例会部会
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『第197回例会』 報告

PMAJ 例会部会 田邉 克文: 6月号

【データ】
開催日: 2015年4月24日(金) 19:00~20:30
テーマ: 「価値創造をもたらす R & D PM」
 ~R & D PM研究会の活動から~
講師: 久保 裕史 氏/千葉工業大学 (社会システム科学部/教授)

【第 197 回例会報告】
研究段階で適用できるPM技法は未確立のままであり、PMAJ内でも「研究開発のためのプロジェクトマネジメント」をテーマとしたSIGが活動 (昨年10月発足) しています。そのSIGメンバーでもある久保講師より、SIG活動とは別に3年前からご自身の主宰で活動されている「研究開発 (R & D) に使えるPM知識体系構築」を目指した研究会 (R & D PM研究会) についての活動の内容と成果についてご講演いただきました。

<講演内容>
~はじめに~
本日お話しする内容は研究開発R & Dに使えるプロジェクトマネジメントの知識体系という大きな目標を掲げて研究会活動をやってきた内容の一部をご紹介することと、半分はこのような研究会を始めるようになったきっかけと、現在の大学にうつる前に経験した企業での研究開発活動、事業開発の内容について話す。

~自己紹介/大学の紹介~
略歴として元々は電気工学で名古屋工大の修士課程を修了し、当時の富士写真フイルムに入社した。大学では半導体工学を研究しており中央研究所へ配属されると言われていたが、中央研究所が解体される悪いタイミングだったため、小田原の磁気記録研究所へ配属となり、一時は辞めたいと思ったこともあった。
しかし、石の上にも三年、その後、磁気記録メディアの研究開発 (12年)、光ディスクの研究開発 (14年)、新規ビジネス開発 (5年) と勤めたところで、2010年に定年扱いの退職制度があったため、それを使い同じ年に現在の千葉工業大学へ着任した。
千葉工業大学は、学生数約 1 万人の私立の工業大学では最も歴史のある大学で、津田沼と新習志野にキャンパスがある。そして、展示スペースとして東京スカイツリーのソラマチ 8F にワンフロア借り切ったところに 2 つの研究所 (未来ロボットセンター、惑星探査研究センター) の展示物と 3D シアターを無料で公開しており、スカイツリーを見に行った際には是非お立寄りいただきたい。ロボットは福島原発で当初人が入れないところの調査に使われデータを集めることで活躍している。また、昨年、NASAのロケットが打上げに失敗した際には大学の流星観測用のカメラが積まれていたため、NHKのニュース 7 で取り上げられた。それらの効果もあり、今年の春の志願者が理工系の大学のトップとなった。

~R & D PM研究活動を始めた訳~
ご存知の通り企業での研究開発はドラッカーが言われるように新しい価値を生み出す/顧客価値を創造することで、そのおおもとは研究(段階)が重要であり、さらに、既にある技術を組み合わせて決められた納期で開発する開発 (段階) が必要とされる。これら 2 つのことを企業では同時に一緒にやることが求められ、当時、悩みながらそこに問題意識を持っており、上手く解決できる方法があるのか考えていた。そして着任したところが、現在の千葉工業大学のプロジェクトマネジメント学科で、17年前にできた日本に 1 つしかない学科だった。他に同じような学科がないか調べてみると,世界中をみてもPMコースとしてはあるが,独立した学科としてはここにしかないこと知った。そのような背景もあり、このPMを使って何とか自分の悩みを解決したいと思ったのが、この研究会の発足のきっかけとなっている。

