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「日本再生“アベノミクス”を成功させるために何が必要か」 (8)
脳内改革が求められている (8)

東京P2M研究会 渡辺 貢成: 11月号

A. 先月はアベノミクスの今後あり方を正しく認識するためには、『過去の施策の理解』と『日本の現状と世界情勢とのかい離を正しく認識』する必要があること議論した。その問題点を列記した。
  戦後の高度成長に向けた官の施策の功罪:過去と現在
高度成長に貢献したインフラ類は官による護送船団方式で、経営資源を集中的に投下し、輝かしい成果を生んだことが功である。経済成長が低下した現在でも官の支配下にあり、デフレで日本中コスト削減競争の渦中にありながら、官運営の施設はコスト削減努力をしないため、コスト高のまま存続し、民間企業の競争力を低下させている。この問題をこの11月号で議論する。
  日本企業の20世紀型ビジネスモデルのグローバリゼーション下における競争力:
1990年から2010年までのビジネス展開で、日本はグローバリゼーションの価値を見誤り、自動車産業を除く量産ビジネスでは明らかに後れを取った。この対策として「現在成功している企業の競争力の特徴を調べること」、それ以外のビジネスに関してはこれから提案する21世紀型電子・異業種融合ビジネスモデルに精力を向ける必要があることを議論し、10月号で提示した。
  今後の21世紀型社会システムの方向性とは何かを議論した:
新しい方向性としてBタイプ21世紀型電子・コミュニティ式社会モデルの提案を12月号以降に提示することにした。

