PMプロの知恵コーナー
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サムライPM (009)
武道と士道の系譜 (その6)

シンクリエイト 岩下 幸功 [プロフィール] :12月号

2.武道としての武士道
「信長vs.秀吉vs.家康」のリーダー像
「信長vs.秀吉vs.家康」のリーダー像

 織田信長は、発想者(Visionalist)として新しい時代を予見し、「天下布武(七徳をもって天下を治めるという意)」というビジョンを掲げて、近世への扉を開いた。過去のしがらみに拘束されず、あらゆる矛盾や非合理を認めない合理性の持ち主であった。独自の価値観や理念に基づき、斬新な発想とスケールの大きな決断力及び行動力で革命を推し進めた。出生に拘らず有能な人材を広く受け入れる柔軟な頭脳の持ち主でもあった。そのようにして集まった個性的な人材を、適材適所に配し、大幅な権限委譲と共に十全に能力を発揮させた。しかし己の能力を過信するあまり、人の心が読めなかったために、非業の死を遂げることになる。自らの鋭い感性のみを頼りに、ドライでマイペースなトップダウン型プログラム指向の人物といえる。
 豊臣秀吉は、徹底した実践者(Realist)として信長に仕え、理念理想とは無縁に自分の出世だけを追求し、最後には天下人としての「成功と失敗」を手にする。人間心理に精通した人たらしと言われるように、現実的な世の中の流れや人々の想いを鋭く感じる能力を持っていた。欲望、恐怖心、ずるさ、汚さといった人間臭い部分を上手に利用し、調略の手腕でのし上がってきた現実主義者である。しかし基本的に、人を信用することができず、過度の権力集中とえこひいき人事で命運を縮めることになる。上昇指向が強く、都度目標設定を繰り返しながら弱肉強食による淘汰を生き延びた様は、極めてボトムアップ型プロジェクト指向の人物である。従って、発想者信長と実践者秀吉とはある意味で、理想的な補完(主従)関係といえなくもない。
 徳川家康は、二人の生きざまを目の当たりにしながら多くのことを学び、最終的に統合者(Integrator)として、先の世を見据えた新しい秩序である「幕藩体制」の国家デザインを成し遂げる。情報を集め、慎重に行動し、チャンスを待つタイプであった。偉大な凡人ではあったが、全体能力としての組織力を最優先に、長い目での準備工作を怠らなかった。地方分権により所領を安堵しながらも、外様と譜代の絶妙な権力バランスの下で、盤石な権力基盤を築いた。強固な信念と大義名分の下に、感性や感情には左右されず長い目で、冷静に歴史を読み歴史を客観視することができた。全体最適のためのスクラップ・アンド・ビルドは、理想と現実を統合するアップダウン型P2M(プログラム&プロジェクトマネジメント)指向の人物であったといえる。
 このように三者三様の資質と性格と生き様があり、それぞれのステージで能力をフルに発揮することで歴史的役割を果たし、中世から近世への扉が開かれた。その意味で、時代の転換というような大きな事業は、単独のフェーズでは実現不可能な、ライフサイクル的プログラムといえる。

組織のライフサイクルモデルとリーダー像
 組織にもライフサイクルモデルがある。それぞれのフェーズで求められるリーダー像を配すると下記のようになる。
組織のライフサイクルモデル

第1ステージ : 創業期
 ハイリスクハイリターンを求めてリスクテーキングするフェーズである。一匹狼的な創業者の下に情誼的一体感を有するメンバーが集い、ビジョンを共有しながら直観力と突破力を武器に、即断即決で自主的、能動的にゲリラ戦で戦う時期である。ここでのリーダー像は、ビジョナリストとしてリスクをとり、創造的に物事を考えられる企業家資質の、信長タイプといえる。
第2ステージ : 成長期
 新たな機会を得て急速に成長するフェーズである。さまざまな課題が頻発し、プランと現実が乖離する中、限られたリソースで最優先課題を絞り込み、現場主導で対応せざるを得ない。従って、短期的な視点での即戦力が求められる。ここでのリーダー像は、リアリストとして結果重視で行動し、突破力のある仕事人資質の、秀吉タイプといえる。
第3ステージ : 転換期
 創業期からの体制では限界を迎え、ターニングポイントを迎える。それまでの現場主導の組織運営から、部門ごとの役割を明確にして、階層的な管理組織に移行させる。システマティックな管理体制へ組織の再構築が必要になる。この転換には内部人材だけでは対応できず、外部からのプロフェッショナル人材も必要になる。裁量権を持ち柔軟でフラットなそれまでの現場部門と制御側も管理部門の間で軋轢を生み、人的なトラブルも多発する可能性もある。このフェーズではインテグレーターとして、冷静なバランス感覚でシステム指向のできる管理者資質の、家康タイプのリーダーが求められる。
第4ステージ : 成熟期
 転換期を切り抜けた組織は黄金期を迎える。高いブランド力を活かし、長期的視点にたって企業価値の最大化に向けて、「あるべき姿」のためのビジョン、戦略、戦術、ROIを統合したプログラムアプローチを行う。現場と管理のバランスをとりながら、あらゆるリソースを活かした総合力を発揮するフェーズである。このフェーズでも、長期スパンでの準備工作に長けた、プログラムマネジャーとしての家康タイプのリーダー像が求められる。
第5ステージ : 衰退期
 多くの成功体験を重ね安定した時期を経ると、組織は官僚的になり大企業病に陥る。部門間の障壁が高くなり、セクショナリズムが横行するようになる。顧客優先よりも内政優先となり、保守的でリスク回避の停滞した状況になる。そのまま消え去るか、リストラなどの痛みを経て再生、再建を遂げ、第二創業期を迎えられるかの瀬戸際である。このフェーズでは、新たなビジョンを掲げてぶれずに突き進む、改革者資質の信長タイプのリーダーが再び求められる。改革には抵抗する勢力も存在するので、多数の支持を得られる高潔な人格が求められる。

 上記のように、組織には5つのライフステージがあり、それぞれのフェーズで求められるリーダー像も異なる。従って、自分自身のスキルや経験と共に、本来持っている資質や性格も考慮し、自分は「信長vs.秀吉vs.家康」のどのタイプに近いか、どのタイプと組めるか、どのステージで最も活躍できるか、を知る必要がある。それが自分のポテンシャルを最も発揮できる方策といえるだろう。

(参照サイト)
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