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「備えよ常に」

プラネット株式会社 シニアコンサルタント 中 憲治 [プロフィール] :12月号

 『3つの誓い名誉掛けて、ボーイスカウトおきて守り、人のために、備えよ常に』、中学生時代はボーイスカウトに入隊していた。そのころに覚えた歌はいまでも口ずさむことがある。ボーイスカウトのミッションである「備えよ常に (Be Prepared)」を歌にしたものである。うろ覚えではあるが、いざという時のために、人のために社会のために役立つように、常に心、身体、技を日頃から鍛えておくことを怠るなという意味の歌である。
 一見して、ボーイスカウトとプロジェクトマネジメントとは何ら関わりのないと思われがちだが、PMの10の知識エリアの一つであるリスク・マネジメントの要点を一言で表している素晴らしい言葉として、今では再認識している。
 リスク・マネジメントにおいては、リスクの発生をできるだけ少なくするために予防対策を怠りなく行うことが強調される風潮が根強い。先般発生した、御嶽山の水蒸気爆発により多くの死者を発生する事態においても、なぜ、それが予知できなかったのかという点に多くの関心が寄せられていた(あくまでもテレビ、新聞報道を見聞きしている中での判断であるが)。だが、「Be Prepared」という言葉は、これとは異なる。世の中に起きうるリスク事象はすべて予知できるとは限らない、予知できないことも多い、たとえ予知できたとしても、それに対する予防対策を準備できる時間がないこともあり得る。
 その時には、発生時対策が必要になる。発生時対策とは、リスク事象が発生して時にその影響をできるだけ低減する対策である。「Be Prepared」とは、リスク事象はいつ起きるかわからない、起きた時の状況(大きな影響を与えるものなのかそうでないのか)も分からない。そうであるなら出来るだけ多くの状況に対処できるための準備をしておきなさい。というものである。
 身近な事柄で説明すると、多くの人が経験したであろう引っ越しという個人プロジェクトがあるが、これを準備作業を丹念に行った事で比較的短時間でスムーズに終えることができた、という経験を持っている人がいるだろう、その反面、予想外に時間が掛かり苦労したとの経験を持っている人も多いだろう。 引っ越し業者にとっては一つの引っ越し作業を短時間で終えることが効率に繋がる。そのために引っ越し作業を効率的に行うため、各種の梱包機材を開発して使用している、また引っ越し作業の前に下見を行い、予めの計画を立てて実行に移ることが多い。しかし、先般、私の娘の引っ越しの時は単身パックというものであり、下見は一切行わなかった。その時、引っ越し業者のトラックを見ることができたが、その荷台には、様々な用具が積まれていた。作業を現場で指揮している人に質問してみると、「会社として様々な場面を想定して、幾つもの梱包機材を開発している。しかし、お客様の引っ越し荷物の状態(仕様)は全く個別であるため、それらの機材では対応できないことも多く発生する。私たちは、経験から学びこのようなものがあればいいなと思われる機材を考えて準備し、どのような事態にも対応できるように出来るだけ多くの機材をトラックに載せておくことのです。これらは自分たちで考えて作ったものです。」との返事があった。発生時対策は、“リスク事象の発生状況は予測できないので、あらゆる状況を予測して対策を準備しろ”というのが要諦であるが、これこそ現場感覚の「備えよ常に」であると感心した。

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