今月のひとこと
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スケジュール遅れ

オンライン編集長 三浦 進 [プロフィール] :12月号

 オンラインジャーナルは、毎月1日に月が変わると除夜の鐘が鳴るように更新されます。最近は予定通りに発行されています。執筆者全員がそれを承知しており、締切日を守って頂いていることと、Web担当者の努力のお陰であり、皆様に感謝する次第です。今月はPMAJジャーナ51号(PMシンポジウム2014特集)が2日に発行されます。原稿が順調に集まりご講演された方との確認も取れ予定通りに進めることが出来ました。通常ジャーナル発行日はこれよりも1週間ほど遅いのですが、年末でもあり早く配付したいとの要請があり早めております。皆様のご期待に添えるジャーナルが発行できることを願っております。

 今月は、プロジェクトスケジュールの遅れについて触れてみたいと思います。エンジ・建設系プロジェクトでは、通常契約上で遅延損害賠償金の支払い条項があり、納期厳守は事業としての損失を避けるためにも絶対条件となります。

 マクロ的に見ると、プロジェクト(エンジ・建設系工事)は、遅れる、予算オーバーする例が多い。少し古いデータであるが10年間の世銀国際案件900件で、工期が平均60%超過、コストが平均40%アップ、英国内の調査では、案件の32%が工期遅延、58%が予算超過との報告がある。10月末にPMI® Global Congress 2014にENAA/PMAJの代表として参加する機会を得たが、その中の発表“(CPX05) Planning and Controlling Megaprojects” (Frank R.Parth, MS.MSSSM, MBA,PMP/ CEO, Project Auditors LLC) でも、種々の事例を挙げOil/Gas のメガプロジェクト(ここでメガプロジェクトをOver US 1$ billion と定義)では78%が失敗プロジェクトである(Industrial Megaprojects, by E. W. Merrow, 2011)と説明されおり、計画通りに進まないプロジェクトは多いようである。また、この発表では、International Energy Agency の推定では2030年までにグローバルなエネルギー需要を賄うためにはUS $17 Trillionの設備投資が必要 (Jensen 2006) と見ており、これから益々複雑化し工期の長いプロジェクトを失敗させないため(損失を少なくする)、プロジェクトの計画とコントロールの技法をフェーズごとに契約形態を変えていく等、プロジェクト立ち上げ段階の事業計画を確かにする種々のモデルを紹介し、計画の重要性を説いていた。

 実施段階においてプロジェクトが遅れると、顧客側では、事業計画の遅れ(生産計画、販売計画、原料調達等)、融資返済スケジュールの変更(金利の増大)、事業機会損失、売買予約の違約金等、 また、工事期間費用が増大し損失が発生する。請負側では、工事費用の増大、遅延損害賠償金の支払い、受注計画の変更、事業機会損失、後続プロジェクトへの配員の遅れ、売上計上の遅れ→年度収支計画(決算)の変更、更にプロジェクトが遅延したこと自体で信用をも無くすことにもなる。ここで述べた、遅延損害賠償金は、契約前に取り決められるが、その額は例として、1週間の遅れにつき契約金額の0.2%、最大5%とか、1日の遅れにつき契約金額の0.1%、最大10%とか大きな金額となる。

 プロジェクトに遅れが生じる主な原因には、顧客の立ち上げ段階での基本計画の見直し、変更、政府許認可等がある。また、資金調達を含めて基本計画が固まり順調にスタート出来たプロジェクトでは、設計、顧客の承認、機器納入、工事等の遅れ、ミスや不具合、無理なスケジュールの設定、不可抗力などが挙げられる。確かにプロジェクトによっては顧客の立ち上げ段階で決めていた原料供給条件(性状・時期等)、用役(電気・水・N2・蒸気・排水、排油、それぞれ供給時期等)、取り合いの位置等を含めた基本的な条件、地質条件の変更等々はプロジェクトに大きな影響を与え、請負側が詳細設計に入れなくなり、最悪ではプロジェクトを一時中断せざるを得なくなる。プロジェクトが遅れる、予算オーバーする、失敗する統計的な先の数値の多くは、請負側にいた者の経験からは、初期段階の計画に起因する変更によるものが多いと考えられる。

 契約条項に従ってプロジェクトを進めて行くが、遅れの主要因にある顧客からの承認取り付け遅れはボディーブロー的にプロジェクトの遂行に影響を与える。契約工期は実績をも考慮し請負側内部でも合意され決定されたものであるが、受注競争から楽なスケジュールとはなっていない。チャレンジングなスケジュールとなっていることも多い。

 プラント建設プロジェクトのスケジュールを簡単に説明すると次の通りである。
設計・調達・工事・試運転と大きなフェーズで進行して行くが、プロジェクトに共通してLLI (Long Lead Item)と呼ばれる長納期品がある(大型圧縮機、高圧反応器等)。全体工期が32ヶ月と仮定し、受注して1~3ヶ月以内に発注が必要なもの(その為に契約前から詳細に詰め早期発注を可能にしていることが多い)。クリティカルパス上にあり、LLIが建設現場に搬入され据え付けられ、その後の架台→配管取り付け→計装→電気→検査→保温工事→試運転につながる。また、LLIの据え付けには、当然その基礎・架台工事が完了している必要があり、その為にスケジュールを遡ると、基礎完成→架台製作→架台発注→架台・基礎の設計へとクリティカルパスはつながる。基礎・架台を設計するためには、機器の詳細図面が必要となる。通常機器を発注してからメーカ図面が入手できるまでに1ヶ月はかかる。LLIを含めて多くの資材機材を発注して行かなければならない。受注者が勝手に作業を進めることは出来なく、一般的に各メーカの技術比較表を顧客に提出し承認を得る。3社から見積りを徴収しても3社が揃い評価が完了するまで書類は出せない。提出した承認伺いも顧客からの質問攻めにあう、承認されない場合もある。スケジュール遅れの要因となる。
 契約条項に従って反論・技術説明を行うが、時間は過ぎて行く。その内にスケジュールは遅れて行くとの展開となる。受注者側のミスもあるが、客先の承認遅れは、正確に記録として提出し、これらを積み重ねて遅延損害賠償金の支払いを免れるようにする。この他に、客先からの変更要求もあるが、変更マネジメント要領に従いシステマチックに文書で対応していく。追加・変更・クレームのレターには必ずスケジュールへの影響を明記しアッピールしておく。この様に遂行し、通常EOT (Extension of Time)と言うが、必要に応じ工期が延びたとのクレームを顧客側に提出する準備を怠らない。

 プロジェクトがスタートすると、先の先行発注品LLIの手配、プロジェクト詳細スケジュール、プログレス測定要領書等、各種要領書の作成等々、プロジェクトを軌道に乗せるために客先承認を取得する図書も多く、ここで遅れを生じさせないことが第一の課題であり、その為にはFEL (Front End Loading:初期段階でのリソースの投入) が必要となる。

以上

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