関西P2M研究部会
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(その1) クレームを経営に活かす!
~クレーム対応仕組み構築のすすめ~

海藏 三郎 [プロフィール] :2月号

 『クレームを制する者が、経営を制する』といえば、言い過ぎであろうか。しかしながら、昔から「クレームは宝の山」として、クレームと真摯に対峙し、クレームを製品の改善や新製品開発に繋げて成長してきた企業は多い。本稿では中小企業のサステナビリティーを念頭において、企業組織活性化のための「クレーム対応の仕組み構築」ついて取組概要を紹介したい。
 なお、本稿は、中小企業診断士の同志である海舟グループ(※末尾注記)が中心となって推進中の「クレーム対応マニュアル作成」の序論部分の紹介であることをお断りしておきたい。
 当ジャーナル読者諸氏の、忌憚なきご意見を賜れば幸甚である。

1.はじめに
 凡そ、製品やサービスを提供することを生業とする事業者にとって、取引相手からの何等かのクレームは必然的である。それは喫緊な対策が求められるもの、致命的な欠陥に繋がる内容、罵声を浴びせられる激しいクレーム、それとなく諭されるようなクレーム等、内容や状況は様々であろう。ただ、どのようなクレームであっても、その対応力が企業の命運を左右すると言っても過言ではない時代になってきた。
 一般的に大企業は、クレームの重要性を認識し、コールセンターやサポートセンター等の組織を社内に有し、迅速なクレーム対応や情報を収集分析し製品・サービスの改善に活かす仕組を構築している企業が多い。しかしながら中小企業においては、クレームの重要性を認識し、クレームを次期製品・サービスの改善に繋げる仕組を構築している企業は稀である。人材やノウハウ等の経営リソースの問題が大きな理由ではあるが、クレームを経営に活かしていくチャレンジ精神の乏しさもある。
 本稿は、クレームの重要性を認識し、クレーム対応力を強化することによって、組織活性化や経営改善を図ろうとする、BtoB事業を展開している中小製造業、特に関西では数多い企業数を有する「金属製品製造業」に焦点を当てたクレーム処理仕組構築手法の概要(序論)である。
 しかしながら、論述する内容や考え方は、上述の業種だけでなく、他の幅広い製造業あるいは製造業以外の業種・業界にも十分適用できると筆者は確信する。

2.クレームの本質
(1) クレームとは
提供する製品・サービスの実態が顧客の期待する要求水準を下回った時に発生する(期待と実態のギャップ)、感情的な要素を含んだ顧客不満足の表明
特に製造業においては、品質・納期・コストに起因するものが多い
クレームには組織的な対応が重要である
  クレームの本質的原因は何か
クレーム内容の顕在化した要因(製品欠陥等)だけでなく、クレームに内在する潜在的要因(たとえば日頃の顧客関係等)を分析することが重要
  製品・サービス固有の問題か、あるいは企業レベルの問題か
偶々、該当する製品・サービスで生じたクレームなのか、同様のことが他の製品・サービスで起こっていないか、企業レベルでの問題ではないかを吟味することが重要
  適切な処理がなされているか
クレーム対応は迅速性が重要である。原因の解明に時間を要し、すぐに抜本的な処置が出来ないクレームでも、現状を速やかに報告・連絡する真摯な姿勢が重要である。
  サービスの改善など価値創造プロセスへのフィードバックの視点
クレーム内容を分析処理し、次期製品の改善や、サービスの改善に繋げていき、新たな価値を創造する仕組構築が重要である。
(2) クレームとコンプレインについて
 日本では広義の意味で両方を“クレーム”と表現している。しかし、一般的には、クレームとは「法に抵触している問題」のことであり、コンプレインは「お客様の感情的な主張を指す」、という見解が主流である。すなわち「クレーム」とは、顧客側からすれば、正当性のある当然の権利として要求する、法的な損害賠償や支払要求である。一方、「コンプレイン」は顧客側の感情的な要因による不平、苦情、主張等である。
 この見解に立脚すれば、提供側のメーカーとしては、「クレーム」は顧客側に損害・損失を与えたことになり、その結果として、何らかの金銭的(物的・人的含む)支払が発生することになる。逆に「コンプレイン」であれば、顧客側の感情的な、一方的な主張であり、適当に対処しておけば良い。極論であるが、そういう見識が生じても不思議ではない。
 ただ、実際の現場においては、当初から「クレーム」と「コンプレイン」を明確に区分けはできない。顧客側から、かなり感情的な厳しい罵声を浴びせられた場合に、それが「クレーム」に該当するのか、「コンプレイン」なのかは、即座に判断はできない。前述したように、受付けたクレーム(苦情)の本質的原因を探求するような、組織的対応が重要である。また、状況から判断し、その苦情が「コンプレイン」であったとしても、その対応を誤ると、企業にとって大きな禍根を残し、信用を落とす等の経営的影響は大きいと考える。
 よって、本クレーム対応においては、「クレーム」と「コンプレイン」の明確な区別はしない。すべて「クレーム」で統一し、まとめている
 下記の図は、上述した内容を図示したものである。

  クレーム コンプレイン
顧客の対応 正当性のある当然の権利として要求
法的な損害賠償や支払要求等
法的根拠はない感情的な要因による不平・苦情・要求等
メーカー(提供)側の対応 顧客側に損害・損失を与えたことになり金銭的(物的・人的含む)支払が発生する 原則、金銭的支払いは伴わないが、真摯な対応が重要

その1 は以上です。
次回は、3.金属加工業のクレームの特徴から述べていきます。

(注記) 海舟グループとは、「中小企業のクレーム対応力強化を目指す」仕組みを構築するために、2013年10月に結成した中小企業診断士の集まりである。現在、吉松(代表)、小路、柿原、海藏の4名のグループである。

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