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「日本再生“アベノミクス”を成功させるために何が必要か」 (5)
脳内改革が求められている (5)

東京P2M研究会 渡辺 貢成: 8月号

A. 先月は丸亀商店街と老後を考えた不動産デベロッパーの話は現代的で面白かった。
今月は外に何か説明してくれる人はいないか。
E. 今月は事例をお話しすることはできませんが、私なりに重要な事実に気が付きましたので私の見解を聞いてください。
私たちがアベノミクスを考えるとき3つの視点で考える必要があると考えました。
  Ⅰ. 20世紀型ビジネス成功の視点
  Ⅱ. グローバリゼーション型ビジネスの視点
  Ⅲ. 21世紀型ビジネス成功の視点(成熟社会型ビジネス)
  です。
A. 発想がユニークで面白そうだが、世紀で発想が違うということが言えたら便利だな。
E. 現在アベノミクスが発表されてから、有名先生方がいろいろと見解を述べています。一つ一つを取り上げてみるとなるほどと思われますが、並べてみるとどれが正しいか、素人にはわかりません。
そこで一般人にとってはわかりやすい発想がないかと考え、ビジネスの型で整理してみました。下記に示すⅠ型、Ⅱ型、Ⅲ型です。そしてそれぞれを定義してから、各先生方のビジネス方式を3つの型に当てはめることを考えました。PMAJのこのオンラインはグーグルのご担当が読んでいることがわかり、慎重に理論構成する必要を感じています。そこで各型を定義する際、二つのことを考慮しました。立派な学者の説を取り入れた。第二が現状の日本という成熟社会で、その型のビジネスが成り立つかを定義に加えました。
Ⅰ.とⅡ.は水野和夫著「資本市議の終焉と歴史の危機」から引用しています。
  Ⅰ. 20世紀型ビジネス成功の視点
20世紀型ビジネスとは「地理的・物理的空間」の中で行われる実物経済でのビジネスです。実物経済とは現物で売り買いしている、いわば健全な経済で、私たちが日常経験してきたビジネスです。
しかしこの型のビジネスは先進国で頭打ちとなり、投資が途絶えている状況です。それは日本の国債の金利が2%以下(ゼロ金利といわれています)を20年間続けていることでわかります。若しある10%の利益が出せるビジネスがあれば5%の金利でも企業は喜んで借ります。ゼロ金利とは利益を出せる産業が飽和していることを意味します。これは日本だけでなく欧州の先進国にも当てはまります。
  Ⅱ. グローバリゼーション型ビジネス成功方式
    日本の製造業の需要低減とバブルの発生。
日本の製造業が世界一になりましたが、需要がなくなりました。そこで市場は金余りとなりました。結果、日本の銀行は不動産を投資の対象としました。日本の土地は高度成長で年々高くなり、土地は高くなるという神話が日本で生まれていました。結果として資産バブルがおこりました。
    ソ連崩壊と国際金融資本の帝国主義化
この時期ソ連は崩壊し(1991年)、米国に対抗する勢力がなくなりました。クリントン政権のルービン財務長官(1995年)は世界中のドルを一元的に米国に集中させ、成長率の高い新興国への投資を考えました。
しかし、20世紀型の実物経済では新興国が欲する巨額の資金をねん出できないため、新しいビジネス空間すなわち「電子・金融空間」を創出しました。デリバティブという投資のための金融証券を発行し、実質ドルの50~100倍のレバレッジ効果を認めたのです。この結果巨額の投資を新興国に提供し、同時に新興国の産業が発展できるように技術・人材も提供しました。
    グローバリゼーションの正体:「電子・金融空間」創設X「新自由主義」の確立
これがいわゆるグローバリゼーションの正体です。これで新興国は急速に工業化に進み、米国金融業の利益シェア(全産業中)は1940年~1980年で10%以下であったものが、1990年から2013年の平均が20%強で、2002年は30%に達しました。
A. 米国は大成功ということかね。
E. その通りです。米国はこの新しい資本主義を新自由主義と呼び、政府による金融規制より、金融を市場にゆだねることで資本配分が正しくなるという市場原理主義を採用しました。20世紀型の金融は商業銀行の信用創造機能によってつくられ、その原資は庶民の貯蓄という労働によって得たマネー貯蓄でした。電子・金融空間の主役はレバレッジを大きくかけられる投資銀行で、「電子・金融空間」では巨額の資金がボタン一つで国境を自由に越えて動かすことができるようになりました。
  グローバリゼーションの問題点:
  i . 労働者の賃金の低下
問題が四つあります。第一は市場に資本配分を任せていると、配分が資本中心となり、労働分配率が低下するという問題です。商業銀行が主役の場合は労働分配率が高いことが資金が豊富になりますが、投資銀行は労働者の貯金をあてにしないので、労働者の価値は競争相手になる新興国の労働者賃金に近づく方向で分配され、実質的に資本の取り分が増えるようになりました。
  ii . 資本へ富が集中する
第二の問題は上位1%の人に富が集中し、労働者の賃金はさがり、20世紀で構成された中間層がいなくなるという問題です。
  iii . 金余りとなりバブルが発生しやすくなる。
第三の問題です。「電子・金融空間」は容易に需要以上の金を市場に提供します。ここで必然的に起こるのは資産インフレというバブルが起こることです。クリントン政権のローレンス・サマーズ財務長官は「3年に一度バブルは生成し、崩壊すると予言しています。
