投稿コーナー
先号   次号

「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
~教える力~

井上 多恵子 [プロフィール] :3月号

 この数か月間、「教える力」を磨いている。元々ダイバーシティ推進やリーダーシップのためのワークショップは実践していたが、最近は、社内講師の一員として研修を担当しており、それに伴い、講師養成講座を受けたり、同僚が受講している講座をオブザーブしたりする機会が増えているからだ。自分でワークショップを実践する際も、終わった後、自分なりに振り返り、次回に改善点を活かすようにしてきた。しかし、今回改めて、プロの講師の方や同僚からフィードバックを受けたり、他の人が受けているフィードバックを見聞きしたりする中で、レベルが一段上がった気がしている。
 特に私にとって新鮮なのが、社内講師の経験がなく、初めて講師養成講座を受けている同僚達の反応だ。練習してきた模擬講義を皆の前で披露する直前の彼らの表情や発言、やってみた後の感想、撮影した自分の模擬講義の様子を視た時の驚きと気づき。彼らが私を初心に立ち返らせてくれる。私も初めて講師をした時は、どきどきしていたな。それから経験を重ね、成長してきたと思い出させてくれる。また、フィードバックを受けることで、「自分ではできている」と思ったことが、実はそうではないこと、意図したことが、意図したとおりに伝わらないことがあることに気づかされる。と同時に、「教える」ことを通じて、人はいかに成長できるのか、ということも再認識させてくれる。
 同僚達がこんなことを言っている。「自分ではわかっているつもりだったけれど、説明しようとすると違いました。自分がちゃんとわかっていないことがわかりました。本番までには、しっかり練習しようと思います。」「自分では、人の意見をちゃんと聞いているつもりだったけれど、ビデオで視ると違いました。表情に乏しく、つっけんどんな印象を与えているのはショックです。これは変えないといけないですね。」「え~やあの~が口癖になっていることには全く気付いていませんでした。すぐには変えられないけれど、意識するようにします。」
 「意図のある自己紹介」も、多くの人が初めて経験する。どう話せば、社内講師として熱心に話を聞こうという気持ちになってくれるのか。そのためには、講師として自分がふさしいということを示しつつ、適度に話しかけやすい雰囲気も醸し出さなければならない。若手が相手だと、彼らの気持ちに立ってみようとするところからスタートする。社内講師の良さを出すためには、関連する実例も探し出してこないといけない。ぴったりあてはまる面白い実例は、そう簡単には見つからない。「探そう」と意識し続けることで、ふと過去の経験を思い出したりする。その際は、「やった!」と思わず笑顔になる。その過程で、脳も活性化されていることを感じる。講師として、傾聴の訓練もすることになる。受講生の様々な意見をどう受け止め、講義に活かしていくのか。どういった趣旨のフィードバックをどういうタイミングで与えることが、受講生それぞれの理解を一番進めることに最も役立つのか。丸一日講師養成講座を受けると、その晩はぐっすり眠れる人が多いようだ。
 一緒に講師養成講座を受けているメンバー同士の仲間意識もでてくる。同じ部署でこれまではやや他人行儀の接し方をしていた人が、ぐっと距離感を近づけて話をしてくれたりする。求められてはいないけれど、レベルアップを図るために、自分達で学習をしようという話も、同じグループの中で、自発的にでてくる。
 プロジェクトマネジメントにも、「教える力」は欠かすことができない。特に、プロジェクトマネジャーという立場であれば、メンバーの育成の責務も負っている。メンバーに必要となるスキルを教えることが必要だ。その際には、必要となるスキルが何なのか、できるだけ詳しく定義する必要がある。その上で、現状とのギャップを見る。メンバーそれぞれにフィットするアプローチが取れることが理想的だが、現実的には、共通項を探してそれにフォーカスすることが多いだろう。メンバーの育成を目的に、今回述べてきた、一人ひとりが何かを講師として教える、という手法を取り入れてもいいだろう。まとまった時間が取りづらいようであれば、少なくとも、フィードバックをお互いにし合う文化が醸成できれば、効果的だ。相手の行動や発言でいい点を見つけ、言語化して相手に伝える。いい点であれば、皆の前で伝え、それを横展開していく方法もある。あわせて改善点も伝える。言いづらいことをあえて言い、誰かから言われたことを自分も受けとめる。フィードバックをすることで、観察力も磨かれる。
 3月は久しぶりに英語でプロジェクトマネジメントの講義を行う。学んでいることを少しでも活かして、フィリピンから来日する皆さんの学びが深まるよう、お手伝いしたい。そして、今回は、積極的に皆さんからフィードバックをもらうようにしてみたい。

ページトップに戻る