  日本国の官僚機構は長年『国家は過ちを犯さない』という前提で、官は過去に発生した失敗事例や事故に関する検討も公にしていない。米国では失敗や過ちの検討資料は過去の大切な資産という発想で、その後の発展に貢献している。残念ながら過去の資料がないために同じ過ちを繰り返し、大きな機会を逃している。今回はこの問題に少しだけ踏み込んでみる。踏み込まないとアベノミクスが成功しないからである。
今月は新しく参加したZさんに新しい視点で議論を進めてもらいたい。
Z. 初めて会議に参加しましたZです。
日本は戦後の困難な状況下から、素早く立ち直り、1990年には製造業世界一になりました。その後日本は将来戦略を展開できずに20年間を経過しています。国内(新聞紙上)で行われている議論は視点が狭すぎるという問題があります。ここで思い切って日本と日本人の問題点を徹底して検証してみます。
  (1) この20年間の日本の政策決定者(政・官・産・学)の問題点
 第一の問題は『20年の空白は目先の国内問題を最優先し、将来の日本を考え、反対勢力(既得権益者)を押し切ってでも、グローバル社会での競争力をもつという発想が欠如』していることです。
 二番目は『弱いものを保護せよという発想』です。弱いものを保護して、結果として弱者がますます弱者になる結論が見えていながら、補助政策をやめない点にあります。逆説的にいいますと、弱者救済を建前として、国民から税金を徴収し、弱者救済税金という既得権を政策としています。結果は建前とは異なり、補助によって努力をしない弱者は益々弱体化され、既得権を獲得した官はより強化されるという功妙な官の論理(本音)があります。具体例は日本農業を大型農地化することなく、効率の悪い小規模農業だけを採用し、多くの補助金を農家に活用させ国際競争力のない農業政策を進めてきました。その結果は農民の高齢化で農業は壊滅状態です。しかし、JAは独占的に農家が必要とするものを高い値段で販売し、作物は安い値段で買い付けをおこない、その収益で農林中金という銀行をつくり、実質的には金融・保険業者に転身しています。農業は会社に農政を任せること停止させなければなりません。
 三番目の主張は『時代は駆け足で変わっているものだ』という点です。
1990年に製造業で世界一の地位を獲得しました。日本人はこの成功体験を日本の特徴と考え『モノづくり日本:技術の向上』旗印に、技術の向上に特化してきました。そして愚かにも「モノづくり大学」として匠の技を磨く大学をつくりました。この方針は戦後の困難な時期の発想と同じものです。グローバリゼーションという時代変化にどのように対処するかが経営者の最大の役割だったのですが、実行されませんでした。
 四番目の問題として『日本のエリートの堕落』を挙げることができます。保身に走って20年間自らの意志で経営決断をする代わりに、従来の稟議制度を固執し、不具合の責任は全員でとるという習慣を残したことです。日本人は海に囲まれ、外国の勢力に踏みにじられた経験がないために『地政学からくる戦略開発』するという実体験がありません。周りの日本人と同じことをしていれば誰からも非難されないという環境をつくってきました。
 五番目の問題は教育の在り方です。よくよく考えてみました。『世界的に見た大学の貧弱さ』です。世界の留学生が求める大学の順位をみれば結論が出そうです。世俗的に眺めてみますと、『日本家庭の最大願望は今でも東京大学合格』です。日本国内では東大出が幅を利かせているからです。まず、自分は何をしたいか、という発想を持っていません。親も「知名度の高い企業に入社するために、知名度の高い大学への入学を希望する。国民全員が同一方向の発想しかしていません。これに応えるかのように文部省の教育基本は偏差値の高い子供の育成です。この結果日本のエリートは正解のある勉強が好きです。残念なことに原発事故発生の緊急事態に東大出で固めている東電の責任者の最初の発言は『想定外の事故です』と発言しました。この緊急時に考えることは『原発事故の即時対処』ではないでしょうか。この責任回避の発想が20年間の空白と関連します。これが日本のトップエリートのメンタリティーです。グローバリゼーションに対応できる戦略を政府も官もまた多くの大企業も対応を考えていませんでした。その結果企業の業績が悪化しましたが、経営者が失格していません。米国では企業の業績が悪くなると、経営者の首が切られます。従業員は業績悪化の責任をとれる立場にないからです。しかし、日本では逆で、この緊急事態に社長が問題解決の任を放棄することはできないと、従業員の首を切ってきました。同時に経費節減を理由に最大の経営資源である正社員を首にし、派遣社員に切り替えました。これが偏差値教育の成果です。
 アベノミクスはまず、これらの基本的な諸問題を解決しなければなりません。そこで私は従来の発想から離れ、“ゼロベース発想”で生み出される提案をおこないます。
  (2) 世界経済は何によって動かされているかという問題です
  1 ) モノの見方の優先順位
通常これらの課題を見つけるためには、二つの方法があります。日本経済という視点から世界経済を見るケースと世界経済の動きを捉え将来予測を行ったうえで、日本経済を眺めて、方法を考える方式です。日本は常に前者を採用してきました。おいしいところを見つけ、危険なところを避けるという手法です。他方は世界経済がどのような方向で動いているか、この流れに乗り、どのように日本経済をかじ取りをすると、国際競争力が向上するか考え、世界経済の渦中で自社をコントロールする方式があり、この中にリスクを回避も含まれます。前者は流れに遅れない対策的発想です。後者は流れに乗り、大儲けをしてやろうという発想です。マラソンでいえば前者はトップ集団最後尾で頑張っている姿です。後者はトップ集団で先頭争いの駆け引きをしている人々です。お分かりのように、先頭集団は機会を見つけてスパートします。この時に前者は第二集団に甘んじることになります。これが第一のモノの見方です。

