PMプロの知恵コーナー
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サムライPM (010)
武道と士道の系譜 (その7) 【余話】
~outer worlds vs. inner worlds~

シンクリエイト 岩下 幸功 [プロフィール] :1月号

2015年の新年おめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。

 趣味で絵を描いていますが、絵を描くということは実験であり実践です。実験ですから必ず答えが出ます。その答えに反応して次の行動が起こります。その意味で、極めてボトムアップ的な試行錯誤(try & error)の試みだと言えます。
何に対して試行錯誤するのかといいますと、モデル(model)とイメージ(image)と作品(work)間でのトレードオフ(tray-off)的な試行錯誤を行っているように思います。
モデル(model)というのは「制作対象となる素材」のことです。これには外界(outer worlds)から抽出されたouter modelsと、内界(inner worlds)でイメージ(image)として生み出されたinner modelsの二つがあります。inner modelsは、カントの言葉に従えば、「知情意」つまりは「知性(何を知りうるか)」「感情(何を感じるか)」「意思(何をなすべきか)」を備えた、全体的な存在としての「自分(自分とは何か)」から生み出されるものです。外界を感知する五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)をインターフェース(I/F)として、outer worlds(外界)とinner worlds(内界/自分)という二つのドメイン(domain)が存在することを実感しながら描いています。
 絵画の制作は鑑賞(appreciation)と表現(expression)から構成されます。鑑賞とは、モデルなどの対象を、視覚を通して自己のなかに受け入れて味わい、その美的な性質や価値を判断・評価する心の動きです。表現とは、鑑賞により受け入れた美的な性質や価値を解釈し、その感情を自分のイメージ(image)として再構成し、外に表す行為です。イメージ(image)というのは「心の中に思い浮かべる像」のことです。鑑賞したモノをイメージとして心に描き、そのイメージに基づき表現するという意味で、鑑賞と表現は表裏一体で、イメージがその間の媒体(media)と考えることもできます。
鑑賞には、主観的に感じる面と客観的に知る面の両方が含まれます。前者は自分の心に直接訴えかけて感覚的、感情的に楽しむことであり、後者は価値を評価しつつ知的に解釈することです。これは表現に於いても同じで、感覚的、感情的に訴える面と知的に構成する両面が要求されます。何れにしましても、「モデル→鑑賞→イメージ→表現→作品→鑑賞→イメージ→・・・」というインタラクティブな繰り返しの中で作品を仕上げていきます。
 絵画にはモチーフ(motif)という言葉があります。モチーフというのは「表現の動機・きっかけとなる想い」のことです。このモチーフに基づき「制作対象となる素材」がモデルとして選択されます。モチーフが漠然としていると、モデルも選択できず、手が付けられない状態です。モチーフは絞られたけど、気に入ったモデルが見つからないという状態もあります。モチーフが曖昧な状態では、モデルが強く出過ぎて「見たままを描く」ということが強調され、目の前の素材をそのままを写し取ろうとします。描かなければならないのは、ありのままのモデルをそのまま描くことではなく、モチーフをベースに自らの心に抱くイメージを一生懸命作り上げ、そのイメージに基づくモデルの本質や自分の想いです。様々なモデルが身の回りにあふれています。そのようなモデルの持つ情報をどのように活用するか。どのように自分の表現に展開するか。素直にモデルのように描いても、そこにはモデルへの解釈が入り、モデルとは異なった表現になるものです。モデルは豊富な情報提供をしてくれますが、それをどのように表現するかを構想することが重要です。写真と異なり絵画は、単なるリアリズムを超えた探求を試みる作業であり、独自の表現を獲得していく作業といえます。従って、絵画には画家の数だけの個性があります。

an inner world -HERE, NOW- 950 x 1850 mm  何れにしましても、outer modelsの場合は、外界にモデルを求め、自然が定めるイメージを再現する風景画が主となります。一方、inner modelsの場合は、自分が内心に思い描くイメージを追及する心象風景画になります。心象風景とは、現実ではなく、心の中に思い描いたり、浮かんだり、刻み込まれている風景のことです。最近はこのドメイン基づき、風景画と心象風景画の二系統で制作に励んでいます。
心象風景画は最近描き始めましたが、暗中模索しています。風景画のようなouter modelsがありませんので、ある意味で自由度が拡大し、外的な制約やストレスは少ないようです。その分inner modelsの頼り無さ、手応えの無さ、取っ付きにくいさ、根拠の無さ、自信の無さ等で、不安・不安定になります。頼るべきは自分自身の想いのみですので、作品(work)とイメージ(inner models)とのやり取りのみで、自問自答しながら、手探りで進めています。これが楽しいか?苦しいか? 私には未だ分かりません。「自分の好きなように描く!」ということは簡単なようで、これ程難しいことはないと感じるこの頃です。

an outer world -MITAKE- 730 x 2060 mm

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