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「日本再生“アベノミクス”を成功させるために何が必要か」 (13)
地政学的戦略を考えよう (1)

東京P2M研究会 渡辺 貢成: 4月号

A. 先月はZさんから戦略の話があった。日本はこの20年間グローバル戦略を明確に出していない。特に官庁は国債を一手に引き受けて、官僚の政策を実施し、100兆円の金を使っているが、景気回復もまた、税収も全く上がっていない。さらにグローバル市場で活躍するできるためのインフラ整備もおこなっていない。1990年の税収が60兆円で歳出が70兆円であった。だが今は税収が45兆円で歳出が100兆円になっている。韓国はもっと少ない予算でハブ空港の建設、コンテナ船ハブ港湾も建設している。この金があれば保育園の建設もでき、少子化対策もできたろうに、何もしないで消費増税を国民に要請している。Zさんおかしくないかね。
Z. その問題はアベノミクスの実施で解決しています。アベノミクスでは国債を戦略のない官に委託せず、民間に委託する方式に変え成功しました。しかし、これから行う成長路線の政策がまだよく見えていませんが、私は官の悪口を言いましたが、実は民もグローバリゼーションの本質を理解せずに敗北したのです。アベノミクスはこれから行われますが、経営者が変わらなければ戦略なしのモノづくり経営となります。それでは成功がおぼつかないと思います。そこで地政学的戦略を提案したわけです。
A. ではZさん、地政学的戦略の詳しい内容を今日は話してくれませんか。年度も改まったことなので、本年度は戦略の話を中心に議論して、アベノミクスを盛り立ててはどうかな。
Z. わかりました。それでは整理してみましょう。
  何のために地政学的戦略を提唱したのか?→グローバル競争へ乗り出す
地政学的活動をするべき官僚が内向きの戦略になっているからです。地政学的戦略のわかりやすい例としてオリンピックで金メダルを多く獲得する戦略を皆さんで考えてください。戦略とは競争相手に対し日本の優位性をつくりあげることです。
  韓国はなぜ、オリンピックで日本より金メダルが多いのか考えてください。
  Cさんどうですか
C. 答えは簡単です。韓国はオリンピックで勝てる種目を明確に意識し、それらの種目をリストアップしています。そして勝てる種目中心に予算を割り振り、国がその予算で選手を訓練します。そして金メダリストには一生食べられる賞金を提供しまから、選手も真剣に努力します。それが日本より少ない予算で金メダルの獲得率が高いわけです。
Z. 日本のオリンピック戦略は何ですか。
C. よくわかりませんが、オリンピックは参加に意義があるという発想で、多くの種目に予算をつけているように見えます。したがって一人あたりの予算はすくなくなり、日本人のオリンピック出場者は多くの場合手弁当的です。また、金メダルをとっても韓国や中国のように大きなご褒美をだしません。戦略とは戦いに勝つことでしょうが、日本の戦略の基準がよくわかりせん。
Z. 今、アベノミクスのブレーンとなっている斎藤ウイリアム浩幸 (内閣府本府参与、科学技術、IT戦略参与) 氏が日経産業新聞で『ウイリアム氏と明日を読み解く』というコラムを書いています。10月17日の記事に、“1位を目指す意味”という記事があります。『日本の女子サッカーは以前人々に興味を持たれていなかったが、ワールドカップで1位となり、注目度が上がり、ファンが増えました。日本人は「1位」ということの魅力をどの程度感じているか?日本には“判官びいき”という言葉があり、「弱いもの」に対する共感が強すぎるゆえに、平等主義を建前に壁の向こうにある世界への挑戦を放棄している。グローバル化やイノベーションを唱え、新たなビジネスを模索するとき、「1位」を目指す海外のライバルに対し、本当に勝つ気でいるのか疑問に思う』。と
私が地政学的戦略と言っているのは何がなんでも、勝負に勝つために何をするべきかを真剣に考えようという提案です。MBA取得者が20年間グローバル戦略を出せませんでした。グローバリゼーションという変化の速い中での戦略を考えます。20年間国家戦略を持たなかった官僚の政策が世界で通用する筈もありません。
A. なるほど、よくわかったが何をせよというのかね