第二のモノの見方は何を優先的に見ていくかというやり方です。
・ 資本主義ですから、資本が主役で第一です。グローバル社会における国際金融資本の動きをみることが第一です。2番目が需要です。3番目が経営資源(人、モノ、金、情報、知的資源、基盤資源)で、4番目がマネジメント(感性、環境理解、着眼、戦略・戦術、モティベーション、リーダーシップ、統合処理、PDCA、例外管理)です。5番目が物流です。6番目が技術、7番目が施設・製造設備です。
・ 順位決定の理由:融通性の高いものを捉えてそこから眺めることです
    資本はどの分野へも活用でき、農業からサービス業に変えることもできます。グローバル社会においては、国際金融資本の動きを明確に捉えておくのが最重要事項です。国際金融資本は、米国でドルを発行する権力を持っているからです。
    需要:多くの人々は逆の考え方をしています。先にモノをつくります。それは自分の経験を能力と勘違いしているからです。あなたが会社で10年間してきた経験は世界中に数百万の人がいます。あなたの経験を頼りにした製品で、グローバル市場で勝てると思いますか。若し、あなたの経験が『世の中が欲しがっているものを摘出できる能力を生み出しているなら、誰もやっていない何か、社会が潜在的に求めているものが何かを見つけることができ、あなたは成功するでしょう。その場合あなたがそれ自身を創りだす技術や能力を持つ必要はありません。資金を集めて誰かにやらせばよいわけです。言葉を替えると需要を作り出す能力が求められています。日本家電の敗北は「モノづくり:技術日本」です。日本の家電産業は需要が低下すると、ある機能を追加して、値段据え置きという戦術を使っていました。消費者にとって苦々しいことは、買い替えると余分な機能が追加された商品しかなく、マニュアルを読んでも簡単に使えません。知りすぎた人がつくるマニュアルは、初心者にとって必要な一番やさしいことが書いてありません。パソコンを止める方法をしっていますか、奇想天外な発想です。『スタート』なのです。ジョークはさておき、日本家電産業は新しい機能を付けて、価格据え置きという戦術をとってきました。サムスンはこの『からくり』を見破り、日本仕様から不要機能を削除し、当該国の消費者のニーズを加味した製品を安価提供したことで、日本製品は絶滅的になりました。発想の転換が求められています。
    経営資源:経営資源の最大要素は人です。金ではありません。人間は育てるのに時間がかかりますが、育てれば金のなる木です。高偏差値エリート経営者は二つの欠陥を持っています。米国に対する決定的な劣等感です。同時に日本人に対する決定的な優越感です。彼らが率いる企業の欠点はイノベーションができないことです。これは米国の大会社も同じです。米国の大企業経営者は欲しいものをイノベーションではなく、グローバル社会から有能な人材を採用するか、ベンチャーからイノベーションの権利を買うか、M&Aで企業力強化を図ります。日本ではどうでしょうか。高偏差値経営者は自分で考え出す能力不足ですからすべてが米国を頼りにしています。「アメリカ出羽の守:アメリカではこのような経営をしています」と経営コンサルタントからの情報を天の声として稟議を通し、実行させます。それを導入することで経営がよくなることはありません。自社の組織構成、組織能力が米国並みになっていないと真似をしても成果を上げることはできません。もし、日本の企業が新しい企画をプロジェクト組織で実行する発想があれば別です。階層組織はルーチン化した仕事を効率よく実施するための組織です。ルーチン化していない業務は試行錯誤的なアプローチが求められ階層組織で実行することは無理だからです。階層組織で実施する場合、無知な上司の干渉でとん挫しやすいからです。階層組織の副次的欠陥は成功させても上司に花を持たせるシステムで、失敗した場合だけ実行者が責任をとるという名誉ある権限が担当者に与えられています。プロジェクト組織ではマネジャーに権限委託しますから、困難を乗り切ることができます。結局大企業が求めているのは失敗しないイノベーションです。基本的に金を使わない、評価しない組織で成功をさせることは困難です。また優秀な人材は融通性に富んでいます。上司が怖がる難しい問題は相談しないで解決します。当然上司からにらまれ出世できません。プロジェクト組織で困難な問題に対処させる企業が増えることを望んでいます。
    マネジメント:日本人がマネジメントを管理と訳したことで、ドラッカーのいうマネジメントが日本的に矮小化され、組織内では人を管理することに変わってしまったようです。しかし経営者やプロジェクトマネジャーが実施するべきマネジメントには『環境理解、着眼、戦略・戦術、モティベーション、リーダーシップ、統合処理、PDCA、例外管理、さいごに最も重要な感性があります。マネジメントの基本は総合能力であって、大局観という能力です。このことを理解しましょう。
    物流(ロジスティックス):ビジネスが小さい時は重要視されないが、大きく広がると重要な役割を発揮するのがロジスティックスです。昔の話でいえば信長が自国の周辺で戦っているときは柴田勝家的勇猛果敢な武士が望まれました。戦線が拡大されると、武器、食料の調達、供給能力が戦勝に貢献します。秀吉が活躍する場が生まれ、本能寺の変以降、秀吉はこの能力で天下を手中に収めました。グローバリゼーションではロジスティックスの勝者が成功します。ロジスティックスの中で最も重要なのが情報の入手とそれへの素早い対応です。日本の家電メーカーは日本的発想から抜け出ることができませんでした。同様にゼネコンも国内での輝かしい実績を海外で発揮できないのはロジスティックスの発想がないからです。
    施設・製造設備:高度成長期時代は重要であった施設・製造設備は、成熟社会化した先進国にとってお荷物となってきました。これらは決められた用途にしか使えません。インフラ設備にしても融通性のある発想のもとにつくられることが大切です。
施設活用の事例を話します。地域には立派な公園があります、高名な専門家に設計・建設させます。珍しいから近県からも高名な公園に見学に来ます。しかし2年目には入園者がへり、3年目にはゼロ近くに下がります。兵庫県のさる公園は、公園の利用の仕方を、ボランティア団体に任せました。ボランティア団体は公園の利用法としていろいろなイベントを計画します。2001年に入場者42万人の入場者がありました。2003年にはイベントが増え入場者は54万人、2009年には74万人と増加しています。参加者が毎回創意工夫していることで参加者が増えています。ここでのキーワードは与えられた企画より自ら必要と思うモノを企画・製作することで参加者の感動を呼んでいるからです。
 国や県が企画した多くの公共施設が利用されないのはこの原理です。その上まだ難しい問題があります。施設を運用するには職員が必要です。国は自治体に補助金を提供する代わりに、天下り人材を派遣します。補助金は歴代の天下り費用でなくなります。施設が使われなくなっても人件費、保守費に莫大な費用が掛かっています。特に日本は景気対策で国債を発行します。米国では国債を民間組織が活用し景気回復策として成功していますが、日本では長年、国債の発行は民間銀行に買い取らせます。日銀が国債を民間銀行から買い取りますと、民間銀行に金があまり、民間の投資に貢献します。残念ながら日銀は国債を買わない方針を採用しているため、景気回復に貢献しません。しかし国債を民間銀行に買い取らせた金が手元にありますので、官が関与する施設構築に投資します。先進国では必要なインフラは充実しており、人口減少で過剰になっています。そこで、目立たないように細かく分けて利用価値の低い農道、海の干拓で農地をつくり、農民に買い取らせ、すぐ減反政策を実施し、この補償に活用するという政策をとってきました。このために日本国は世界で一番国有財産が多いという国民の知らない結果が出ています。国有財産は遊休農地や施設として経済的価値の少ないものに多く使ってきました。できるだけ不動産投資は避けるべきです。興味のある方は高橋洋一(元財務省出)「日本は世界一の政府資産大国」をお読みください。

