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「日本再生“アベノミクス”を成功させるために何が必要か」 (7)
脳内改革が求められている (7)

東京P2M研究会 渡辺 貢成: 10月号

A. 先月はアベノミクス20世紀型ビジネスモデルの説明があった。Eさんの提案に対し、Dさんからは21世紀型ビジネスモデルはAタイプとBタイプという話があった。今月はAタイプビジネスモデルについてEさんから話をしてもらいたい。
E. Ⅲ.21世紀型のモデルはインターネットを使った異業種交流をベースとしたビジネスモデルで、Aタイプビジネスモデルと呼んでいます。
  (1) 20世紀を顧みると21世紀に実行するべきことが見えてくる
ここで、私が考える21世紀ビジネスの基本を話します。一つは20世紀時代にするべきことが実行されないで今日に至っている課題があります。

  1 ) 戦後の飛躍に向けた戦略の功罪
日本経済が動き始めたのが朝鮮動乱からです。戦争という需要が日本製造業を活性化させ、成長に必要な資金を戦争から得ることができました。この資金を効果的に活用するために金融護送船団方式が策定され、基本的な戦略としてインフラ整備と新規成長分野に配分し効果を上げました。しかし、護送船団方式を維持するためには自由党の継続政権確保が求められ、資金の効果的な活用という功の部分と、政権維持のための選挙票を集める仕組みとして交付金が使われたという罪の部分がありました。
この功の部分は日本の製造業を世界一に押し上げました。他方罪の部分としての選挙票をかき集めるための組織が既得権益者という形で残されてきました、
  2 ) グローバリゼーションに対する無関心な既得権益システム
この既得権益システムは日本の土地に関連するビジネスを独占的に実施できる構造であり、競争相手のいないシステムとして内向的な発想を現在も維持しています。
それらの事例をあげます。
    鉄道・航空・道路
    港湾施設
    電力、エネルギー
    農業
    教育
    これらの産業は国の基幹産業で、国だけでなく民間企業の競争力にも大きな影響をあたえますが、残念ながら既得権益者は国際競争力低下という発想は持たなかったため、コスト高が日本経済の弱体化に貢献しています。しかし、アベノミクスはこの弊害を解消する企画として国家戦略特別区での改革計画を提案しています。
2014.7月に出版された「徹底分析アベノミクス成果と課題」で、国家戦略特別区担当執筆者竹中平蔵教授によりますと、従来は規制する際費用対効果という検証を行うべきであったが、これを軽視していた。これからは「PDCAサイクルを確立する(諮問会議で効果をレビューする)」方針であると、意志の高さを示している。本論文では今のところ彼らに期待し、成功を待つコトにしました。

  3 ) ミッシングリンク:デジタル大国ニッポン再生とデジタルエコシステムへの対応
既得権益システムではありませんが、現在の日本の官庁は極度の縦割り管轄で、産業構造が所轄官庁別に発展しています。そのため昔ながらの業務領域の中でしか合理化活動ができないというハンデがあり、グローバリゼーションに乗り遅れています。この部分の遅れを取り戻すのがミッシングリンクです。

グローバリゼーションはインターネットという新しい武器のお蔭で実現しました。その後情報通信産業の発達で複数のプレーヤーが協調と競争の中で市場を創る生態系、デジタルエコシステムという世界に変わりました。しかし、日本はこのデジタルエコシステムにうまく対応できていません。

このデジタルエコシステムが機能するには5つのミッシングリンクがあります。
    「機器」と「サービス」とをつなぐ環
    「共有者」と「利用者」をつなぐ環
    「情報通信産業」と「他産業」をつなぐ環
    「国内」と「海外」をつなぐ環
    「官」と「民」とをつなぐ環
    この部分の遅れが今日の日本の弱点です。これをつなぐのが21世紀型電子・異業種融合的空間ビジネスモデルです。しかし、このデジタルエコシステム活用に際し、各省庁の連携のない規制緩和がなければ成功はおぼつかないでしょう。

