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「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
~協働する力~

井上 多恵子 [プロフィール] :1月号

 「これまでは、自分がいる工場のみの目線で問題に取り組んできた。しかし、今回の研修を通じて、他の工場で同じような仕事をしている人たちと仲間になれたことで、今後は取り組み方を変えていけると思う。しかも今回は、講師から知識やスキルを教えてもらうという一方的な研修ではなく、自分達がお互いに教えあうという形だったのが良かった。このお互いに教えあうという関係性を今後も継続していきたい。」先日マレーシアで実施したワークショップの締めくくりで、ある研修生がこんな発言をした。
 今回私はファシリテーターとして参加したのだが、この発言を聞いた瞬間、心の中でガッツポーズをしていた。「本質をわかってくれた!ワークショップの準備で週末をつぶしたりもしたけれど、費やした努力が十分報われた。」そんな思いが、頭の中を駆け巡った。その場にあるリソースを最大限に活用するためには、講師やファシリテーターが持っている知識やスキルだけではなく、その場にいる全ての人の知識やスキルを引き出すことが大事。 それを今回社内で実施できただけでなく、その意図を受け手の一人であるシンガポール人をはじめ多国籍のメンバーが感じ取ってくれた。
 その場にある人的リソースを最大限に活用するという考え方は、研修やワークショップに限ったことではない。どんな場面でも適用できる。今回のワークショップを企画している時がまさしくそうだった。2日間におよぶワークショップをどういう形で進めるのか、ほぼ白紙の状態から始めた中で、もう二人のメンバーとアイデアを出し合った。よくあることだが、忙しい時ほど、いろいろな業務が重なる。この時もそうで、三人で集まれるのは、夕方からのことが多かった。そんな遅い時間帯に一人で考えていたら、脳も疲れ、早々にアイデアが尽きてしまい、平凡な案しか出せなかっただろう。三人でブレインストームをすることで、次々にアイデアがより良いものになっていく様を体感できた。ワークショップの企画に関しては、二人より私のほうが、経験値がある。私が出した案に対し、毎回それをよくするためのアイデアが彼らからでてきたわけではない。それでも、「それ、いいですね!」と後押ししてくれるだけで、大いに効果があった。褒められるのが嬉しくて、やる気につながるドーパミンが私の脳内でバンバン出、脳内にある様々な記憶や経験を呼び起こし、つなげ、次のアイデアにつながっていった。さらに、二人からも案が出始め、どんどんいい感じのものになっていく中で、疲れが吹っ飛んでいった。久々に楽しい充実した時間を過ごすことができた。
 もっともっと職場でもそれ以外の場面でも、協働することができれば、質の高い広がりのあるアイデアがでてくる。その際の秘訣は何だろう。まずはなんといっても、誰かが出した案をまずは受け入れることだ。「それ、いいね!よく考え付いたね。」そんな言葉を投げかける。そうすると本人は嬉しくなって、どんどんアイデアを出すようになる。アイデアの数が増えるだけでなく、質もよくなる。今回のワークショップでも冒頭に、「どんな意見も意味のないものはない。」ということを宣言した。参加者達の関係性も大事だ。お互いの価値観を語り合ったり、いいところを褒めあったりお互いにコーチングしあうことで、関係性がよくなった研修生達は、活発に意見を出し合い、お互いを支援しあうようになっていった。多様性も付加価値となる。職場の同僚とだけだとどうしても似通った案になりがちだ。職場を超えることにより、思いがけないアイデアが生まれる。今回は似たような職種の人たちを複数のアジアの国々の異なる職場から集めた。
 今回のワークショップが上手くいったことで、今後、国内外のワークショップのファシリテーターとしての役割が増えそうだ。私の強みは教えることだと思っていたけれど、むしろ、「様々な人々が持っている知識や経験値を引き出すこと」のようだ。参加者達の協働を促していくことをどんどん進めていきたい。いい関係性をつくり、より良い結果につなげていく。2015年の私の大きな目標だ。さて、皆様の2015年の目標は何ですか?

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