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プロジェクトマネジメントに精神論は必要?不要?

三菱重工業(株) 土屋 秀樹 [プロフィール] :3月号

百田尚樹著,「海賊とよばれた男」という出光興産創業者の出光佐三氏をモデルにした小説を読んだ方も多いかと思います。
その中に2年はかかるとみられていた徳山の製油所の建設工事を10ケ月で完成したという箇所があり,大変興味深く,ある意味驚きを感じました。その製油所のプラントの規模や小説の中の建設期間の定義の詳細はよくわかりませんが,果たして現代の我々に同じことができるであろうか?と。設計技術 (3Dモデルなど) ・生産技術・建設機械・IT技術,そして知識の体系化を含めたプロジェクトマネジメント手法,どれをとっても,当時と比較して格段の進歩がありますが,設計図面と資機材が全て揃った上でよーいドンということであっても,10ケ月というのは中々簡単にできるものではありません。

プロジェクト遂行は,まず最初に計画を作成し,遂行途中に起こる様々な事項に際して計画を変更したりリカバリープランを立てたりしながら,プロジェクトの完成を目指していきますが,最近感じるのは,遂行要領のマニュアル化やITツールの進歩によってより詳細なメッシュでの計画が立てられる(顧客もそれを要求する)ようになった反面,個々の要素でマイクロマネジメント化して小手先で目の前の火消しに終始することになるが故に,真の問題点やボトルネックにたどり着いてそれを解消するということに時間がかかるようになっていないか?というものです。
プロジェクトで起こるQCDにかかわる問題は,いかに過去のプロジェクトで起きた問題をデータベース化していても全く同一のものはありませんし,個々の問題解決はマニュアル化できるものでもなく,問題が大きければ大きいほどPMを中心にプロジェクトメンバーが一丸となって考えて行動していかなければ解決に時間を要し,結果プロジェクトは遅れていくことになってしまいます。

小説の主人公は,内外に10ケ月で完成させると宣言し,強い意志を持ち,結果それを達成してしまいました。カリスマ社長の精神論を貫いた感じではありましたが,迷うことなくそれについていった人々がいたわけで,我々PMもプロジェクトの目標・目的を明確に発信し続け,プロジェクトメンバーのベクトルを同方向に向けることが必要で,それを精神論と言うのであれば,マニュアルやツールを土台として計画に裏付けられた精神論はとても重要であるということを考えさせられた一冊でした。

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