ジャパン・ディグニティ
(高橋美由紀著、(株)産業編集センター、2014年10月20日発行、337ページ、第1刷、
1,300円+税)
デニマルさん: 2月号
今回紹介する本は、書店等では余り目立っていないが幾つかの話題性がある。一つは、第1回(2014年)「暮らしの小説大賞」の受賞作である。この賞は第1回とある通り、今回が初めてなので殆ど知られていない。この主催団体は、㈱産業編集センター(本社:東京、1980年創立)で、主に社内報の編集等を手掛けている。2004年から「ボイルドエッグ新人賞」を後援していて、「鴨川ホルモー」(万城目学著)や「サザエ計画」(園山創介著)等を世に送り出している。現在、出版業界は9年連続の売上額減少傾向にあり、「書籍離れが」深刻化していると専門家はいう。そんな中、新たな書籍販売にチャレンジする出版社にエールをおくる意味で、この本を取り上げた。二つ目は、この大賞だが、「日々の暮らしの中から、小説を身近なものにする」ために新設したとある。新分野開拓と今後の活躍を期待したい。
ジャパン・ディグニティ ――ジャパンは日本でなく「漆器」――
題名のジャパン・ディグニティとは、本の内容から直訳すると「漆工芸の気高さ」であろうか。舞台は、青森県の岩木山麓のある地域である。そこは過疎地帯の一つで、津軽塗の職人が父親で、地元スーパーで働く娘さんが主人公である。漆工芸で生計を維持出来るほどの仕事はない。副業を提案する母と父とは意見が折り合わず両親は離婚、娘が津軽塗の仕事を手助けする。それをオカマの弟が醒めた目で見ている一家の日常生活を描いている。
過疎地での仕事と生活 ――高齢化と伝統工芸の継承――
漆工芸と言えば輪島塗や会津塗が有名だが、この津軽塗はシャープな感じがなく「野暮ったく重い」感じの塗物だ。バカに塗ってバカに手間暇かけてバカに丈夫と三大バカの「バカ塗」とも呼ばれ、50近い工程を経て制作されている。その結果、高価な値段で売られ、昨今の大量生産された廉価版製品には対抗出来ず、自ずと消滅傾向にある。職人の高齢化と需要低迷で後継者が不在である。しかし、主人公は伝統工芸継承に挑戦する決意をした。
地方創生のコラボレーション ――グローバリゼーションの道――
著者は青森在住なので、この本に多くの津軽弁が出てくる。注釈を必要とする難解さがあるが、津軽塗とダブッタ迫力ある文章である。そんな中でオカマの弟が同姓婚を認めるオランダに恋人と移住する。そこからの情報で工芸展に津軽塗の出展へと物語は展開する。どんなコラボレーションをして、その結末がどうなったかは読んでのお楽しみである。斜陽化した伝統工芸品を別な世界で活路を見出す物語は、地方創生の一つのあり方かも知れない。ジャパン・ディグニティは「漆工芸の気高さ」を超えた「日本の品位」とも読める。
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