  (2) Ⅲ.21世紀型ビジネスモデル
今回はAタイプビジネスモデルを説明します。
  1 ) Aタイプ:『21世紀型電子・異業種融合的空間ビジネスモデル』とは
プラットフォーム型のビジネスモデルです。異業種が集まって一つの優れたプラットフォーム上で新しいエコシステムを構築するインベーション型です。このビジネスモデルはP2Mが得意とする『プログラム統合マネジメント』によってシステムが構築されます。20世紀型ビジネスモデルの多くは「モノ」の製作に関するモデルですが、21世紀型の空間は「コトづくり」にかかわる空間だと思ってください。ここで「コト」は「モノ」の上位概念と考えてください。「コトづくり」は従来にない価値を求め歩くイノベーションモデルです。大型案件はすぐに出てきませんが、小さな案件を日本国内で広げ、次いでグローバル領域に広げる発想が効果的です。

  2 ) Aタイプのビジネスモデルの事例を示す
グローバリゼーション以前は地理的空間が狭く、経済の成長が国内に限定され、過剰製品の輸出は消費国の労働市場を狭めることで制限されました。電子的空間が活用できると、地域的な制限なしに情報の交換が容易となり、更に異業種間で握手の機会が増えるようなプラットフォーム(PF)をつくり、PFが効果的に機能すると、新しいビジネスモデル(イノベーション)が生まれます。グローバリゼーションの2次的展開です。このビジネスが展開できる空間の説明をします。
 A-1 「機器とサービス」の融合BM(ビジネスモデル)
ケース1:製造業は製品を提供すると、顧客との関係性が薄くなります。しかし製品の運用・保守までを含めますと、新しいサービスが発生します。機器のLCC(Life Cycle Costing)は製品コストの3倍程度であるため、機器とサービスの融合はLCCが下がり製品購入者にとって大きなプラスとなります。
    A.1 分解・再整理されるビジネスモデル
    図A.1中、真ん中の図は海外のディーラーにビッグデータを利用して、海外に納めた建設機器のメンテナンス材料をタイミング良く提供するというサービス活動で、初期販売の競争力を高めています。

ケース2:国内事例では家電製品の高度化に伴い、老人は製品を購入してもすぐ使えるところまで製品をセットしてくれる近所の電気屋が必要でした。そのため老人は昔からのよしみで値段は高いが近所の電気屋から購入してきました。しかし、街の電気屋は経営的に厳しい状況でした。ところが最近街の電器屋さんのために、製品を問屋からでなく、量販店から購入し、顧客に量販店価格で販売し、なおかつ収益がでる仕組みをつくった全国的な組合ができました。そのため街の電気屋が繁盛し始めました。量販店のメリットは何か。これは製品運用のサービスを電気屋に任せることで、これまで自社の顧客でなかった層への販売ができ、同時に年寄り等の弱者の要望を吸い上げることで、メーカーへ弱者でも使いやすい要望をメーカーに対し求めるという更に強い立場を確保できるようになりました。結果として無駄な機能の削減とう点で製品の価値向上ができました。
この関係を海外の消費者との情報交流に使うと、グローバル販売がより確実になるという発想が生まれると思います。

A-2 「供給者と利用者の協働アイデア」の融合
  1 ) 日本の消費者の洗練度と日本人のイノベーション力のレベルは高い。
世界経済フォーラムが毎年発表する情報通信分野の国際競争力ランキングで、2012年度の日本の競争力は世界18位とランクは低いのですが、50を超える個別評価で「買い手の洗練度」は世界一位、イノベーション能力も第一位です。
  ではなぜデジタル機器が中国、韓国に負けているのかという疑問があります。供給者と利用者の連携ができていないという問題です。顧客のニーズだけでなく、顧客からのアイデアを得ることを考えていなかったようです。(長年のメーカー主導の習慣があった)
  インターネットビジネスには3つの特徴があります。
    グローバルに翼を広げるクラウドサービスの普及に伴う「所有から利用へ」という流れがあります。コンピュータ資源を利用する場合、これまでは機器を購入し、システムを構築し、自分で運用する必要がありました。しかし、クラウドサービスでは購入・構築・運用という手順をクラウドサービス事業者に委ね、コンピュータ資源をサービスとして利用することが可能となりました。
    インターネット第二の特徴はモノづくりとサービスづくりが一体化し「モノへのサービス化」が生まれています。例えば自動車という機器をハードとしてとらえるのではなく、人が移動するためのサービスを提供していると考える。自宅には自家用車がなく、近所のレンタカーの駐車場から分単位の利用で、料金を払うと、所有するより安いというメリットがあります。
    インターネットビジネスの第三の特徴は、プロの制作した情報のみがコンテンツではなく。不特定多数の生み出す様々な情報も広い意味でのコンテンツとなる「コンテンツ、-情報」の特徴を活用する時代の到着といえます。
    デジタルエコシステムでは従来の供給者の理屈ではなく、多数のプレーヤーが相互に連携し、このやり取りの中でアイデアが融合熟成されるという特徴を活用することに慣れるべきでしょう。

