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「所要期間は数週間?」

プラネット株式会社 シニアコンサルタント 中 憲治 [プロフィール] :3月号

 私の自宅は、利根川と小貝川に挟まれた茨城県守谷市にある。この付近の上空は羽田から北海道・東北などに向かう飛行機の空路にあたる。毎朝のジョギング時には何機もの北に向かう飛行機を見ることができる。毎日見ているとあれはどこに向かう飛行機かが気になり、羽田空港のフライトスケジュールと比較してそれを推定することが楽しみなる。羽田空港から守谷市までは直線距離で40㎞程度あり、飛行機のスピードでは飛び立ってから5分もかからないで守谷市上空に差し掛かることから、フライトスケジュールをアプリで確認することでどこに向かう何便かを想定できる。しかし、それではうまくいかない。そこでそもそもフライトスケジュールの出発時間とはどの時点を指すのかの疑問を懐き調べてみると、次のように定義されていた。出発時間とは飛行機が駐機場から動き出す時間、到着時間とは、飛行機が指定された駐機場所に着き、車輪を止めた時間(どちらも正確には、輪留めが外された時間と輪留めを装着した時間)。これだと私の推定には、羽田空港での滑走路までのタキシングの時間や、滑走開始までの滑走待ち時間が含まれていない。すなわち、飛行機のフライトスケジュールに表わされている所要時間=出発空港におけるタキシング & 滑走待ち時間+滑走開始から着陸までの飛行時間+着陸空港におけるタキシング時間となる。飛行機の所要時間はこのような時間以外で、到着空港における上空待機や天候不順による所要時間の遅れは発生確率が大きく、その遅れも大きいことから、飛行機は遅れるのが当たり前の心構えが利用客にもできていると推定され、飛行機の所要時間はあまり優先度が高くなく、無事に目的地に到着する安全度の方が重視されている。
 不確実性が高いからとの理由で、ある航空会社のフライトの所要時間が数時間と標記されていたらどうだろうか。飛行機だからそれも仕方ないと諦めるのだろうか。「幾ら不確実だからといっても、数時間はないだろう」と多少の不確実性は承知のうえで、所要時間○○時間と記された航空会社の便を利用するだろう。
しかし、我々の周辺ではこの数時間、数日などの言葉は多用されている。例えば、ある製品が故障して修理に出したとする。サービスセンターの担当者に、修理期間はどのくらいかかるのかと質問したところ「数日かかります」との返事をもらう。3日後にサービスセンターを訪ねて修理ができたかと尋ねたところ「まだです、たしか数日かかると申し上げたはずなのですが、あと2~3日必要です」の返事が返ってきた。数日とは2~3日のことではなかったのか、担当者の数日とは何日のことだったのか、多少怒りさえ覚える。このような経験はないだろうか。
 広辞苑で調べてみると、「数日とは、2日~3日、5~6日の意味」とある。
「数日とは2日以上10日未満の日を指す」と記す書物もある。日本語では数日の定義が二つに分かれていることは、年代別に差異があることも指摘されている。すなわち、年齢の高い人は5日~6日と考える人が比較的多く、年齢の若い人は2~3日と考える人がほとんどであるそうである。その理由は不明であるが、義務教育での指導要綱がいつの時か変更されたのかもしれない。
 論理的な言語といわれる英語の世界ではどうなっているかと調べてみると、研究社「新英和大辞典」によれば、a few daysとseveral daysの2語が日本語の数日に当り a few daysは「2~3日」とされており、several daysは、「a few days以上であるが特に多くはない数に用いる」とある。日本語よりは細かく使い分けてあるが、それでもseveral daysの定義は幅が広いと思える。
 数日が2~3日であっても5~6日であっても、状況によってはそれほど大きな違いはなさそうだが、これが数週間や数ヶ月と、単位が大きくなるとその差異は致命的に大きなものとなる。所要期間を数○○とすることは、2通りの定義があることと、単位が大きくなるとその差異が格段に大きくなることの2つの問題があるといえる。
プロジェクトにおいて外注した製品の納期が数週間後と見積もりが出てきたときは、安易に2~3週間と判断しないで、さらに詳細な納期を確認するだろう。
しかし、私たちは日常において、あまり深く考えないで数日、数週間、などの言葉を乱用している傾向がある。仕事を受注した場合、納期の不確実性が高い時は余裕代を考えて、数○○といった所要期間を提示することはリスク回避の立場からは有効なものであると思われるが、立場を替えた発注者側からみればマイナス要素のリスクの高いものとなる。このような言葉を使う時は心したいものである。

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