  2 ) 国際金融資本の活動とグローバリゼーションの動向
調査検討優先順位の高い国際金融資本の動向を調べてみます。この部分は既に説明済みですが、重要なので、再度説明します。
1990年頃より先進国市場の成長率が低下し始めました。国際金融資本にとって先進国はもはや投資するに値しない市場となりました。そこで新興国に大幅な投資をすることを考えました。従来であれば実経済(貿易で流通しているドルの総額)の中で収益を投資に回します。しかし、新興国市場は途方もなく巨大なため、需要投資金額を賄えません。そこで頭のよい国際金融関係者はデリバティブと称する新しい金融投資証券を開発しました。実投資ドルに対し100倍のレバレッジを付けた新商品を開発し、売り出しました。金本位制の時代にはできなかった思い切った政策をとりました。どうすれば100倍のドルが生み出せるかというと、FRBがドルを印刷すれば米国の信用で世界中がこの金を使えるようになったわけです。このため大量のドルが新興国に投資されました。彼らは同時に技術、人材付きで投資をおこなったため、特に中国に巨額の資金と技術が投下されました。大陸と陸続きの韓国は地政学的に戦略を実施することにたけています。彼らはこの投資が急速な新市場開発につながることを察知し、グローバリゼーション戦略を策定し、実行してきました。この説明は2013年度のオンラインで説明していますが、日本国の戦略の相違を理解するために再度紹介します。