Z. まず、何を売ったらよいのか、から出発しましょう。20年間の空白でグローバル市場で並みの商品やサービスは既に多くの有力国、企業に占有されています。既存の商品やサービスの提供では太刀打ちできません。“ゼロベース発想”が必要で、ここではまず、漠然と「価値を提供する」ことにします。
A. 価値の提供では漠然としてわかりにくいね。
Z. その通りです。本当は売りたいものが何か私たちは持っています。ただ、ストレートに商品ズバリを提供しても売れないと思います。商品に付加価値をつける必要があります。其の付加価値とは何かを考えるのが地政学的戦略です。地政学と称したのは、目玉商品やサービスを持って、ターゲットの国に出かけ、当地の複数の有能人材を選別し、ベンダーのマーケット部門と共同でニーズ創出を議論します。商品・サービスの研究ではなく、付加価値の研究をするということに新規性があります。価値の付加の事例としては、インフラビジネスでは相手国の人材教育を付加価値として加えます。商品開発では日本と当該国のブリッジエンジニアの育成などが考えられます。商品を売ることより人材の育成は相手国にとって『金の卵』の提供を意味します。そのためには相手国の弱いところ、強いところの調査も必要です。
A. どこに価値があるか探すのが難しくないか。
Z. その通りです。しかし、経営に関しては世界共通で評価する基準を私たちは持っています。P2Mのプログラム統合マネジメントを賢く取りまとめるために考えたツールです。内容を少しお話しします。企業の価値創出力を構造化した図を考えました。今やグローバル競争を一社で勝ちきることは困難です。企業の価値創出力の構造がわかれば自社である程度できますし、できない部分は自社に持っていない分野を提携で強化できます。
A. 面白いね。そのツールは何というのかな
Z. 価値創出のためのOWモデルです。
OWモデルを説明します。P2Mの研究会はP2M開発後価値創出のための構造化研究を行い、名称をOWモデルと名付けました。まず、P2M開発の教祖的存在の小原教授が、「ミッション・プロファイリングにおける洞察力・俯瞰力図」を提供してくれました。この図を利用して経営を俯瞰します。この時俯瞰の高さでグローバル市場の俯瞰、国内市場の俯瞰というモノを構築することができます。そして俯瞰図は9つの視点を掘り下げて検討を進めます。9つの視点とは
  経営とは何か=価値創出力です。それは経営理念、経営ビジョン、経営戦略、実践力、統率力、財務力 を基盤にして価値創出を企業は行っています。
  価値を売るための戦略的4つの視点:①顧客関係性構築力、②販売開発力、③マーケット開発力、④価値提供力 (商品、サービス、ブランド、特許等)
  価値をつくるための資源としての4つの視点:⑤パートナとのコラボレーション力、⑥経営資源蓄積力、⑦業務プロセス活性化力、⑧組織の市場への適応力
  目先にあるSWOT分析ではなく、価値をつくる8つの視点で整理したSWOT分析で問題の見える化をします。
A. たくさん視点があるが、何が大切かね。
Z. ケースバイケースですが、顧客関係性構築力が最も重要で、次に難しいのが売ることです。そのためには顧客選別が求められます。この選別された顧客に何を売るかを考えると、どのような価値が喜ばれるか考えることが容易になります。しかし、最近の商品・サービスは複合的なものが多くなり、1社だけでは困難で、価値をつくりだす能力のあるパートナーとのコラボレーションが必要です。経営資源を多くもつこと、業務プロセスをうまく使う組織、グローバル市場の変化を速やかに吸収できる組織対応能力が求められています。これらの検討なしにグローバルで1位になることは困難です。
C. 9つの視点でビジネスモデルをつくるBMG (Business Model Generation) というツールが米国から提案されていますが、ご存知ですか。
Z. 2010年に発表されています。確かに似ています。9つの視点で特徴を検討し、その組み合わせでBM (ビジネスモデル) を組み立てます。OWモデルは2004年にプログラムの「使命・目的・目標」をつくるための検討項目として創出しました。文章だけではわかりにくいので、来月号で図による説明をします。
A. 内容は面白いが、事例と図があるとわかりやすいな。来月発表してほしい。

以上

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