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「日本再生“アベノミクス”を成功させるために何が必要か」 (6)
脳内改革が求められている (6)

東京P2M研究会 渡辺 貢成: 9月号

A. 先月はアベノミクスの戦略的背景を説明してもらった。
アベノミクスは3つの視点で捉えると理解しやすいという話があった。
  Ⅰ. 20世紀型ビジネス成功の視点
  Ⅱ. グローバリゼーション型ビジネスの視点
  Ⅲ. 21世紀型ビジネス成功の視点 『成熟社会的空間』+『電子・異種私の融合的空間』
  で、成功のカギはⅢ.21世紀型ビジネスを創りだせるかという点が結論的であった。しかし21世紀型は部分的にしか経験されていないので、今月皆からの話を聞き議論したいと思う。
D. 先月のEさんの発想について私の考えを述べます。
Eさんの解説はわかりやすく、アベノミクスの本質は何かを考えさせてくれました。そこでEさんの話を受け入れ、少し修正しました。下記につき私なりの解釈をさせていただきます。
  Ⅰ. 20世紀型ビジネスモデル(BM):『地理的・物理的空間(実物経済)』の視点
  Ⅱ. グローバリゼーション型BM:『電子・金融的空間(ヘッジファンド経済)』の視点
  ⅢA. 21世紀型AタイプBM:『電子・異業種融合的空間(プラットフォーム経済』
  ⅢB. 21世紀型Bタイプシステムモデル:『成熟社会的空間(持続可能性経済社会)』
  解説1: 20世紀型BM(ビジネスモデル)と21世紀型BMに分けた点を評価します。その理由をお話しします。アベノミクスが意図している成長路線は基本的に20世紀型BMと思います。これは従来通りグローバル経済社会での競争になります。日本は基本的にエネルギーと食料輸入に見合う輸出が必要です。大企業がこれを支えてきました。日本経済の10%程度です。現在は原発事故による石油への切り替えでその額は増えます。アベノミクス実施以降大企業の収益がよいから成長路線は万々歳と考えることはできません。この点の指摘は後述します。
  解説2: 21世紀型BMを加えたことを高く評価します。今従来にないパラダイムシフトが起こっています[1]。その領域はGDPの70%を占めるサービス業で起こっています。21世紀型BM(Aタイプ)は新しいニーズにイノベーショナルな異業種融合の形で伸ばせるものと考えます。この新しいBMはまず国内で成功させ、次に小規模ニュービジネスとしてグローバルに進出するもので、リファインされた内容が日本人のDNAを活かしたものとして世界の評価を高める工夫がなされます。
  解説3: Eさんと私の発想の違いは21世紀型にBタイプSM(システムモデル)を入れたことです。20世紀型は「すべてのシステムは収益を伴わないと持続可能性が保てない」という発想でした。しかしⅡ.グローバリゼーション型電子・金融空間BMは今のところ持続可能性に欠陥があります。資本家は富の集中に熱心で、中間層への配分を低くしています。また、利益の投資を地球温暖化防止、公害対策に使うことをしません。それは国民国家が行う上記の政策実施を必要としていないからです。中間層の繁栄なしに景気は循環しません。また中国はなりふり構わず金もうけに走り、公害対策は眼中にありません。米国も温暖化防止に協力的でありせん。このままでは30年後には人間が住めない地球になると「2052今後40年後のグローバル予測」は警告を発しています。[2]

アベノミクスはその対策として、原始社会的発想を取り入れ、その成功を世界的に広めるためのBタイプモデルを提案します。電子・金融空間BMが持続可能性をもつシステムに戻ればBタイプシステムモデルも持続可能性を重視したBMに変わる可能性はあります。
以上が私の提案する修正点です。

ただ、アベノミクスをグローバル経済の厳しい試練の中で成功させるには、大きな困難に遭遇します。どのような困難を乗り切るかを国民は理解しなければなりません。
ここに日本が実行するべき重要項目を提案させてください。

