PMプロの知恵コーナー
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サムライPM (011)
武道と士道の系譜 (その8) 【余話の続き】
~ロールモデル (roll models) vs. メンタルモデル (mental models)~

シンクリエイト 岩下 幸功 [プロフィール] :2月号

 前号の絵画における「outer worlds(外界) vs. inner worlds(内界)」のモデルを援用して、今号ではビジネスにおける「ロールモデル(roll models) vs.メンタルモデル(mental models)」について考察したいと思います。

 ロールモデル (roll model)とは、過去の実績などによって、他人の手本となる人物や事例のことです。その具体的な行動様式や実績を模倣又は学習することで、自分の成功や成長の糧とする対象のことです。「~のようになりたい!」という憧れは誰でも持つものであり、多くの人々は無意識のうちにロールモデルを選び、その影響を受けていると言われます。
 メンタルモデル (mental models)とは、マインドセットやパラダイムを含め、それぞれの人が抱く「世の中の人やものごとに関するイメージや仮説」のことです。経験を通じて観察した事実をもとに、私たちが持つ評価(価値観)のことで、物事を捉える際の判断の尺度となります。特に、自分にとって強いインパクトや何度も同じ体験や事実に触れた場合などは、このメンタルモデルが確信となり、物事を捉える際のフィルターの役割を果たします。

 ビジネスにおける「ロールモデル vs.メンタルモデル」を、絵画における「outer worlds vs. inner worlds」にマッピングすると、ロールモデルはouter worlds(外界)から選択されるouter models(オブジェクト)に、メンタルモデルはinner worlds(内界)の中でイメージ(想い)として生み出されたinner models(サブジェクト)に符合します。それらのモデルをベースに描かれ実践されるビジネスモデル(business models/events)が作品(works)に相当するわけです。また絵画におけるモチーフ(motif)というのは、「表現の動機・きっかけとなる想い」のことです。このモチーフに基づき「制作対象となる素材」がモデルとして選択されます。モチーフが漠然としていると、モデルも選択できない状態にあります。これと同様に、ビジネスや自己開発においても、モチーフ(motif)に相当する何らかの動機・きっかけとなる想いが必要になります。動機・きっかけに相当する何らかの意図(問題意識)を持つ必要があります。この意図に基づいてモデルを選び、観察したうえで、意識的に学ぶことが重要だといわれます。
 時代の変化と共にロールモデルは当然変わっていきます。ビジネスにおける外界としての市場を注意深く観察し、新たなロールモデルを選択し学習することで、新たなビジネスモデルを描くマーケティングセンスも重要です。そして新しいビジネスモデルには新しいメンタルモデルが必要になります。ビジネスモデルの変革はメンタルモデルの変革なしには実現できません。ロールモデルは外界から選択することができますが、それに対応するメンタルモデルは自らが意識して構築する必要があります。私たちは事実をありのまま受け入れるのではなく、独自の思考のフィルター(メンタルモデル)を通して捉えています。 つまり、考え方や意思決定は常にメンタルモデルに影響されていますので、メンタルモデルがいったん構築されると、意識して変えようとしない限り、私たちの思考はメンタルモデルに支配され続けます。自らのメンタルモデルとその影響力に注意を払い、うまくいかないときには外界にその原因を求めるのではなく、自らのメンタルモデルの修正を促す必要があるといわれます。(ピーターセンゲ「学習する組織」)
 われわれのビジネスも生活も世界も既に、アマゾン、フェースブック、YouTube、SNS、iPhone、グーグル、twitter、ライン、等々の情報通信技術(ICT)による、新しい仕組みに組み込まれています。このように環境が変わる中、個々人のロールモデルやメンタルモデルはどのように変わることが求められているか、という根本的なところから考える必要があるようです。そのためには、スキルやコンピテンシーよりももっと深いレベルの世界観、人生観、価値観、人間観、仕事観、労働観、キャリア観、といった歴史的、社会的、文化的、心理的な深層にまで立ち入る必要があるかもしれません。
 この「サムライPM」で、「サムライ、武士、武士道」について考察する意図も、歴史上のロールモデルやメンタルモデルを再考することで、ビジネスモデルの変化と個々人に求められる役割や能力の変化を学びなおす作業に他なりません。戦国時代の「鉄砲と武士道」が、現代における「ICTとPM」に符合するという訳です。中世から近世を切り開いた「鉄砲と武士道」と同様に、「ICTとPM」が次の時代への歴史的転換を主導するという仮説です。

(参考文献)
「学習する組織――システム思考で未来を創造する」ピーター M センゲ、2011
(参照サイト)
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