  2 ) 世代差を活用した不動産デベローパの出現
図A.2 は年代別時差不動産開発の事例です。
    A.2 不動産デベローパ年代別時差開発
  従来の住宅開発は子育て4人家族が新居を求めるため、郊外の広い区画の開発が行われ、その区画の売り切りを前提に企画していた。この家族は30年過ぎると子供は独立し、老夫婦2人住まいとなる。一方が死亡すると、独居住宅となる。この場合、不動産価格が下がっているため、子供の近くへ引っ越しても、不動産は処分が困難で空き家化しているのが現状である。そのままでは独居となり、種々の問題が発生する。
    買い物難民化
    病院への足に不便する
    在宅介護の困難さ
    図A.2に示すあるデベローパーは世代差を利用した住宅開発ビジネスを立ち上げています。この基本思想は下記の通りです。
    30代の子育て時代の住宅は郊外でも広い住宅のニーズが高い。
    この家族が60歳台になると、子供は独立し、郊外の大きな住居は不要となる。老夫婦は駅の近くのアパートに住むと生活が容易になる。買い物や医者へのお出かけに駅近くは便利である。
    そこで住宅開発者は駅近くにマンションを建て、郊外の住人である老世帯の移動者を受け入れる。老世帯はご近所の老世帯一同が引っ越すので、友達関係が継続できる。老後の夫婦は街中の買い物の便利性、医者通い便利性で小部屋住宅でも老後を楽しみが増える。更にこの友達関係継続は工夫することで新しいコミュニティができ、向こう三軒両隣が復活する。小さな幸せを買うことができる。
    そこで開発業者は老人向け住宅を街中に建て、老人の入居を進める。この場合は郊外の自宅を引き取ってもらうために、新居に安く入居できる。
    新しい30歳台の家族は郊外の一軒家が子供の育成にとって好ましいと考えている。そこで住宅開発者は老所帯から購入した郊外の住宅を、現代向きにリフォームして、新築より安く提供する。今の若者は新築より安価なリフォーム住宅を好む。
    一度この循環ができると新しいココミュニティが日本中の各地でつくられ、世界の人々がうらやむ持続可能性を持ったコミュニティーが評価され、日本で暮らす人々が増えることになる。

    A-3 「情報通信(ICT)産業と他産業」との事例
大震災後の東北メディカル・メガバンク計画はA-3のよき事例となります。
  関係者は医療機関、診療所、薬局、介護施設、その他の機関
  今回のプロジェクトは宮城県医師会、東北大学、宮城県が一体となり、2011年11月宮城医療福祉情報ネットワーク協議会が発足し、石巻医療圏、気仙沼医療圏において、地域医療情報連携基盤の構築が進められている。
  既得権で固まった医療関係者がゼロベース発想で利用者のための施設と施設運用ができることは、震災の成果といえる。この運動が全国的に広がるコトが望まれている。これで世界的に見て最先端システムを構築できる。
    A.3 東北メディカル・メガバンク計画
  合理的で最先端な医療施設は今後新興国へのシステム輸出の対象となる。