2010年頃から将来予測をする出版物が数多く出現しました。その予想の多くは日本を衰退する国とみなしています。[2] [3] [4] [5]
 原因の第一:アベノミクスを発表するまで、日本は20年間グローバリゼーションに対する戦略を出していません。それはグローバリゼーションを戦略的経済拡大の機会と捉えず、各企業に対策をまかせたため、企業は経験のないグローバリゼーションを慎重にマイナス要因を列記し、リスクの大きい案件と考え、経済拡大の機会を逃した日本の対応を低く評価したと思います。
 第二は世界中が回避したいと願っているデフレ政策を財務省が長年採用し、円高をまねいたことで、日本の政策に対するグローバル経済界の評価が低いことです。
米国の著名な経済学者ポール・クルーグマンの著書「グローバル経済を動かす愚かな人々」1999年[6]で『日本経済の何がおかしいのか?』の中で下記指摘した。
  日本のエリート(政策決定関係者)は金融部門の弱さ、過剰な規制、競争の不足、企業の東南アジアへの生産移転等を列挙し、そこから問題解決をしたいと考えている。日本は多くの問題を抱えていると言っているが、問題を抱えない国があるだろうか?問題は意外に簡単である。経済の効率性の悪さではなく、供給過剰で需要不足なだけである。根本的な問題の摘出と、勇気ある決断が求められている
  勇気ある決断とは、日本の消費者は収入の相当部分を貯蓄に回している。これに対し日銀はやるべきことはやりつくしたと匙を投げている。しかし、日銀が国債を買い取れば社会に金が出回り、インフレ気味になり、物価は上昇し、消費者にモノを買う心理が働き、需要が増す可能性はある(世界の常識)。これに対する日本の財務相は「1990年代のバブル発生の失敗から、日銀の国債買い取は禁止している」と反論。「10年前のバブルとは現在の社会情勢が違うのにそれが理解できていない」と指摘、揶揄している。

 アベノミクスはクルーグマンの指摘から14年たって、この政策に転換しました。これはほんの一例です。日本は単にアベノミクスを実行すれば、再生できるのではなく、過去の政策の誤りを理解し、アベノミクスを成功させるための成功因子は何かを明確にし、その政策を組織が実行できるレベルに達しているか、そこまで検討しないと成功は難しいと思います。何故なら過去にできなかった問題に挑戦するからです。具体的な例としては、組織に世界的に優秀な人材を採用し、政策を再検討し、社会情勢の変化に対しては柔軟な対応をする必要があります。現在の組織のままでは、グローバル人材不在のままでグローバル経済に立ち向かうことになります。

 今回提案した21世紀型AタイプBM,BタイプSMは画期的なものであり、日本人持つDNAによる成功事例が出てきそうです。私たちは私たちのDNAを信じるとともに、組織能力を高めるための人材登用で多くのアイデアを取り入れ、素早い意思決定を行うことで日本のサバイバルを実施したいと考えます。
 そのためにいくつかのクリアしてほしい条件を提起します。

  第一の条件:グローバル社会で生き延びるための国家戦略を示し、官が継続的に実施できる体制を構築すること
  理由1: グローバル経済の各国の将来予想が書かれています。すべての本で日本が衰退すると予測しており、逆に韓国の評価が高い韓国が今日の業績を上げているのは、日本の大きな支援があり、これをうまく活用してきたことも要因の一つですが、韓国は大陸と陸続きの関係にあり、従来から中国の属国的存在で、その存在を維持するために地政学的戦略を常に考えてきました。事実北朝鮮の侵入により朝鮮動乱が起こりました。したがって戦後一貫して国家戦略がありました。その内容は地政学上グローバル社会で生きていくという方針です。
  方針1: 教育:資源の少ない国が生き延びる最大の効果ある政策は教育です。知的資源という財産を増やす政策です。
  方針2: グローバル社会と付き合う:英語教育の重視、国際機関に人材を派遣する。
新興国へ人材を派遣し、自国との信頼性構築に努める
  方針3: 各国とできるだけ平等な経済協力関係を構築する
  「21世紀の歴史」[5]の著者ジャック・アタリは次に台頭する国として韓国を高く評価し、2025年にはGDPが2倍になる。韓国は新たな経済的・文化的モデルとなり、その卓越したテクノロジーと文化的ダイナミズムによって世界を魅了する。アジア諸国をはじめ日本でさえ韓国モデルを「成功するためのモデル」としてこぞって模倣するようになる、と高く評価しています。いろいろとご意見があると思いますが、日本がこのグローバリゼーション下の世界で生き抜くために参考となることを私たちは理解し、参照するべきと思います。