~富士フイルムでの研究開発活動、事業開発について~
富士フイルム (富士) はもともと写真フィルムを主力にしていたが、2000年頃をピークに奈落の底に突き落とされるように、デジタルにとって代わられた。富士とコダックの比較がよくされるが、両者の違いは選択と集中に失敗したコダックと、ドメインを広げうまくいった富士との違いにある。富士では、2003年ごろ第二の創業と呼ばれる大きな改革を行った。自分たちの技術しか認めないとしていた考え方をあらためて、オープンな知識、オープンイノベーションを進めるべく融知創新 (知識を融合させて新たな技術を創る) を掲げて、新たな価値を創生できるよう研究所をつくった。研究の器としては、先進研究所を新たに建設し1000人ぐらいの研究者を様々な分野から集めた。建物には誰かと出会って話しが出来るように様々な仕掛けをしている。(例、壁を取り払った大部屋、机の配置を斜めにして人と人とがぶつかって話しをするレイアウト,ガラス張り会議室で外から中がみえる, カフェを併設した図書室等) もう一つは、ステージゲート法 (R.G. Cooper) のシステムを厳格に取り入れ、ゲートを設けて審査を行うようにした。テーマが絞られることでリソースを集中させることができることを狙い、さらに、それぞれの段階でマーケットをよく見て、顧客と対話しながら進めることで見当違いの製品ができないようにしている。

~R & D PM研究会の概要~
研究開発 (R & D) に使えるPM知識体系構築を目的に、3年前からR & D PM研究会を始めている。日本の研究投資額はすごいお金をかけている (世界第3位) にも関わらず、研究開発効率が他の国より良くないのは何故か? 研究開発の生産性が悪いのか?それともイノベーションの問題なのか?
それらの対策になる知識体系 (R & D PMBOK) を作っていきたいと考えている。具体的には、価値創造のプロセス (競争環境分析・領域設定>コンセプト創造>事業計画策定・詳細設計>製造>販売・サポート) における、コンセプト創造の領域へ向けて役に立つものができるようにする。理由は、この領域で潜在利益が決まり非常に効果が出る部分であるにも関わらず、体系的な方法論が抜けているためである。

現在会員数は46名 (産 28 名、官 2 名、学 16 名)
主な活動は、月一回の定例会を開催し、隔月で特別講演会を開催しており、
その他、学会・論文・著作発表、シンポジウム開催、視察見学を行っている。
ここ3年間の活動目標は以下の通り、
2012年度 「R & DでPMが使われない原因究明」
2013年度 「R & DでPMの必須要件明確化」
2014年度 「R & DでPMの知識体系づくり」
研究の進め方のポリシーは、各自好きなものを自由にやってもらうことである。
最初は、知識体系に入っているべきものの目次を作って参加メンバーで割り振ろうと考えたが、うまくいかなかった。そこで、初年度の原因分析に基づいて、その課題解決に必要と考えられた 4 つのワーキンググループが中心となり、各自が研究したい好きなテーマをやってもらうことで成果が出始めている。そうした中で、知識体系としてまとまっていくのではないかと今は考えている。現在活動している 4 つのワーキンググループは以下の通り、
啓発ワーキンググループ
R & D活動を議論する共通な枠組み定義し、業種ごとの特徴分析を行う。
PM視点で望ましいR & Dプロセスを定義し、広く活用可能なアセスメントチェックリストを作成する。
定義・ツールワーキンググループ
R & Dのプロマネプロセスとそのあり方を定義の上、活用すべきツールとその活用方法を明確にする。
ステージゲートワーキンググループ
日本型ステージゲート法のプロトタイプを開発する。
人材育成ワーキンググループ
MBBとP2M導入によるR & Dプロジェクトマネジメントのための人材育成マネジメントを提案する。

最後に、この研究会は、入会金、会費無料です。欠席もかまわないし、遅刻早退も大丈夫です。ご興味がありましたら参加していただきたい。        (以上講演内容)

<感想 (レポート筆者) >
研究開発分野へのプロジェクトマネジメントの適用の可能性について踏み込んだ研究をされており、研究開発とはどういうもので、通常のITやエンジ系のプロジェクトとは大きく性質が異なっていることを知ることができました。それ故、あまり身近では聞きなれない手法であるステージゲート法等の存在を知ることができ、私が関わっているIT分野でも参考になる考え方だと思いました。今後さらにR & D研究会の活動が、日本企業のR & D分野の強化に貢献され、日本を元気にする活力になることを期待しております。

最後に、我々と共に部会運営メンバーとなる KP (キーパーソン) を募集しています。参加ご希望の方は、日本プロジェクトマネジメント協会までご連絡下さい。また、この7月には200回の記念例会を企画しておりますので、こちらの方への参加もぜひよろしくお願いします。

以上

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