医療活動の熱い想いを綴っている。その恋人とは結ばれることはなかったが、現地での患者や自然との触れ合いから「風に立つライオン」の如く仕事に立ち向かいたい気持ちを伝えている。この曲のモデルとなった医師と著者は、父親の担当医として40年来の親交があったという。曲中にある「ありがとう」は、主人公の感謝と別離を含めた諸々の気持ちを表わしている。

主人公・島田航一郎       ――オッケー、ダイジョウブ――
この曲が出来て小説化されるまで26年の歳月を要した。著者は、その経緯をあとがきに書いているが、そのヒントは、3・11東日本大震災で活動していたアフリカ医師にあると書かれてある。主人公がケニアで「オッケー、ダイジョウブ」と口癖のように患者や仲間を元気付けていた。その中に少年ミケランジェロ・ンドゥングがいた。当時少年だった彼が医師となり、日本への感謝の気持ちから被災地での医療支援する運命的な巡り合せに繫がる。

俳優・大沢たかお        ――ヤベー、ガンバレー――
この小説から映画の完成までに、大沢氏は影の立役者として色々な局面に登場している。著者との深い繋がりで、今回の映画だけなく過去の「眉山」や「解夏」にも主演を演じている。小説では主人公が口癖としていた言葉が、映画では「ヤベー」と敢えて砕けた言葉に変えたり、日常の挨拶や食事前の「いただきます」等と礼儀正しい日本語も使っている。小説にもあるが、「ガンバレー」は自分を鼓舞する意味でライオンのごとく絶叫している。

ページトップに戻る