  理由2: 日本は20年間も戦略を世に示さなかった。日本人の持つ素晴らしさ(DNA)を国家エリートは理解し、戦略としてグローバル社会で活用することを考えほしいものです。

   海に囲まれた日本は第二次大戦まで国が占領されたことがなく、きわめて恵まれた国でした。したがって地政学というが概念を国民が持つ必要がありませんでした。戦後の日本は米国のまねをし、オリジナルより優れた製品をつくることで勝利を収めてきました。日本は昔から世界の東の果てでしたが、好奇心が強く、世界中の製品、文化を高値で輸入していました。面白いことに日本人は輸入品を日本人的感性でより美しいものに仕上げ、それらを鑑賞することを遊びとしていました。
 戦後欧米かぶれの日本人知識者は単に日本を「モノまね」文化と酷評してきましたが、日本人は物まねを洗練化し、完成させて、きわめて高い文化の持ち主になっています。残念ながら明治時代は欧米の文明に追従することに忙しく、江戸時代の文化を劣ったものと評価しました。そのため江戸期の美術品が二束三文で欧米に流出されました。特に米国はこの美術品を高く評価し、丁寧に保存してくれました。おかげで私たちは江戸期の文化を鑑賞できるようになりました。日本文化に誇りを持つべきです。
 しかし、日本人は常に謙虚で世界一になった時点でも、遅れた国民であると日本のエリートは思い続けてきました。そのため、自国の有利さ(DNA)を活用する戦略をつくることができませんでした。それは笑い話になりますが、地政学がないために官庁に国家戦略を考える部署(戦前は内務省の管轄)がないのです。其のために次の手を打つことができませんでした。
 
 一方長年製造業世界一であった米国は日本の製造業に敗れたショックは大きく、日本人に異常な脅威を感じていました。米国再生のための国家戦略としてのマルコムボルトリッジ賞が設定し、企業経営をIT化で強化する戦略を実行しました。米企業はIT化で意思決定のスピードをあげ、日本の垂直統合型量産システムに対抗する方式として、グローバル社会から部品を求め中国・台湾等の新興国で組み立て生産させる水平分業型量産システム方式を確立し、日本の製造業に対するリベンジを果たしました。そしてこの方式で新興国を成長させるための大型投資を実行しグローバリゼーションという経済拡大路線を本格化させ、新興国の製造業を強大にし、投資収益の増大化に成功しました。

 日本はこの戦略に対抗する戦略を企画できず、大部分の量産型家電企業は壊滅的な打撃をうけました。しかし、今でも日本人の持つ商品開発能力は高く、洗練された製品を提供する能力は衰えていません。反省すべき点は「モノづくり技術:日本」に集中しすぎ、マーケット開発に対する新しい工夫を忘れていました。残念ながら新興国の繁栄の基本的概念は「松下幸之助の二番手商法」でした。本家のパナソニックが顧客第一を捨て世界一高級商品を世界に提案し、成長力のある新興国市場で敗退しました。しかし現在でも日本人の持つ開発力のDNAはこれからの生き残り戦略に貢献できること信じてアベノミクスにまい進する必要があります。

  理由3: 官僚的マネジメントは開発を阻害する
   空白の20年を破り、アベノミクスは日本国の大きな戦略として世界に披露しました。戦略の大切さは企画力も評価の対象になりますが、戦略実施に向かって国民が団結することで大きな力を発揮することができます。この際既得権益者がアベノミクスに協力して、その権益の拡大を国内からグローバルに広げることを願っています。優れた日本文化と日本製品を広めるという高邁な気持ちになってもらいたいと思います。
 これまで官が支配する研究開発は残念ながら大きな実績を上げていません。それは官が民より上位であるという概念が先にあります。私たちが官の補助金で行うプロジェクトは官の発言を逆らえないため民間は二重の業務をします。官向けの報告書と、プロジェクト向けの実質的報告書です。それも2から3年で官はポストを変えていきます。悪意はないのですが、方針が変わります。自分の金でなく税金だから方針を変えられるのです。開発は官が管理しても開発者が納得のいくものでないと成功しません。

