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「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
~20年後も働き続けるための力~

井上 多恵子 [プロフィール] :2月号

 「今後20年で、総雇用者の47%の仕事が機械化で奪われる可能性がある」1月7日付日本経済新聞1面記載の記事「働き方Next」に、こう書かれている。これは、『雇用の未来』の著者であるオックスフォード大学のマイケル・オズボーン准教授の予測だ。同准教授によると、今後は、「機械とともに働く能力を持つ人」が求められるのだという。「経験や勘に基づく能力である社会性、創造力、臨機応変さ」なしにはつとまらない職業が、「残る仕事」の代表になるらしい。
 私が新入社員だった頃、秘書の方が担当していたスケジュール管理の仕事は、今や、各自ができるようになっている。役員や上級職の方であれば秘書がつくかもしれないが、その場合も、単純な管理ではなく、複数の優先順位を考慮できる人が求められている。分厚いバインダーに書類をファイリングする仕事も、ペーパーレス化が進む中、各自がサーバー上の共有フォルダーに格納するようになっている。私が得意とする翻訳や通訳の仕事も、翻訳ソフト等により、ある程度までは代替が可能になってきている。知人に英語指導をしているのだが、先日、その知人が溜息をつきながら言っていた。「こんなに同時通訳機能が発達しちゃうと、英語を学ぶ意欲が減っちゃうんですよね。」もちろん彼らも知っている。学ぶことで得られるものがあること、そして、機械を通して会話すると失われてしまうであろう何かあることを。それでも、技術の進歩に脅威と不安を感じてしまうのだ。
 これを我々プロジェクトマネジャーの世界にあてはめると、何が言えるだろうか?何を心がけていくことで、技術の進歩と共存し、20年後も働き続けることができるようになるのだろうか?すでにゴールが明確になっていることを効率的に進めていくことは、技術の力を借りることでますます容易になっていくだろう。新規性がさほど高くないプロジェクトの場合であれば、過去の厖大なデータベースから類似のプロジェクトを探し出し、時間、スコープやコスト等のマネジメントに必要な情報は、瞬時に提示してくれるようになるだろう。
 一方で、ミッションを考えることや、人を巻き込んでゴールを達成していくことは、代替が難しい領域のように思う。現在の延長戦上にあるプロジェクトであれば、ITでミッションは類推できるかもしれない。しかし、類似例が少ない新規性が高いプロジェクトの場合は、それでは不十分だ。機械的に計算されたものではなく、関わる人たちの様々な経験や考えに基づく、「こういう世界にしていきたい」という想いが反映されている必要があるように思う。常日頃から考え続けた結果結晶化されたミッションは、ステークホルダーの心に直接働きかけることができるだろう。
 また、人を巻き込んでいく際には、人間力が求められる。人は、機械的に動くわけではない。もちろん、ITの力を借りて各人の傾向を知ることはできる。しかし、タイプ別診断などの結果や処方箋をもとに、最終的に、その時々で各人にどう接するのか、どういう表情で、ボディラングエッジで接し、どういう言葉をかけるのかは、その人の人間力が大きく影響する。高齢者のための癒し系ロボット等も開発されてきていることは、良いニュースだと思う。もっともっと進化しより人に近い表情をしたり相手の感情を読み取れたりできるロボットが増えて欲しいとは思う。それらで代替できる部分は代替し、人はより人にしかできない領域に力を注ぐ。
 機械に置き換えられるのではなく、「このプロジェクトマネジャーとぜひ一緒に仕事がしたい」と思ってもらえるようなプロジェクトマネジャーにいかになっていくのか。まず我々がやるべきことは、この問いを自らに投げかけておくことだろう。グローバル化の中で、これまで投げかけられていた問いは、「外国人とどう共存して働けばいいか?」だった。これからは、これに加えて、「機械とどう共存して働けばいいか?」を考えなければならない。
 私は、今人材開発の仕事にたずさわっており、人間力を磨くための研修講師もいくつか担当している。その中には、「人を知る」ことや「多様な見方を知る」ことや「その人の生き生きとした感情を引き出す」ことや「質問力」といった要素が入っている。その講義の質を上げていくことで、「機械と共存して働くことができる人」を増やしていくことに貢献していきたい。それは、私自身が働き続けるために必要なことだ。「あの人にぜひ教えてもらいたい」と言ってもらえるような講師になることが、今の私の目標だ。

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