理事長コーナー
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お弁当と女性が輝くこと

PMAJ理事長 光藤 昭男 [プロフィール] :2月号

 偶然に見ていたNHKの朝番組で、幼稚園児のお弁当の話題があった。子供達は、ただ単純にお弁当を見せ合っている。見ると色とりどりの工夫がされているお弁当が多かった。言うまでもなく、お弁当は朝突然に思いついてできるものではなく、事前プランがあり、材料を取りそろえ、手を加えて出来上がる。前夜に準備しておく人もいるだろう。段取りを間違えると結構手間がかかる。料理へのプロジェクトマネジメント適用もよく盛り上がる話題だ。

 数人の母親にインタビューをしていた。“工夫弁当”を作る母親の気持は複雑で色々だ。純粋に栄養に配慮する人、おいしそうなお弁当を開けて子供が喜ぶだろうと想像して作る人、お弁当を友達と比較しても子供が恥ずかしく感じ、がっかりしたりしないように作る人などだ。自分の事に関する“闘争心”過剰は気を付けて慎む人が多くても、こと子供の事になると事情が違い、自分が恥をかくことよりも、子供に恥をかかせるのは避けたいようだ。

 見ていた家人も子供の幼稚園時代を思い出していた。親が同席して食べる親子会があり、普段より時間をかけて工夫したお弁当を持たせたつもりだったそうだ。しかし、お弁当を開けて、周りを見回すと豪華弁当ばかりだった。同席していた園長先生も、当家の子供のお弁当にしばらく目をとめていていたが、何の発言もなかった。自分が作ったお弁当になんとなく恥ずかしさを感じたそうだ。それからしばらくは、子供のお弁当の内容がグレードアップした。その様な経験が重なると、母親はつい毎回「一生懸命」になって頑張ってしまうのだろう。米国だと、ピーナッツバター・ジャム・サンドイッチが一般的で、それにリンゴが丸ごと付いていれば上出来だそうだ。お互いに争っては作らないようだ。

 お弁当作りは生活の一部だが、生活全体ではない。仕事を含む生活の中で、お弁当作りにどれだけの時間配分をするかという価値判断のはずだ。飛躍するが、視野を生活全体に広げると、いわゆる、ワークライフバランスの問題となる。ワークライフバランスは、Wikipediaによれば「国民一人ひとりがやりがいや充実感を持ちながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活などにおいても、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる」とある。実際の社会生活では、例えば、上記の幼稚園のような集団があり、集団があれば必ず何らかの競争が生じる。結果として、お弁当作りのように、時として感情が理性を上回り、知らず知らず「一生懸命」となり、望んでいない時間を消費し、望んでいないバランスとなってしまう。

 多くの母親は、仕事を持っている。「2011 年の 16 歳から64歳の女性の就業率は60.3%」である(労働政策研究・研修機構,2013)。さらに、「日本では出産・子育て期に女性が就業を中断する“M字型就業パターン”は依然として残っており」、「このようなM字型就業パターンの根強さと表裏一体となっているのは、女性の家事・育児責任の重さである。日本では女性の家事負担率が欧米諸国に比較して非常に高く、家事のおよそ 9 割を妻が担っている。(途中略)さらに、家事・育児のニーズが高まる子育て期の世帯においても、男性の家事参加の状況は硬直的で低いレベルである。例えば、5 歳未満の子供を持つ世帯において、家事・育児時間のうち男性が遂行した時間がしめる割合は 12.5%にとどまっている。ノルウェーの 40.4%やアメリカの 37%と比較して 3 分の 1 程度で、家事・育児のニーズが高い未就学児がいる世帯においても女性がほとんどを負担していることがうかがわれる」(「世帯に見る家事分担」:不破麻紀子;東京大学社会科学研究所)。

 この資料からも、お弁当を用意するのはほとんど母親の仕事である。父親がお弁当だけでなく家事・育児を分担すればよいが、他の色々な調査を見ても、日本の父親は仕事を理由に手伝いこそすれ、分担する人は海外に比較して大変低い。お弁当は、平日、毎日必要だ。些細な仕事だと思いがちだが、家事はそのような些細な仕事の塊である。自分でやってみれば分かることだが、掃除、洗濯だけでもすぐに1時間はたってしまう。女性が企業や社会で活躍するには、この辺りがスタートだ。

 さて、現政府の政策テーマの重要な一つが「すべての女性が輝く社会」である。「すべての女性が輝く社会づくり本部」では、「すべての女性が輝く政策パッケージ」を発表し、多額の予算も取り、政府は本気だ。しかし、最後は、個々の個人や家庭が自己の価値観を何に置くことにより、充実した仕事と生活を過ごすかを決めなくては話にならない。

 組織の「価値評価指標」を決め、その“ものさし”をもってプログラムマネジメントやプロジェクトマネジメントを評価しつつ進めるのがP2Mのやり方だ(改定3版P2M、第2部第4章3.「価値評価指標」200頁)。「すべての女性が輝く社会」を造りあげる行政の政策も、個別の家庭のワークライフバランスを取るのも、ビジョン、戦略、戦術を決めてスタートすることが重要だ。ただ、当面の課題解決は、どうやら男の問題だ。まずは家事分担をすることのみを目標にするとしても、男の身にとっては、大きく重い課題だと思う。しかし、変えることが出来きればイノベーションだ。これに関連する産業も生まれてくる。きっとスパイラルを描きながら変わってゆくであろう。

以 上

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