 開発とは違いますが保育園の問題があります。保育園はデフレ下でも需要があります。しかし、国民の要求より自分たちが決めた規格が優先し、保育所の拡大に熱心でありませんでした。アベノミクスが女性の職場進出を叫んでも実行できません。介護人材が不足で、外人の介護師を増やす政策を出しています。しか日本語での試験の困難さを改善しない限り問題解決になりません。国際観光ガイド試験のむずかしさ、海外の観光客をガイドする人が不足しています。官は自らがつくった手段(試験問題)を固守するために、目的が達成されないのです。政策は目的達成が主であり、目的達成のために工夫することが大切です。

アベノミクスというグローバリゼーション下の事業は新しい変化に対し、組織も変化する速さが必要です。80%以上の関係者間の心が通いあうと組織は活発になります。支配するマネジメントから、協力するマネジメントに変わっていただきたい。

  第二の条件:成長路線の吟味『ダブル・リバース・エンジニアリング手法』
  Ⅰ. 20世紀型ビジネスモデル(地理的・物理的空間)実物経済領域
  アベノミクスは従来の日本国政府には珍しく、漸進的で、従来にない有能なスタッフが企画しているように見受けられます。
  成長路線は、Eさんご提案のⅠ.20世紀型ビジネスモデルの中にあると思います。しかし20世紀型ビジネスモデルは日本の伝統ある製造業としての自動車産業を除いて 家電量産品への進出は困難です。
 しかし最近は新興国の消費者の収入レベルが上がり日本の成熟ビジネスを伸ばす余地が出てきました。ここでは「モノを売る」という発想の転換が必要です。消費者が求める「価値をさがしてビジネス」につなげることです。私はこれを20世紀型ダブル・リバース・エンジニアリング産業と命名しました。この前提条件は消費者の懐に入り込む戦略です。現地に有能な人材を派遣することです。日本の消費者に人気のある商品を現地に合わせてリエンジニアリングすること、または現地で評判を得たものを日本に持ち帰り再度日本に売り込むという往復のリエンジニアリング(企画して相手に合わせて変化させながら目的を達成させる生きた手法)をすることで倍の収益をあげること。
  インフラビジネス:
安倍総理は新興国のインフラプロジェクトの受注を熱心です。インフラ整備は価値の高い仕事です。問題は受注案件で収益を上げられる研究が必要です。
 日本人はお人好しで、外人を使うのが下手です。エンジニアリング会社の成功事例を勉強する必要があります。また、発想を転換して、最初のインフラビジネスで収益をあげられなくても、相手国からの評価が高まれば、その損を投資という言葉に転換し、この投資を無駄にしないアフターサービスビジネスを継続することで、次回から利益が舞い込む手法も採用してください。長期的な信頼が最も重要です。

  Ⅱ. 『グローバリゼーション型(電子・金融空間)ビジネスモデル』
 この分野は米国に勝てる見込みはありません。何故なら、米国はドル紙幣を大量に印刷し、新興国という新しい需要に見合う金の流れをつくってきたからです。ただ、この空間の利用で世界中の富が国際金融資本家に集中しています。資本主義の最大の欠陥は富の分配がうまくいかないことです。富が分配されないと、景気循環が順調に進まないからです。
 結論的にいいますと、持続可能なシステムになっていないからです。国際金融資本の政策は一見大成功に見えますが、新興国の経済が輸出主導であり、国内消費が思ったほど伸びていません。其のため金余り状況がつづきます。この状況は不動産投資に金儲けの矛先を変える危険性があります。この領域には近づかないことが肝要でしょう。

さて、私たちが求めるビジネスモデルは持続可能性の追求です。この問題に取り組みます。

A. Dさん。説明ありがとう。アベノミクスの企画が良くても成功するには組織能力が現在以上であることの必要性はよくわかった。
ここまで20世紀型のビジネスモデル実施とその奥深い戦略・戦術の必要性が理解できた。長くなったので来月は21世紀型の話をしてほしい。

以上

参考文献
[1] 富山和彦著「なぜローカル経済から日本は蘇るのか」
[2] ヨルゲン・ランダース著「2052」-今後40年のグローバル予測―
[3] ロバート・J・シャピロ著「2020」-10年後の世界秩序を予測するー
[4] 英「エコノミスト」編集部「2050年の世界」
[5] ジャック・アタリ著「21世紀の歴史」
[6] ポール・クルーグマン著「グローバル経済を動かす愚かな人々」

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