    A-4 「国内と海外の垣根をとる」共通の視点という融合
  1 ) 情報通信産業の国際競争力
日本の情報通信産業の国際競争力は世界18位とますます低下しています。国内の生産額は85.4兆円でGDPの9.2%です。アジアではシンガポール2位、です。台湾11位、韓国12位
  2 ) プラットフォーム(PF)の構築がもたらす経済効果
デジタル化された情報(コンテンツ)の流通・連携をうながすPFの構築は既存産業のコスト低下、新産業の創出を促進します。業態を超えたサプライチェーンの構築や効率的な需給マッチングを可能とするインターネットエコノミーが進化していくと、日本経済全体に与える影響はきわめて大きくなります。
  3 ) 日米の情報通信関連投資の比較(この20年間)
    米国は次の飛躍に向けた戦略的投資
    日本のICT投資は主にコスト低減投資であった
  4 ) ASEAN諸国は2015年までに域内統合を目指す。
    グローバル市場を見ると、欧米先進国のみならず、新興国を中心にブロードバンド網の整備が進んでいる。
    世界銀行のレポートによると、固定電話や携帯電話の普及率が10%上がると、新興国GDP成長率0.4~0.6%上昇する。ブロードバンドの成長率が10%上昇すると、成長率は1.2%まで上昇する。
    2010年10月にハノイでのASEAN首脳会議で[ASAEAN連結性マスタープラン]が採択された。図A.4参照
    総務省はこのASEANの動きに協力し、2010年域内ブロードバンド網の構築を支援する[ASEANスマートネットワーク]を提案。
    A.4 ASEAN諸国は2015年までに域内統合を目指す

    A-5 「官の在り方と民の在り方」の融合
  1 ) 官と民の現実的な間柄
官と民のあり方が日本は特殊です。官は法律をつくり、法律を楯に国家の運営をしています。官は昔から国家は過ちを犯さないという信条で国の運営をしています。大変結構なことです。しかし現実は誤りを犯します。しかし、信条が先に立つため、過ちを認めない習慣ができ、素早く方向転換すれば被害は少なくてすみますが、この習慣のため、永遠に方向転換がでず、不器用な運用をしています。肩の荷を下ろして気楽に方向転換してもらえると、日本再生は楽だと思います。官がプロジェクトマネジメントで仕事をしてもらえると、「PDCA」が活きてきます。そして本来優秀なエリート人材が国をよくしてくれると思っています。官は長い間、マネジメントを統治と解釈しています。現在の変化の早い時代は、くるくる変わるマネジメントが求められます。その場合は異業種のエリートを集めて、方向を決めるコトが重要と思っています。
    実行したコトへのPDCAがないと進歩がなく、正しい方向が見えてこない
    経験のないことは議論し、考え、実行し、誤りを修正することで目標が近づいて来る
    これを実行したいならば全てをプログラムマネジメントで実施するとよい
既得権益者は努力をして更に大きな既得権益を勝ち取ることを考える。(もうけてから取る)
    上記1,2、3)の行動により、日本は世界で最先端になれる。
この問題はアベノミクス国家戦略特別区で実施しているからそちらに任せる。

  2 ) 新しい官と民の姿
図A-5 Y市中小企業と住民のための自立型プラットフォーム機構
本PF構築の初歩的な動機
    Y市PF構築NPO(仮説)の設立
    老人ホーム建設業者(民間)は老人ホーム建設の種々のノウハウを保持者で、このノウハウを活かして、老人ホームオーナー、老人ホーム運営者との交流を深め、安くて、快適な老人ホーム建設、運営に努力している。
    Y市PF責任者はPF構築のジェネラルマネジャー的存在である。
    このPFは時々イベントを行い、老人ホーム入居者家族の見学、共同イベントを通じて、より高い機構の構築を目指している。
    このPFには別の職業の集団があり、別の共同イベントを行うことを進めている。このグループが経営的にも、利用者の満足を高められるときは、県内への普及、全国展開、更にグローバル展開を望んでいる。
    A.5 Y市中小企業と住民のための自立型プラットフォーム(PF)機構


以上

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