PMプロの知恵コーナー
先号   次号

「エンタテイメント論」(85)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :4月号

エンタテイメント論


第2部 エンタテイメント論の本質

6 創造
●発想促進法 ⑦
 優れた発想は、発想の「量」に比例して生まれる。量が「質」を決め、「質」は24時間働く脳によって無意識に判別される。

●アイデアの量が質を決定する。
 「駄作のアイデアを幾ら集めても、秀作のそれは生まれない」、「ダメな人材を幾ら集めても、優れた人材は生まれない」など「量と質の関係」に関する考え方は昔から数多く存在する。しかしこの様な考え方は、ヒラメキや発想の世界には当てはまらない。量(数)が質を左右するからだ。

 筆者が「夢工学式発想法」を説明すると「アイデアの量(数)はどれくらい?」とよく質問される。「多ければ多いほど良い」と答える。「それでは答えにならない。具体的な量(数)を教えて欲しい」と追い打ちの質問を受ける。「それでは」と以下のエピソードを披露する。

 筆者は、(株)セガに勤務時代、最初の「ジョイポリス」を横浜に立ち上げ、その立ち上げまでの間に全国主要都市に同施設建設用の土地やビルを確保し、多店舗展開の基礎築いた。現在の東京お台場にある「東京ジョイポリス」は、その一つである。

出典:ジョイポリス、セガ社
出典 : ジョイポリス、セガ社

 その頃は、ジョイポリスの名前はなく、どんな施設名がよいか悩んだ。とにかく日本や世界から数多くの候補名を集めた。その数は4000弱だったと記憶している。その中から妙な意味や誤解される名前などを除き、候補名を絞り込み、社長の決済を得て命名したのが「ジョイポリス」である。本当に優れたアイデアを求めるなら最低でも1000アイテムは必要であろう。

 余談だが、社長に選択を迫った最後の候補名は、「ガルボ」と「ジョイポリス」の2つであった。ガルボは「皆が集まり、楽しく遊ぶ」という意味の英語の単語を幾つも考え、その頭文字で作った造語である。ジョイポリスは、Megalopolis(超巨大都市)を参考に「楽しい都市」という意味の英語の単語を組み合わせた造語である。

 筆者は、一語で言える名前で響きが良く、スエーデン生まれのハリウッド映画女優の「グレダ・ガルボ」を連想させる「ガルボ」を気に入っていた。当時のセガ中山社長は、「少しおヘソが曲がった人」だったので、筆者が支持する候補名の逆を決めると踏んでいた。

出典:グレタ・ガルボ(Greta Garbo 1905~1990)Yahoo Japan 出典:グレタ・ガルボ
(Greta Garbo 1905~1990)
Yahoo Japan

 「川勝君、どっちを推薦するかね?」と予測通りの質問がきた。前夜からどう答えるか悩んでいた。「もしジョイポリスと言って、万が一”それで良い”となると後悔する。やはりこの際、自分の気持ちに従うべき!」と答える一瞬に決断し、「ガルボは如何ですか?」と答えた。

 「俺は、ジョイポリスだね」。幾らガルボの方が良いと社長を説得しても無駄だった。悔しかったので、後にジョイポリスより小型の室内型施設を作る時、社長を説得して「ガルボ」と名付けた。

●何故、量より質を求めるか。
 多くの発明家や多くの音楽家などは、優れた発想を求めて数多くのアイデアとなるメモを書き残している。トーマス・エジソンは、アイデアを書き込んだ約4千冊のノートを残した。ベートーベンも数多くの作曲メモを残している。

 天才でも数多くのアイデア・メモを残しているのだから、筆者の様な普通の人間は、とにかく量(数)で勝負するしかない。数が多ければ、1つや2つは当たる。確率の問題だ。砂金探しも同じ理屈だ。

出典:砂金探し Yahoo USA
出典 : 砂金探し Yahoo USA

 以前、本稿で披露した通り、筆者は、MCA社のトップから直接、映画をヒットさせる秘訣を聞いた。それは、投資信託と同じ様に「ポートフォリオ」の考え方を採ることであった。ハリウッドなどの映画会社は、毎年数多くの映画を制作し、4~5年を掛けて1~2本ヒットさせる方式を採っている。この方式以外に映画制作事業が成立させる方法はない。量(数)が質を決めている。

 日本の有名な映画会社は、膨大な資金を必要とする映画制作事業から事実上撤退し、映画興業(上映)事業をするだけの会社になった。世界の映画産業のグローバルスタンダードに合致した映画制作会社は、日本には存在しない。しかし多くの人は、所謂「映画会社」は今も在ると信じている。一方TV番組制作会社は存在する。しかしそのコンテンツのお粗末さは目を覆う。もっと優れたアイデアを発想し、優れた脚本を作れないのか? その結果、古臭い表現だが、インテリな若者やインテリな中高年は全くTVを見なくなった。見るとしたらニュースか、TV放映の劇映画だけ。

 重要なことは、優れた発想を得るためには最初から「優れたアイデア」と思われるものばかりを追求しないことだ。我々が日常的に便利に使っているPCも、スマートフォンも、最初から思い付いたものではない。最初は原始的な装置で、誰も相手にしなかったものであった。最初から凄いアイデアを無理に出そうとしても出てこないので諦め、自分にはアイデアは苦手と思い込む。よく聞く話である。

●陶芸クラスの実験
 「アイデアは質より量だ」と言えば無理に優れたアイデアを出そうとせず、気軽にいろいろ考える様になる。この事に関して米国で興味深い陶芸クラスでの実験があった。

 陶芸クラスの生徒が2グループに分けさせられ、Aグループは陶芸作品の「質」で、Bグループはその「量(重さ)」でそれぞれ評価されると言われ、作業が開始された。その結果、最も高い質の陶芸作品を出したのはBグループであった。

出典:陶芸 Yahoo USA 出典:陶芸
Yahoo USA

 Aグループは、優れた作品を求めるあまり、「優れているとは何か?」など理性的に、1点制作主義で取り組み、少しだけ作った。Bグループは「優れているとは何か?」など考えず、自由に、感性的に、多点制作主義で取り組み、数多く作った。その中から優れた作品が生まれた。

●脳は、多くのアイデアの中から優れたアイデアを無意識に選択
 「発散的な発想」で集めた「アイデア」の中から優れたアイデアを見つけ、それを修正して本物のアイデアに育てる「収束的な発想」は、「メモ」を通じて行う地味な作業が必要である。

 しかし不思議な事に我々の脳もその作業をやってくれている。脳が多くのアイデアの中から優れたアイデアを無意識に選択した内容とは、考え、考え、考えた末に突如生まれたヒラメキの内容の事である。筆者自身もその様なヒラメキを何度か経験した。脳が夜も働いていてくれたおかげだ。

 創造作業は、既述の通り、「砂金」の中から「金」を見つける作業に酷似している。まさに「アイデア採掘作業」である。「量が質を左右する」のである。

つづく

ページトップに戻る