理事長コーナー
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P2Mを学ぶ中国からの留学生の印象

PMAJ理事長 光藤 昭男 [プロフィール] :5月号

 4月のPMAJ関西例会が大阪にて開かれ講師を務めた。タイトルは「注目されるプログラムマネジメント」で、改訂3版P2M標準ガイドブック (以下、P2M改訂3版) のうちP2Mプログラムマネジメントの利活用の可能性の大きさに気づいてもらうことを目的としていた。P2Mの概要、米国DARPA (Defense Advanced Research Projects Agency : 国防高等研究計画局) とNASAのイノベーションに挑戦するプログラムマネジメント、GoogleがDARPA類似のマネジメント体系を採用している話題を提供し、90分程度話をした。多くの社会人に交じって、京都大学大学院の博士課程の留学生が男女4名ずつ8名参加していた。90分の講義の最後に、女子学生が質問した。「学部でプロジェクトマネジメントを履修しました。法律を専攻しているので、特にリスクマネジメントが重要だと理解しました。プログラムマネジメントにおいてのリスクマネジメントは、プロジェクトマネジメントのリスクマネジメントとどこが違い、どのように重要なのでしょうか?」

 大変よい質問であった。講演では時間的な制約から、P2Mプログラムマネジメントの詳細 (第1部、第2部に相当) は説明せず、プログラムマネジメントの利活用面の可能性に多くの時間を割いた。方法論よりも利活用事例を説明した。説明したのは、プロラムマネジメントとプロジェクトマネジメントの基本属性の違い、その2者には階層性があり上位概念と下位概念としての位置づけ、“それぞれ何を目標にしてマネジメントを行うかに違いがある” (本文第1部 3-4、48頁) ことを述べた。しかし、学生の質問は、プログラムマネジメントプロセスにおけるリスクマネジメントの関係に関する質問であった。はじめてプログラムマネジメントを聞く学生には、分からなくて当然だったのだ。

 「戦略を計画し、実施に移す場合、必ず不確実性を伴うため、戦略とリスクはコインと同じ表裏一体の関係である。イノベーションに挑戦する程、戦略性をプログラムに組み込んでゆくケースが増すため、プログラムのリスクマネジメントの重要性がより増す」訳である。質問への回答では、P2M第2部序章にその概要説明がある「プロジェクトマネジメントの構成」図を用いて解説した。プログラムマネジメントの肝である戦略立案には、必ずリスクが付き物である。そのリスクをすべて網羅し、それぞれのリスクの影響度と発生確率を推測し、対策案を作成し、リスクに備える。不運にも発生した場合には、すでにステークホールダに周知していたリスク対策案の通りに確実に実施し、リスクのPDCAを回してゆく。このようにリスクをマネジメントすることがプログラムマネジメントにおけるリスクマネジメントである。 (「第3章 プログラム戦略とリスクのマネジメント」参照)

 更に、同図には「第4章 価値評価のマネジメント」が、上記の「第3章 プログラム戦略とリスクのマネジメント」と同じように「プログラム統合マネジメント」の全過程において綿密に関係し、常に両者を配慮すべきであると記載している。プログラム成果の価値を測る評価指標は、同時にリスクを評価する指標でもある。この評価指標は、企業の場合では財務的な評価が主体であるが、それに加えて、最近はCSR (Corporate Social Responsibility)、CSV (Creating Shared Value)、ESG (Environmental, Social, Governance) が配慮されて意思決定されていると説明した。首を縦に振りうなずいていたので、理解しているのだと思った。

 講義が終わり、私の周囲を学生達が囲み色々と話をしたが、笑顔を絶やさずに、分からないことを臆せず聞く態度と、何でも学ぶという前向きな姿勢には、なんともすがすがしい印象をもった。京都は遠く、夜遅くなるのでと学生は帰途についた。週明けに聞いた話では、学生達は帰路の電車の中でもP2Mの話でもちきりだったそうだ。ガイドブックも買うそうだ。それらを聞いてとても嬉しく感じた。将来、P2Mを通じての日中交流も十分あり得ると思った次第である。

以 上

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