協会理事コーナー
先号   次号

人的資源のマネジメント

SCSK株式会社 熊谷 誠之 [プロフィール] :3月号

 筆者は長い間SIプロジェクトのプロジェクトマネージャ、SIプロジェクトを実施する組織の長、プロジェクトを監視する組織の長などプロジェクトに直接的にかかわる役割が多かった。ここ2年は少し役割が変わって、人的資源のマネジメントについて考えを整理する機会があった。今回はそのことについて述べたい。
 言うまでもなく人材は限りある経営資源である。資金と同様に、積極的に人的資源を投下して事業拡大を目指すべき拡大成長領域と、人的資源投入を減らしていくべき縮退領域がある。有限の人的資源を最適に配置するということは縮退領域から拡大成長領域へ人材をシフトすることであり、言い方を変えれば事業の取捨選択に基づく資源の再配分である。そして、それは常に繰り返されなければならない。
 事業の計画を達成するためにどのような人材の状態が求められるのか。どのような役割(職種)でどのような能力レベルの人材が何人必要か。現在の人材の状態と事業の観点から必要とされる人材の状態には当然ギャップがあり、そのギャップを埋めていくことが人的資源の管理として必要である。言うのは簡単だがかなり難しい。能力の可視化自体も難しいテーマだが、IT業界に限っていえばIPA(情報処理推進機構)が定義しているITスキル標準が最もフィットする「ものさし」である。まず、現在の人材に対して職種に応じた能力レベルを評価し、組織全体の職種別能力レベル別人数を把握する。そして事業の計画に基づき、必要とされる人材の職種別能力レベル別人数を事業単位に考察することで、人材のあり方が定義できる。SI事業であれば、プロジェクトの規模を想定し、規模ごとのプロジェクト体制を想定する。想定した体制に対して求められる職種と能力レベルを定義する。例えば、予算20億円程度のプロジェクトであればレベル7のPM、マネージメントスタッフとしてレベル4のPMが3人。アプリケーション基盤構築チームのリーダーはレベル6のITアーキテクト、メンバーはレベル5のITアーキテクト2人、レベル5のDBスペシャリスト2名・・・・・という具合である。あとはどの規模のプロジェクトをどれだけ実施するかを想定すれば、その事業を行う組織が必要とする職種別能力レベル別人数マトリックスができあがる。
 人材の現状とあるべき姿が明らかになった後、このギャップを埋めるにはどうしたら良いか。ギャップを埋める方法は4つである。人数の総数を増やす為の「採用」、場合によっては「M & A」によって外部人材を獲得することもあるかもしれない。能力レベルを上げる為の「育成」。適切な配置のための「異動」。育成は個人別のレベルアップ計画まで落とし込めば実効性が高まる。対象者と目標レベルが明確になれば、必要な教育が明確になる。
 こういった一連のプロセスに習熟していけば、より強い企業になっていくことが期待できるのではないかと思っている。
 「IT人材白書2014 (IPA)」によれば、今後人材を拡大していく上で重視しているIT人材をIT企業に聞いた結果、従業員規模にかかわらず高い割合となったのがPM職であった。PMが足りないという声はかなり前から聞かれるが改善されていない。不足の量と質を具体的に把握し、目標を掲げて育成に取り組むことが必要だと思う。

以上

ページトップに戻る