韓国サムスンは下記に示す戦略企画と実践的成果を挙げました。
1990~1998 日本製造業へのキャッチアップ時期に3つのイノベーションをおこないました。
    組織と人材のイノベーション
・ 経営のデジタル化、グローバル人材開発と新興国への派遣
・ 韓流と称する文化の輸出
    設計・製造プロセスのイノベーション
設計変更、製造変更を素早く実施できる体制の確立(日本商品のリバースエンジニアリングによる新製品の市場への提供の速さを目指す)
    製品と人材のイノベーション
個人主義的であった韓国人を集団主義的変身への努力

    2000~2010 日本家電製品を新興国から追放
         当該国の消費者のニーズを追加した、安値商品の提供
2010以降はスマートフォンでアップルとの競争
現在は中国産スマートフォンに押され気味です
  (3) グローバリゼーションの特徴と最大成功者韓国の戦略の対比
●はグローバリゼーションの特徴、韓:は韓国の対応内容
    世界経済の融合と連携深化
      貿易の発展
韓:新興国に人材を派遣、相手国の文化を吸収し、消費者のニーズの開発
      直接投資を含む資本の国際的流動化の増加
韓:生産の現地化で直接投資を実行、その収益の現地再投資化
      国際金融システムの発達(国際金融資本の活躍とデリバティブ方式開発)
      多国籍企業による世界経済の支配割合の高まり
韓:製造の現地化と利益の現地再投資で当該国の発展に寄与
      世界最適な調達・販売を行うサプライチェインマネジメントの発達
航空と海運の航路増大による物流ネットワークの発達
韓:仁川空港のハブ化;各国(含む日本)のローカル空港のためのハブ空港化、
     釜山港のハブ化(日本の港湾設備の総量と同じ規模)を含む
     グローバル物流SCM(サプライチェインマネジメント)への投資
      地球規模的に適用される標準、基準などの増加
韓:国際標準化の採用
    異文化交流の機会増加
      増大する国際的な文化の交換。文化の同化、融合、欧米化、アメリカ化
韓:韓国文化の発信(韓流への努力)
      増加する海外旅行、観光
韓:文化の発信で韓国への観光客の増加
    政治体制の一元化
      世界貿易機関などの組織への国際的取り決めを通じて、国境の壁の低減化
韓:46か国とのFTA締結戦略
      国民国家の枠組みにとらわれないNGOなどの組織拡大
WTO,WIPO,IMFなどの国際的組織の役割の増加
韓:国連事務総長、世界銀行総裁という地位確保

      韓国サムスン電子の実績
1993年新経営宣言、1998年アジア通貨危機で外資を導入し、経営改革に成功し、韓国製造業家電系が日本家電を新興国から締め出す
1993年年商2,500億円
2004年1兆7,000億円、
2013年18兆7,000億円

