投稿コーナー
先号   次号

「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
~場を共に創っていく力~

井上 多恵子 [プロフィール] :4月号

 3月に、一般財団法人海外産業人材育成協会 (HIDA) にて、フィリピンからの研修生22名に対し、田中教授と一緒に指導させていただく機会に恵まれた。親しみを感じさせるフィリピンの方々を指導するのは3回目。今回も、前回同様、楽しい2日間だった。
 研修生は、従業員数100名未満の会社の社長や幹部が大半で、親が設立した会社を引きついでいる方が多かった。年齢は20代半ば~60代で、女性が4名。職種も建設業のプロジェクトマネジャーを始め、製造業の方や弁護士の方もいて、多様なメンバー構成だった。1日目は講義。P2Mのコストマネジメント、EVM、品質マネジメントを午前中の3Hで行い、組織マネジメント、チームビルディング、コミュニケーションマネジメントを午後の3Hで行った。通常各々1.5Hぐらいはかけるコンテンツを休憩時間もしっかり取りつつ、時間内に収めるという強硬スケジュールだったのだが、今回はそれなりに上手くできた。田中教授のご指導のもと、何回かこれらのコンテンツをこれまでに講義した経験から、メリハリをつけて説明できるようになったことが大きい。深く説明するところと、軽く説明するところ。そして、インタラクティブにするために、研修生の方々に質問をしたり、彼らの経験を皆に共有してもらったりした。積極的に反応し講義に参加してくれる彼らの姿勢は、有難かった。反応してくれると、私もより元気になるという、ポジティブサイクルを回すことができたから。
 今回の研修生の方々は、学ぶことに、真剣に、まっすぐ向き合っていた。ある30代と思われる男性は、コミュニケーションマネジメントのパートで、こう皆に語った。「我々はリーダーとして、この研修を受けている。来日している間は、職場や自分達の組織のメンバーと物理的に離れているが、学んでいることをメールやスカイプ等で、メンバーに伝えることはできる。伝えることでメンバーを動機づけることができるし、そうすることが、我々がやるべきことなのだ。」こういうことを照れずに、皆に堂々と呼びかけることができるのは、素敵だ。グループワークで、チームビルディングに大事な要素を出してもらった際も、短い時間で意見をまとめ、整理するプロセスは見事だった。田中教授によると、フィリピンの方々で学歴がある方々は、こういったディスカッションに慣れているのだという。
 これまでに接点があったフィリピンの方々は、楽しむことを知っていた。今回の方々もそうだった。1日目の最後に、その日に学んだことをもとに、職場に戻ったら何をするか、一人ずつ宣言してもらった。そして、宣言した後、誰かを指名し柔らかいボールをその人に投げ、その人からコミットメントに対しアドバイスをもらうプロセスを加えた。固くなってしまっても不思議ではないアクティビティだったが、終始笑顔が見られ、年齢や経験年数に関係なく、臆することなくお互いにアドバイスを与えあってくれた。
 私が指導した2日目には、二週間近い研修の集大成となる、グループ発表があった。5年後のフィリピンを考えた際に、大事だと思うプログラムをグループで考え、田中教授が提示するテンプレートに従って整理し、20分で発表するというもの。4つ出たテーマの中で私が特に印象に残ったのが、BPOを通じてフィリピンを発展させるというものだった。勉強不足で知らなかったが、フィリピンは現在インドに次いで二番目にBPOの売上が大きい国になっているそうだ。綺麗な英語の発音、親切な国民性等が評価されているとのこと。今後のビジネス拡大の可能性にも魅了されたが、なんといっても、このグループの発表は、創意工夫に満ち溢れていた。CNNの報道ニュースの体を取り、大統領と企業のCEO役の人々も登場させ、聴衆の関心をひきつけながら発表を進めていった。聞き手が疑問に思いそうな点を大統領役の人がぴったりのタイミングで質問したり、彼らが提案する策に対する支援をその場で、大統領と企業のCEO役の人々から表明させたり。演技力も見事だったし、何よりも、彼らが楽しんで発表しているということが伝わった。そのおかげで、場がとても盛り上がった。工夫すれば、楽しくできるんだということを、彼らが教えてくれた。
 研修は講師一人で作り上げていくものではない。その場にいるすべての人が共に創っていくもの。そのことを彼らが積極的にやってくれたことが、今回の成功要因の一つだった。彼らが実践で成果を出すことを期待しつつ、私も彼らから学んだことを今後の研修や発表の場に生かしていきたい。

ページトップに戻る