この第三の問題が深刻なのはバブルの生成過程で富が上位1%に集中します。彼らが市場操作できるからです。最高値で売りに入ると、バブルは崩壊し米国経済は破綻します。ところが前例として(日本が実施した)国家による公的資金を注入し、巨大金融機関は救済されます。一方その負担はバブル崩壊でリストラに合う中間層に向けられるということです。
  iv . 国際独占資本が国民国家を誘導することが行われる
四つ目の問題は国際独占資本の動向です。彼らは税金のない国に籍をおけば、税金も払わず、国家の危機を感じることもなく、中間層を豊かにする義務もないということです。
結果的に国際独占資本が国民国家を都合よく操る状況が生まれるということです。
A. この問題は大きな問題だな。私から二つの質問がある。
第一はアベノミクスとはどんな視点で実施されているのか。第二の質問はⅠ.Ⅱ.でないⅢ.のビジネスは救世主になるかという質問だ。
E. アベノミクスは何型のビジネスを狙っているか
アベノミクスに対する批判も多々ありますが、停滞した日本経済に活気を与えたことがアベノミクスの最大の効果です。まず、これを認めることが肝要です。
次に大切なことは将来起こりそうな問題点を考え、それらの問題をクリアしてもらうことが私の本意です。
  アベノミクスの戦略は20世紀型ビジネス戦略とみなせる。
一見金融緩和で「電子・金融空間」に見えますが、実施していることはⅠ.の視点です。成長戦略が目的のテーマだからです。20世紀型のビジネスを推し進める考えです。
先に言い忘れましたが、米国の戦略は「電子・金融空間」で収益をあげるⅡ型ビジネスですが、新興国が現在行っているビジネスは20世紀型のビジネスです。しかし先進国より巨大な規模の製造工場が中国・台湾で活躍しています。先進国が中国へ進出しても競争に勝てる状況ではありません。
では、期待されている成長路線をどこで求めるか重要な課題です。テーマ別に検討を進めることになります。新興国の成長率が下がってきた現在は新興国への進出で成功することは難しいと思います。国内も景気に沸いてはいますが、ゼロサムゲームに沸き返っているようでは成功しません。新しいイノベーションがほしいところです。これがアベノミクスの第一の問題点です。
  アベノミクス第二の問題点は財政政策です。
  国の資産が増えない政策を願いたい
浜田宏一教授も賛成しなかった問題点です。消費税導入を強引に進めた結果、不況対策として財政政策を加えています。過去の事例で行くと、日本の財政政策による投資は民活ではなく、管活が多く、景気回復に役に立っていません。官が運営する施設への投資で経済が回らないことが多く、日本は世界で一番国の資産が多い国で、資産が630兆円あります。GDPに対する各国の資産比率は米国20%、イギリス32%、フランス37%、ドイツ35%に対し、日本は83%です。
  初期投資より運用・保守費が高くなる
東日本災害の被害者の目先の職住問題より、100年先の防潮堤建設に巨額な金を投入する計画になっています。岩手県は2700億円の投資を考えています。この費用を国が出してくれるかもしれません。しかし保守・運用費をいれると、生涯価格は建設費の3倍から4倍になります。3倍として残りの5400億円、年ベースで54億円を県が捻出できるかが問題になります。
  今企業の不動産投資が外資も含めて活発化しています。金融緩和は結果として不動産バブルを引き起こる可能性がふえます。豊富な金を持つ国際金融資本は目いっぱい値を上げて後、売り逃げします。外資に食い物にされないことを警告しておきます。アベノミクスが失敗させないためです。
  最重要課題はⅢ.21世紀型ビジネスの構想
この種のビジネスの展開は今誰もわかりません。グローバルに展開できる大きなビジネスではない気がします。日本のように成熟した社会では『大きなテーマでなく、小型だが確実で、種類が多い』テーマが健全で将来性があります。これに類する本が数多く出ていますが、すべて部分的に見えているだけです。しかし、日本はこの20年間デフレではありましたが、貿易・資本収支は黒字で推移してきました。ただ、デフレでは国民の元気がなくなること、若者の職場が生み出せないことに問題がありました。その意味では若者が働ける場をつくるということが最優先課題となります。小さくても数がたくさんあればよいと思います。
  Ⅲ.21世紀型ビジネスとは何か(新しく生まれ始めているビジネス)
新しいビジネスは、従来からある社会システムが成熟し、停滞し始めるときにおこります。それはこの停滞に危機感を持ったものが工夫し、新しい空間(ビジネスが動き出せる空間)を開発することで新しいビジネスが生まれます。しかし、現在のところその兆しは見えていませんが、世界で最初に成熟社会に突入した日本の役割ではないかと考えます。21世紀型ビジネスになると思われる出版された本としては谷脇康彦著「ミッシングリンク」、藻谷浩介著「里山資本主義」、「しなやかなあ日本列島のつくりかた」、山崎亮著「コミュニティ・デザイン」、広井良典著「人口減少社会という希望」等多々あります。一つ一つの事例は小さいのですが、この中に新しい芽が出ている気がします。
  新しくないが、今後発展する分野としての規制緩和ビジネス
21世紀型資本主義の確立にとって、とりわけ重要なのは既得権益者が日本再建に向かって力を発揮して頂くことです。20世紀型のビジネスでは成長できない現実があるからです。昔の話になりますが、国鉄がJRに変わるとき、80%の国鉄職員は反対しました。しかし、今のJRを国鉄に戻したいと考えるJR職員は誰もいないと思います。それと同じです。
A. 21世紀型ビジネスはもう少し整理して来月討論したいと思う。
今月号の説明で疑問があれば、来月討議しよう。

以上

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