  (4) グローバリゼーションに対し日本は何をしてきたか?
  1 ) グローバルビジネス経験者と国内ビジネス経験者の相違(民間ビジネスの場合)
 グローバリゼーションの特徴と韓国の対応で示した項目に日本が実施してきた内容をあてはめてみてください。日本では商社、エンジニアリング会社が韓国以前にグローバル展開を実施しており、現在もグローバル競争力が高く活躍しています。
 私は日本国内の仕事と、グローバルの仕事を経験しましたが、ビジネスの発想が異なりました。
 国内ビジネスとグローバルビジネスの相違を対比してみます。
    契約に対する概念がことなる。
      グローバル:契約書が最優先し、発注者、受注者は基本的に対等です
      国内:契約書があいまい。仕様を明確にせず、少しの追加はサービスと言われる
ここで海外プロジェクトではサービスは有償。国内でいうサービスは無償
      グローバル:仕様書の不備は受注者のロイヤーの餌食、巨額の追加請求
      グローバルビジネス:Simple is the best.
      国内ビジネス:Better is preferable.
現実はシステムが複雑になりメンテナンスに金がかかる。
    標準化の概念
グローバル:社会や業界が決めた標準化した仕様を重視する。
国内:標準化に対する抵抗がある。細部の改良が生きがい。
        標準以上のものを求めるため、残業が多く、大型ビジネスには向いていない
  2 ) 政府管掌インフラ系ビジネスのグローバル進出への問題点
    1. 官が抑えている領域は「日本国の土地に関連する権益」を保持
      交通:鉄道・道路・空港・港湾を含む物流(国土交通省関連)
      通信:電信・電話・SNS(総務省関連)
      エネルギー:電力・ガス・再生可能エネルギー(経産省関連)
      農業・林業・水産業(農水省関連)
      教育(文部科学省関連)
      これらの機能は国の基幹的機能で、明治時代に先進国になるため優先順位の高いものを、国の費用で発展させてきたものです。明治時代から官の領域であり、第二次大戦後の復旧活動の優先順位の高さも上記領域でした。戦後の日本再生はこの領域への優先的投資によってなされ、戦後の急速な成長と、1990年時点での製造業の世界制覇に貢献しました。

これらの産業は国の基幹産業で、国だけでなく民間企業の競争力にも大きな影響をあたえますが、残念ながら官による長年の独占的運営のため、日本国の国際競争力の強化という発想を持たず、経費削減の努力を怠り、コスト高で日本経済の弱体化につながっています。しかし、アベノミクスはこの弊害を解消する企画として国家戦略特別区での改革計画を提案しています。
2014.7月に出版された「徹底分析アベノミクス成果と課題」で、国家戦略特別区担当執筆者竹中平蔵教授によりますと、従来は規制する際費用対効果という検証を行うべきであったが、これを軽視していた。これからは「PDCAサイクルを確立する(諮問会議で効果をレビューする)」方針であると、意志の高さを示している。
本論文では彼らに期待し、成功を待つ前に、問題点を整理しました。
    2. 現状の問題点
      建設・運用コストが高い
国が管理しているインフラの領域は常に国土を守るという領域のため、官の独占的支配が継続されており、これらの運用コストが世界水準より高いという問題がある。しかし、官が占有している領域のため、競合社不在のため、コスト高で、民間の国際競争力への負の影響が大きい。電力、JR等の料金はほぼ2倍である。かかった経費に既定の利益を乗せるために高くなる。さらに下請けの株式会社を固定化しているため、自らの所得を減らす経営者は存在しないので、日本の競争力回復は既得権益者への圧力以外対応しようがない。本来は国に監査機関があるべきであるが、監査機関が身内意識で既得権益者になっている。
      国の方針が優先され、利用者の利便性は後回しにされる。
日本に利便性の高いハブ空港が存在しない。ローカル空港は成田空港の利便性の悪さのため韓国経由で海外へ出る。空港が不便なところにある。海外の旅行客を呼びたいなら成田→東京→羽田はリニアにするべきだ。観光客が2倍になる
      グローバルロジスティックスという発想がない
ハブ港湾がないこと。通関手続きに時間がかかること。シンガポールで出来ることは日本でもできるはずである。お上が偉いという発想から脱皮できないと、日本は危ない。
      技術に優れたゼネコンが海外ビジネスで成功しない。親方日の丸的体質から抜け出せないでいる。
      グローバル展開を図るならば現在の省庁別縦割り政策では時代からの遅れをとりもどすことができない。

図1は関係官庁の大まかな業務領域とその中身です。問題点を指摘します。
        各省が独立した予算で独立した業務遂行をしている。言葉を替えると官僚のための官僚組織になっている。官は困っていないが、民は困っている。
        時代性のあるテーマは合同して実行するべきであるが、予算の関係で実施できないでいる。それは官が困らないからで、国民から見たら図2のようにプロジェクトで実施すれば、各省共同プロジェクトが編成され、内容のある成果が期待できる。
        図2は総合的なプログラムマネジメント体制の組織を示しました。

関係官庁の大まかな業務領域とその中身

総合的なプログラムマネジメント体制の組織

以上

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